隼人は、ようやくクラスに馴染んできた。しかし、そんな日常の中でも彼の目は常に力弥を追っていた。授業の合間や廊下で偶然見かけるたびに、心の中でこっそりと彼を観察している。
しかし、その「偶然」は多くても、直接話すチャンスはまったく訪れなかった。力弥は三年生だし、何よりクラスも違う。
校内での距離感はあまりにも遠い。隼人は、ただ遠くから憧れの目で追いかけるばかりの日々が続いていた。
「どうすればもっと近づけるんだろう…?」
隼人はそう考える日が多くなった。友達と笑い合いながらも、頭の片隅ではいつも力弥のことがよぎる。
だが、接点を持つきっかけがまったく見つからない。練習している部活も違うし、共通の友人もいない。廊下で力弥を見かけても、隼人はその場に立ち尽くしてしまうばかりだった。
そんなある日、放課後の教室で担任の先生が委員会の選考について話し始めた。
運動会実行委員の募集だという。隼人は最初、特に興味はなかった。
しかし、「運動会」という言葉が出ると、ある考えが頭をよぎった。
隼人が運動会実行委員の話を聞いた瞬間、脳裏にパッと浮かんだのは、体育館で見かけた力弥の姿だった。数日前、体育の授業が終わってからグラウンドを通り過ぎた時、力弥が他の三年生たちと一緒に軽く走り込みをしていたのを偶然目撃したのだ。
汗を流しながらも、力弥はその背の高さと筋肉質な体つきで圧倒的な存在感を放っていた。その光景が隼人の胸に強く焼き付いていた。
「あんな風に、運動会で活躍する力弥の姿を間近で見られたら」
隼人はふとそう思ったのだ。運動会ならば、力弥は当然参加するはずだ。
そしてもし自分が実行委員として関われば、彼をもっと近くで見る機会が増えるのではないか。もしかすると準備段階で一緒に作業をすることだってあるかもしれない。そんな考えが頭を駆け巡り、隼人は内心ドキドキし始めた。
「そうだ、運動会なら力弥に近づける!」
運動会といえば、全校生徒が集まって一緒に盛り上がる一大イベントだ。力弥のような運動神経が良さそうな先輩なら、リレーや障害物競走に出るかもしれないし、もしかしたら応援団なんかで目立つかもしれない。何にせよ、力弥のアクティブな一面を垣間見る絶好のチャンスだ。
「運動会実行委員に立候補すれば、もっと近くで力弥を見ることができるかもしれない!」
その瞬間、隼人の中で何かが弾けた。この絶好の機会を逃す手はないという確信が、彼の胸に一気に湧き上がってきた。
そんな不純な動機で、隼人は運動会実行委員に立候補する決意を固めたのだった。
「立候補します!」
勢いのまま教室でそう口にした瞬間、クラス中がしんと静まり返った。隼人は自分でも驚き、心臓が大きく跳ねたが、もう後には引けない。
先生が他に立候補者がいるかと聞いたが、誰も手を挙げる者はいなかった。それどころか、周囲からは不思議そうな視線が隼人に集まる。
「運動会実行委員なんて、なんであんなのに立候補するんだ?」
というささやきが聞こえてきた。クラスメイトたちはみんな無関心で、誰も手を挙げない。それに加え、担任の先生も
「本当にやるのか?」
という少し困惑した表情を浮かべていた。
「え、ええ…もちろんです」
隼人は口ごもりながらも頷いた。自分が思っていた以上に、運動会実行委員が不人気だということをこの時初めて知ったが、もう引き返すことはできない。
力弥に近づくためのチャンスだという思いが勝っていた。
担任の先生はクラス全体を見回しながら、
「じゃあ隼人がやることで決まりだな」
と小さくため息をつき、そう宣言した。教室は再びざわついたが、誰も反対しない。隼人はクラスメイトたちの無関心な反応に少し戸惑いながらも、
「なんとかなるだろう」
と楽観的に考えた。そして、力弥との接点を夢見て、運動会実行委員としての第一歩を踏み出すことになった。
だが、この瞬間、隼人はまだ気づいていなかった。運動会実行委員が「魔の実行委員」として恐れられ、毎年のように実行委員が次々に脱落するほど過酷な役割であることを。
隼人は、この決断が思った以上に困難な道へと繋がっていくことをまだ知らなかったのだった。
しかし、その「偶然」は多くても、直接話すチャンスはまったく訪れなかった。力弥は三年生だし、何よりクラスも違う。
校内での距離感はあまりにも遠い。隼人は、ただ遠くから憧れの目で追いかけるばかりの日々が続いていた。
「どうすればもっと近づけるんだろう…?」
隼人はそう考える日が多くなった。友達と笑い合いながらも、頭の片隅ではいつも力弥のことがよぎる。
だが、接点を持つきっかけがまったく見つからない。練習している部活も違うし、共通の友人もいない。廊下で力弥を見かけても、隼人はその場に立ち尽くしてしまうばかりだった。
そんなある日、放課後の教室で担任の先生が委員会の選考について話し始めた。
運動会実行委員の募集だという。隼人は最初、特に興味はなかった。
しかし、「運動会」という言葉が出ると、ある考えが頭をよぎった。
隼人が運動会実行委員の話を聞いた瞬間、脳裏にパッと浮かんだのは、体育館で見かけた力弥の姿だった。数日前、体育の授業が終わってからグラウンドを通り過ぎた時、力弥が他の三年生たちと一緒に軽く走り込みをしていたのを偶然目撃したのだ。
汗を流しながらも、力弥はその背の高さと筋肉質な体つきで圧倒的な存在感を放っていた。その光景が隼人の胸に強く焼き付いていた。
「あんな風に、運動会で活躍する力弥の姿を間近で見られたら」
隼人はふとそう思ったのだ。運動会ならば、力弥は当然参加するはずだ。
そしてもし自分が実行委員として関われば、彼をもっと近くで見る機会が増えるのではないか。もしかすると準備段階で一緒に作業をすることだってあるかもしれない。そんな考えが頭を駆け巡り、隼人は内心ドキドキし始めた。
「そうだ、運動会なら力弥に近づける!」
運動会といえば、全校生徒が集まって一緒に盛り上がる一大イベントだ。力弥のような運動神経が良さそうな先輩なら、リレーや障害物競走に出るかもしれないし、もしかしたら応援団なんかで目立つかもしれない。何にせよ、力弥のアクティブな一面を垣間見る絶好のチャンスだ。
「運動会実行委員に立候補すれば、もっと近くで力弥を見ることができるかもしれない!」
その瞬間、隼人の中で何かが弾けた。この絶好の機会を逃す手はないという確信が、彼の胸に一気に湧き上がってきた。
そんな不純な動機で、隼人は運動会実行委員に立候補する決意を固めたのだった。
「立候補します!」
勢いのまま教室でそう口にした瞬間、クラス中がしんと静まり返った。隼人は自分でも驚き、心臓が大きく跳ねたが、もう後には引けない。
先生が他に立候補者がいるかと聞いたが、誰も手を挙げる者はいなかった。それどころか、周囲からは不思議そうな視線が隼人に集まる。
「運動会実行委員なんて、なんであんなのに立候補するんだ?」
というささやきが聞こえてきた。クラスメイトたちはみんな無関心で、誰も手を挙げない。それに加え、担任の先生も
「本当にやるのか?」
という少し困惑した表情を浮かべていた。
「え、ええ…もちろんです」
隼人は口ごもりながらも頷いた。自分が思っていた以上に、運動会実行委員が不人気だということをこの時初めて知ったが、もう引き返すことはできない。
力弥に近づくためのチャンスだという思いが勝っていた。
担任の先生はクラス全体を見回しながら、
「じゃあ隼人がやることで決まりだな」
と小さくため息をつき、そう宣言した。教室は再びざわついたが、誰も反対しない。隼人はクラスメイトたちの無関心な反応に少し戸惑いながらも、
「なんとかなるだろう」
と楽観的に考えた。そして、力弥との接点を夢見て、運動会実行委員としての第一歩を踏み出すことになった。
だが、この瞬間、隼人はまだ気づいていなかった。運動会実行委員が「魔の実行委員」として恐れられ、毎年のように実行委員が次々に脱落するほど過酷な役割であることを。
隼人は、この決断が思った以上に困難な道へと繋がっていくことをまだ知らなかったのだった。