「――優」

 普段は元気で明るい声なのに。低くて、ゆっくり。柔らかい声が、耳元で囁く。
 ドキドキが、もう、最大限。心臓、おかしくなりそう。

「……オレと、離れてんの…… 仕方ない、の?」
「――――」

 どう答えたら良いのか分からなくて、答えられない。
 ふ、と短く息をつく、北斗。


「もういいや。とりあえず――充電、させて」

 囁く北斗が、ぎゅ、と腕に力をこめて、オレを抱きしめる。
 ドキドキで死ぬことがあるなら、今、死ねそう……。

「――」


 じゅ。じゅうでんって……?
 なんの……?


「すま、ほの……? ごめん、持ってない……」

 かろうじてそう言ったら、数秒後、「は?」と低い声が響いた。

「――え?」
「ん?」

 少し腕が緩んだから、オレは北斗を振り返る。不思議そうにオレを見下ろした北斗と、二人で、きょとん、と、見つめ合う。

「何を持ってないの?」
「……え……充電器……?」

 首を傾げながら、答えたオレに、
 何秒、固まってたかな、北斗。
 ぶはっ、と笑い出した。あははっ、と爆笑してる。

 何をそんなに笑ってるんだろうと思いながらも。

 あ。
 ――キラキラだ。いつもの、太陽みたいな。笑顔。
 よかった、元気そう。
 きゅ、と胸が締め付けられる。

 笑いをこらえながら、北斗は、オレの頭に、ぽん、と優しく手を置いた。

「優を、充電したかったんだよ」
「オレを充電……??」
「……何で分かんないの」

 苦笑した北斗が、ぷに、とオレの頬を優しくつまんだ。

「優が不足してて、死にそうなの」
「――」

 ぽかん、と北斗を見上げる。


「――北斗って……オレが不足するとか……あるの?」

 オレは。確かに、北斗に会いたくて、死にそうだったけど。

「あるに決まってる。オレのパワーの源は、お前なのに。……って、知らなかったの?」
「――」

 今なんて言われた? パワーの源……。

「オレが、パワーの源……なの?」

 オレにとって、北斗は、確かにそうだけど。

「そうだよ。もう九年間。十年目だし」

 ちょっと待って。
 これは。
 ……友情の。好意? なんだろうか。
 恋しまくっているオレには、その境がよく分からない。

 北斗が好きで好きでしょうがない。北斗が言ってくれてるの、すごく嬉しいけど。
 でも――友達の、かな。親友の……? 勘違い、しちゃダメなんじゃ。
 軽い、パニック。なんかどう考えたらいいのか、全然分からない。

 見つめ合っていた目を逸らして、俯いた瞬間。手を掴まれた。
 咄嗟に北斗を見つめてしまうと。

「目、逸らすなよ」

 北斗の瞳が、まっすぐに、オレを捉える。
 北斗しか、見えない。目をそらすなんて、無理だ。
 何も言わないけど、気持ちが伝わってくるみたいで、鼓動がまた速くなる。

 ずっとずっと、好きだった、綺麗でまっすぐな、瞳。
 じわ、と涙が浮かんだ。

「マスク、邪魔」
 耳に触れられて、マスクを取られる。

「優……離れンなよ」
「――」

 つらそうに、寄せられる眉。破壊力が、すごすぎて、息も止まりそう。

「お前がいるから、ずっと、頑張ってこれたの、自分でも分かってる」
「――――っ」

 ぼっと、赤くなる。
 だってそんなの……。

「……そんなの……オレ、のこと……好き、みたい……」

 わぁ……オレ今何言っちゃってるの。なんか、図々しすぎること言ってる……!!

「好きだって、言ってんだよ、オレは」
 頬に触れる、北斗の、優しい手。

「――親友って思ってそうだし……言わずにきたけど、もう無理」

 ぎゅ、と抱きしめられてしまう。