「裕ちゃん、起きて。起きないとキスするよ」
軽く身体を揺さぶられて、ゆっくりと瞼を開く。雅人と目が合ったと思ったら、すぐにキスされた。
起きたのに、なんて文句は言わない。いつものことだからだ。
「おはよう、雅人」
「うん。おはよう」
幸せそうに笑いながら、雅人が俺の寝癖を整える。昔より増えたスキンシップにも、もうかなり慣れてきた。
雅人と再び付き合うようになって、約2カ月。俺たちの関係は変わったような、変わっていないような感じだ。
「もうすぐ冬休みだね」
俺が着替えるのを見ながら、雅人がベッドに腰を下ろした。凝視されながら着替えるのは少々恥ずかしいのだが、文句を言うほどではない。
雅人にされて嫌なことって、俺、ほとんどないんだよな。
「冬休み、どっか行くか?」
「初詣とか? でも混むよね」
「ああ、絶対混む」
混むのを覚悟で行ってもいいけれど、新年早々外で寒い思いをするのも嫌だ。それに冬休みは短いから、できる限りのんびり過ごしたい。
「じゃあさ、裕ちゃん。また俺の家に泊まりにくる?」
「誰もいない日でもあるわけ?」
「うん」
照れたような、それでいて緊張したような顔で雅人が微笑んだ。
「行くわ」
今度の泊まりに雅人がどこまで期待しているのかは分からない。でもなにを求められたとしても、雅人なら別にいい。
「ねえ裕ちゃん。裕ちゃんもそろそろ、俺に恋してきた?」
「……さあ。でも、お前が俺以外に恋をするのは絶対許せないって気持ちにはなってきたな」
「それ、もう恋って呼んでもいいんじゃないの」
雅人が楽しそうに笑う。俺も曖昧に笑って、雅人の手をぎゅっと握った。
◆
「で、何の話なんです結局。会長にもさんざん惚気を聞かされてるのに、穂村先輩まで私に惚気話ですか?」
俺の話を聞くなり、金城はわざとらしい溜息を吐いて顔を顰めた。
文化祭の練習が終わっても、俺と金城の交流がなくなることはなかった。普通に友達になったのである。
「だって、お前にしかこの話はできないし」
俺と雅人が付き合っていることは、まだ金城にしか言っていない。別に言ったっていいのだけれど、変に茶化されたくないから。
渉や智哉は薄々感づいているのかもしれないけれど、今のところは黙ってくれている。
「会長の塾がある時しか誘ってこないのもむかつきます」
「しょうがないだろ」
金城はほぼ毎日、遅くまで学校に残っている。女子剣道部が終わるのを待って佐々木と一緒に帰るためだ。
だからこうして、たまに学校から少し離れたカフェで一緒に時間を潰すようになった。
「本当に羨ましいです。私だって早く付き合いたいのに。あっ、先輩、ちゃんと茜ちゃんに私のいいところ言ってくれてます?」
「言ってる言ってる。言い過ぎて怪しまれてるくらいだって」
今までほとんど喋らなかった佐々木とも、最近は少しずつ喋るようになった。大半が金城の話題だ。
俺が思うに、佐々木もかなり金城のことを気にしている。さすがに好意の種類までは、俺には分からないけれど。
「付き合うのは先輩たちが先でしたけど、結婚は絶対私たちが先にするので。覚悟しててください」
「なんの覚悟だよ」
「式に参列する覚悟です」
私と茜ちゃんの結婚式は……と金城が妄想を始める。俺に対してはもう何を言ってもいいという判断をしたらしい。
佐々木との妄想を話す時のこいつ、マジで楽しそうなんだよな。
「ちょっと先輩、ちゃんと聞いてます?」
「聞いてるって」
「ならいいですけど」
金城の言う通り、恋はすごく楽しいものかもしれない。最近はそんな風に思えてきた。
お前と恋をするのが楽しい。そう雅人に伝えたら、あいつはどんな顔をするんだろう。
想像するだけで幸せな気持ちになってしまった俺は、もしかしたらもう、雅人に恋をしているのかもしれない。
◆
「メリークリスマス、裕ちゃん」
クリスマスイブの朝、ラッピングされた小さな箱を渡された。
雅人にクリスマスプレゼントをもらうのは初めてだ。
「ありがとう」
「どういたしまして」
「……で、これは俺から」
引き出しにしまっていた袋を雅人に渡す。雅人も笑顔でプレゼントを受け取ってくれた。
俺たちは別に、クリスマスプレゼントを交換しよう、なんて約束をしたわけじゃない。
ただ、なんとなくそうなるんだろうとは思っていた。
「これ、開けていい?」
「いいよ。俺も裕ちゃんからのプレゼント開けていい?」
「うん」
丁寧にラッピングをはがす。中に入っていたのは、シンプルなネックスレスだった。
俺が雅人に渡したのは香水である。
「ありがとう、裕ちゃん。毎日つけるね」
「こっちこそありがとな。俺もつけるわ。これくらいなら、学校でつけてても怒られなさそうだし」
「うん。だと思って選んだ」
別に友達同士だって、クリスマスプレゼントを交換することもあるだろう。でも俺たちがこうしてプレゼントを交換したのは、たぶん恋人になったからだ。
バレンタインデーもホワイトデーも、来年はなんかやるんだろうな。
一緒に楽しめる行事が増えた。それだけでも、雅人と恋人になってよかったと思える。
「裕ちゃん」
いきなり腕を引かれた。返事をする暇もなく、雅人が俺にキスをする。この唇の温度にだって、俺はすっかり慣れてしまった。
「愛してるよ」
サンタの服みたいに真っ赤な顔で雅人が笑った。
「そんなの、とっくに知ってる」
軽く身体を揺さぶられて、ゆっくりと瞼を開く。雅人と目が合ったと思ったら、すぐにキスされた。
起きたのに、なんて文句は言わない。いつものことだからだ。
「おはよう、雅人」
「うん。おはよう」
幸せそうに笑いながら、雅人が俺の寝癖を整える。昔より増えたスキンシップにも、もうかなり慣れてきた。
雅人と再び付き合うようになって、約2カ月。俺たちの関係は変わったような、変わっていないような感じだ。
「もうすぐ冬休みだね」
俺が着替えるのを見ながら、雅人がベッドに腰を下ろした。凝視されながら着替えるのは少々恥ずかしいのだが、文句を言うほどではない。
雅人にされて嫌なことって、俺、ほとんどないんだよな。
「冬休み、どっか行くか?」
「初詣とか? でも混むよね」
「ああ、絶対混む」
混むのを覚悟で行ってもいいけれど、新年早々外で寒い思いをするのも嫌だ。それに冬休みは短いから、できる限りのんびり過ごしたい。
「じゃあさ、裕ちゃん。また俺の家に泊まりにくる?」
「誰もいない日でもあるわけ?」
「うん」
照れたような、それでいて緊張したような顔で雅人が微笑んだ。
「行くわ」
今度の泊まりに雅人がどこまで期待しているのかは分からない。でもなにを求められたとしても、雅人なら別にいい。
「ねえ裕ちゃん。裕ちゃんもそろそろ、俺に恋してきた?」
「……さあ。でも、お前が俺以外に恋をするのは絶対許せないって気持ちにはなってきたな」
「それ、もう恋って呼んでもいいんじゃないの」
雅人が楽しそうに笑う。俺も曖昧に笑って、雅人の手をぎゅっと握った。
◆
「で、何の話なんです結局。会長にもさんざん惚気を聞かされてるのに、穂村先輩まで私に惚気話ですか?」
俺の話を聞くなり、金城はわざとらしい溜息を吐いて顔を顰めた。
文化祭の練習が終わっても、俺と金城の交流がなくなることはなかった。普通に友達になったのである。
「だって、お前にしかこの話はできないし」
俺と雅人が付き合っていることは、まだ金城にしか言っていない。別に言ったっていいのだけれど、変に茶化されたくないから。
渉や智哉は薄々感づいているのかもしれないけれど、今のところは黙ってくれている。
「会長の塾がある時しか誘ってこないのもむかつきます」
「しょうがないだろ」
金城はほぼ毎日、遅くまで学校に残っている。女子剣道部が終わるのを待って佐々木と一緒に帰るためだ。
だからこうして、たまに学校から少し離れたカフェで一緒に時間を潰すようになった。
「本当に羨ましいです。私だって早く付き合いたいのに。あっ、先輩、ちゃんと茜ちゃんに私のいいところ言ってくれてます?」
「言ってる言ってる。言い過ぎて怪しまれてるくらいだって」
今までほとんど喋らなかった佐々木とも、最近は少しずつ喋るようになった。大半が金城の話題だ。
俺が思うに、佐々木もかなり金城のことを気にしている。さすがに好意の種類までは、俺には分からないけれど。
「付き合うのは先輩たちが先でしたけど、結婚は絶対私たちが先にするので。覚悟しててください」
「なんの覚悟だよ」
「式に参列する覚悟です」
私と茜ちゃんの結婚式は……と金城が妄想を始める。俺に対してはもう何を言ってもいいという判断をしたらしい。
佐々木との妄想を話す時のこいつ、マジで楽しそうなんだよな。
「ちょっと先輩、ちゃんと聞いてます?」
「聞いてるって」
「ならいいですけど」
金城の言う通り、恋はすごく楽しいものかもしれない。最近はそんな風に思えてきた。
お前と恋をするのが楽しい。そう雅人に伝えたら、あいつはどんな顔をするんだろう。
想像するだけで幸せな気持ちになってしまった俺は、もしかしたらもう、雅人に恋をしているのかもしれない。
◆
「メリークリスマス、裕ちゃん」
クリスマスイブの朝、ラッピングされた小さな箱を渡された。
雅人にクリスマスプレゼントをもらうのは初めてだ。
「ありがとう」
「どういたしまして」
「……で、これは俺から」
引き出しにしまっていた袋を雅人に渡す。雅人も笑顔でプレゼントを受け取ってくれた。
俺たちは別に、クリスマスプレゼントを交換しよう、なんて約束をしたわけじゃない。
ただ、なんとなくそうなるんだろうとは思っていた。
「これ、開けていい?」
「いいよ。俺も裕ちゃんからのプレゼント開けていい?」
「うん」
丁寧にラッピングをはがす。中に入っていたのは、シンプルなネックスレスだった。
俺が雅人に渡したのは香水である。
「ありがとう、裕ちゃん。毎日つけるね」
「こっちこそありがとな。俺もつけるわ。これくらいなら、学校でつけてても怒られなさそうだし」
「うん。だと思って選んだ」
別に友達同士だって、クリスマスプレゼントを交換することもあるだろう。でも俺たちがこうしてプレゼントを交換したのは、たぶん恋人になったからだ。
バレンタインデーもホワイトデーも、来年はなんかやるんだろうな。
一緒に楽しめる行事が増えた。それだけでも、雅人と恋人になってよかったと思える。
「裕ちゃん」
いきなり腕を引かれた。返事をする暇もなく、雅人が俺にキスをする。この唇の温度にだって、俺はすっかり慣れてしまった。
「愛してるよ」
サンタの服みたいに真っ赤な顔で雅人が笑った。
「そんなの、とっくに知ってる」