「マジで、ほとんど何も変わんないな」
ベッドに寝転がり、ぼんやりと天井を見つめる。夏休みの今はいつ昼寝をしてもいいと思うと気が楽だ。
残念なことに、夏休みも半分くらい終わってしまった。
そして俺の夏休みの過ごし方は、去年とほとんど変わっていない。
雅人の夏期講習がない日は雅人と過ごし、雅人の夏期講習がある日は家でだらだらと過ごしている。
夏祭りでは手を繋いだけれど、それからは身体的な接触も特にない。
恋人と友達って、やっぱりたいして変わらないのかもな。
動画でも見るか、とスマホを開くと、雅人からメッセージがきていた。
『明日、学校で一緒に勉強しない? 裕ちゃん、どうせ宿題終わってないでしょ』
ちら、と時計を確認する。現在の時刻は午後十時過ぎ。ちょうど塾の帰りなのだろう。塾終わりに勉強の予定を立てようとする雅人の気が知れない。
「宿題が終わってないのは事実なんだよなぁ」
いつやってもいいと思うとなかなかやる気が出なくて、夏休みの課題にはほとんど手をつけていない。
苦手な数学に関しては100ページ弱ある問題集を1ページも解いていない危機的状況だ。
『分かった。学校行くか』
雅人に返信を送る。いつも通りすぐに既読がついて、了解のスタンプが返ってきた。
夏休み中、お盆期間を除いて学校の施設は開放されている。部活生が中心のようだが、自習室を利用する生徒も多い。
学校まで行くのはだるいけど、家だと勉強しないからな。
雅人の家にも俺の家にも誘惑が多すぎる。その点自習室はスマホの利用すら許可されていないから、勉強に集中できるだろう。
◆
「なんか制服姿の裕ちゃん、ちょっと新鮮だね」
玄関から出てきた俺を見るなり、顔を緩めながら雅人は言った。夏だというのに、ワイシャツのボタンは一番上までとめている。
「制服暑いわ。夏休みなんだから、私服でもいいだろうに」
「それは生徒会でも毎年要望出してるんだけど、なかなか通らないんだよね」
他愛ない話をしながらいつもの通学路を歩く。あまりに日差しが強くて、待ち合わせを午後にした昨日の自分を恨んだ。
◆
自習室は、一階の職員室横にある。通常の教室二部屋分ほどの広さで、一席ごとに仕切りがあるため、かなり快適だ。
なにより、夏場はクーラーがガンガンに効いているのがいい。
「うわ、混んでるね。空いてる席ある?」
雅人に言われ、自習室を見回す。空いている席は何席かあるけれど、隣同士の席は空いていなかった。
「しょうがないな。空いてるだけよかった」
俺がそう言うと、雅人はあからさまに拗ねたような表情になった。どうやら雅人は、俺と並んで勉強がしたかったらしい。
自習室は私語が禁止されているから、隣に座っていても話せないのに。
「時間決めて勉強して、帰りにどっか寄ろうぜ。な、それならいいだろ」
俺の提案に雅人が笑顔で頷く。悪くないけれど、なんだか変な気分だ。
雅人は、今までよりずっと感情を表に出すようになった。俺への恋心を隠す必要がなくなったからだろう。
「どのくらいやる? 1時間とか?」
「何言ってんの、裕ちゃん」
はあ、と雅人は溜息を吐いた。最近よく見る甘ったるい笑顔じゃなくて、世話焼きの幼馴染らしい表情で俺を睨みつける。
「今日は3時間だから」
俺がなにかを言うよりも先に、雅人はさっさと奥の方の席へ向かって歩き出してしまった。
◆
勉強、飽きた。
家に帰りたいし、スマホのチェックもしたい。
数学をやるぞ! なんて意気込んで、数学以外の勉強道具を持ってこなかったのも痛手だ。もう算用数字を見るだけで嫌な気分になってくる。
でも、まだ1時間しか経ってないんだよな。
仕切りがあるせいで、振り向いても三列後ろに座る雅人の顔は見えない。でもどうせ、いつも通り真面目に勉強しているんだろう。
どうしても帰りたい、と我儘を言えば一緒に帰ってくれそうだけれど、頑張っている雅人を邪魔するのも気が引ける。
とりあえず気分転換に、自販機でジュースでも買うか。うん、それがいい。炭酸でも飲めば、ちょっとはやる気がわいてくる気がするしな。
リュックを机のうえにおき、財布とスマホだけを取り出して自習室を出る。
自習室を出た瞬間、うんざりするような熱気に全身を包まれた。しかし、自習室から抜け出した解放感がある。
自動販売機はいくつかあるが、自習室から最も近い自動販売機は昇降口を出てすぐのところだ。
一度靴に履き替えなければならないけれど、それもいい気分転換だろう。
靴に履き替え、自動販売機へ向かった。100円玉を二枚投入して、コーラのボタンを押す。炭酸といえば、やっぱりコーラだ。
蓋を開け、一気に半分を喉へ流し込む。ぬるくなった炭酸なんて美味しくないから、この場で全部飲んでしまおう。
ちょうどコーラを全て飲み終わった時、穂村先輩? と後ろから声が聞こえた。
振り向くと、金城が立っている。生徒会副会長にして、雅人が俺の相談をしていた相手だ。
そういえばこいつも、雅人と同じで同性が好き……つまり、女が好きなんだよな。
っていうか雅人は、こいつには俺と付き合ってること言ってるのか?
二人の話を盗み聞きしたことは話していないから、その確認もできていない。今まで特に気にしてもいなかったけれど、金城を見ると気になってきた。
「会長は一緒じゃないんですか?」
俺に質問しながら、金城は自動販売機でスポーツドリンクを二本購入した。
「雅人は自習室。俺も、ちょっと休憩してるだけ」
「へえ……」
金城は少しの間黙り込み、あの、と小さい声で俺を呼んだ。もし近くにいる蝉があと一匹でも多かったら、金城の声は聞こえていなかったかもしれない。
「なに?」
「ちょっとだけ二人で話したいんですけど。いいですか?」
ベッドに寝転がり、ぼんやりと天井を見つめる。夏休みの今はいつ昼寝をしてもいいと思うと気が楽だ。
残念なことに、夏休みも半分くらい終わってしまった。
そして俺の夏休みの過ごし方は、去年とほとんど変わっていない。
雅人の夏期講習がない日は雅人と過ごし、雅人の夏期講習がある日は家でだらだらと過ごしている。
夏祭りでは手を繋いだけれど、それからは身体的な接触も特にない。
恋人と友達って、やっぱりたいして変わらないのかもな。
動画でも見るか、とスマホを開くと、雅人からメッセージがきていた。
『明日、学校で一緒に勉強しない? 裕ちゃん、どうせ宿題終わってないでしょ』
ちら、と時計を確認する。現在の時刻は午後十時過ぎ。ちょうど塾の帰りなのだろう。塾終わりに勉強の予定を立てようとする雅人の気が知れない。
「宿題が終わってないのは事実なんだよなぁ」
いつやってもいいと思うとなかなかやる気が出なくて、夏休みの課題にはほとんど手をつけていない。
苦手な数学に関しては100ページ弱ある問題集を1ページも解いていない危機的状況だ。
『分かった。学校行くか』
雅人に返信を送る。いつも通りすぐに既読がついて、了解のスタンプが返ってきた。
夏休み中、お盆期間を除いて学校の施設は開放されている。部活生が中心のようだが、自習室を利用する生徒も多い。
学校まで行くのはだるいけど、家だと勉強しないからな。
雅人の家にも俺の家にも誘惑が多すぎる。その点自習室はスマホの利用すら許可されていないから、勉強に集中できるだろう。
◆
「なんか制服姿の裕ちゃん、ちょっと新鮮だね」
玄関から出てきた俺を見るなり、顔を緩めながら雅人は言った。夏だというのに、ワイシャツのボタンは一番上までとめている。
「制服暑いわ。夏休みなんだから、私服でもいいだろうに」
「それは生徒会でも毎年要望出してるんだけど、なかなか通らないんだよね」
他愛ない話をしながらいつもの通学路を歩く。あまりに日差しが強くて、待ち合わせを午後にした昨日の自分を恨んだ。
◆
自習室は、一階の職員室横にある。通常の教室二部屋分ほどの広さで、一席ごとに仕切りがあるため、かなり快適だ。
なにより、夏場はクーラーがガンガンに効いているのがいい。
「うわ、混んでるね。空いてる席ある?」
雅人に言われ、自習室を見回す。空いている席は何席かあるけれど、隣同士の席は空いていなかった。
「しょうがないな。空いてるだけよかった」
俺がそう言うと、雅人はあからさまに拗ねたような表情になった。どうやら雅人は、俺と並んで勉強がしたかったらしい。
自習室は私語が禁止されているから、隣に座っていても話せないのに。
「時間決めて勉強して、帰りにどっか寄ろうぜ。な、それならいいだろ」
俺の提案に雅人が笑顔で頷く。悪くないけれど、なんだか変な気分だ。
雅人は、今までよりずっと感情を表に出すようになった。俺への恋心を隠す必要がなくなったからだろう。
「どのくらいやる? 1時間とか?」
「何言ってんの、裕ちゃん」
はあ、と雅人は溜息を吐いた。最近よく見る甘ったるい笑顔じゃなくて、世話焼きの幼馴染らしい表情で俺を睨みつける。
「今日は3時間だから」
俺がなにかを言うよりも先に、雅人はさっさと奥の方の席へ向かって歩き出してしまった。
◆
勉強、飽きた。
家に帰りたいし、スマホのチェックもしたい。
数学をやるぞ! なんて意気込んで、数学以外の勉強道具を持ってこなかったのも痛手だ。もう算用数字を見るだけで嫌な気分になってくる。
でも、まだ1時間しか経ってないんだよな。
仕切りがあるせいで、振り向いても三列後ろに座る雅人の顔は見えない。でもどうせ、いつも通り真面目に勉強しているんだろう。
どうしても帰りたい、と我儘を言えば一緒に帰ってくれそうだけれど、頑張っている雅人を邪魔するのも気が引ける。
とりあえず気分転換に、自販機でジュースでも買うか。うん、それがいい。炭酸でも飲めば、ちょっとはやる気がわいてくる気がするしな。
リュックを机のうえにおき、財布とスマホだけを取り出して自習室を出る。
自習室を出た瞬間、うんざりするような熱気に全身を包まれた。しかし、自習室から抜け出した解放感がある。
自動販売機はいくつかあるが、自習室から最も近い自動販売機は昇降口を出てすぐのところだ。
一度靴に履き替えなければならないけれど、それもいい気分転換だろう。
靴に履き替え、自動販売機へ向かった。100円玉を二枚投入して、コーラのボタンを押す。炭酸といえば、やっぱりコーラだ。
蓋を開け、一気に半分を喉へ流し込む。ぬるくなった炭酸なんて美味しくないから、この場で全部飲んでしまおう。
ちょうどコーラを全て飲み終わった時、穂村先輩? と後ろから声が聞こえた。
振り向くと、金城が立っている。生徒会副会長にして、雅人が俺の相談をしていた相手だ。
そういえばこいつも、雅人と同じで同性が好き……つまり、女が好きなんだよな。
っていうか雅人は、こいつには俺と付き合ってること言ってるのか?
二人の話を盗み聞きしたことは話していないから、その確認もできていない。今まで特に気にしてもいなかったけれど、金城を見ると気になってきた。
「会長は一緒じゃないんですか?」
俺に質問しながら、金城は自動販売機でスポーツドリンクを二本購入した。
「雅人は自習室。俺も、ちょっと休憩してるだけ」
「へえ……」
金城は少しの間黙り込み、あの、と小さい声で俺を呼んだ。もし近くにいる蝉があと一匹でも多かったら、金城の声は聞こえていなかったかもしれない。
「なに?」
「ちょっとだけ二人で話したいんですけど。いいですか?」