もう一回、もう一回とキスし続けて、結局、リビングに降りてきたのは昼前だった。

「じゃぁ食い終わったら調べてみよーぜ。」
カリカリに焼いたベーコンとレタス、それに目玉焼きを挟んだサンドイッチを頬張りながらイツキは言う。
「そうだな。イツキ、牛乳飲む?」
「飲むー。」
イツキはそこそこボリュームのあるサンドイッチを旺盛な食欲でペロリと平らげコップの牛乳を飲み干し、てきぱきと食器を片付け早速スマホをいじりだした。興味のあることにはとことん熱心なのだ。
「あれ、なんか着信きてる。」
「だれ?」
「母ちゃん。」
「かけ直したら?」
「いいよ。またあんこの話かなんかだろきっと。それより自由研究の方が大事。」
「自由研究?」
「夏休みだし。」
「ははっ、いいなそれ。」
食事を終え、俺もソファに座ってスマホを操作する。
しばらくの沈黙の後、画面に視線を落としたままイツキは口を開いた。
「なぁ……コウ、どっちがいいとかある……?」
「いや、俺は……」
ネットの情報によれば行為までのハードルは想像していた以上に高そうだ。
「俺は、どっちでもいいよ。受け入れる側のが大変そうだし、正直イツキとそーいうことできるならなんでもいいっつーか……イツキは?」
「俺は、さ、抱かれたいよ。コウに。」
「……っ、そ、そうか。」
「うん。」
「わかった。んじゃめっっっっっちゃ優しくするわ。」
「ふふ、たのむ。」
「おぅ、まかせろ。」
「つーかやっぱこんな明るい時間にリビングでする話じゃねぇな。あはははっ」
「確かに。」

午後2時。
1番熱い盛りの時間に2人乗りの自転車を走らせて、必要なものを買いに隣町のドラッグストアに向かった。
自宅から徒歩5分にもドラッグストアがあるにはあるのだが……そこで買うのはちょっとあれだなと言う話になったのだ。
「あっち〜な〜!」
後ろでイツキが悲鳴をあげる。茹だる様な暑さとはこういうことを言うんだろう。
「家で待ってても良かったのに。」
「いややっぱこういうのは一緒に準備しねーとだろ。」
汗びっしょりで自転車を漕ぎ続け、途中の自販機でスポーツドリンクを買ってまたアスリートの様に漕ぎ出すと、なんだかまるでさわやかなCMの様な、いかにも健全な夏休みを送っているような気分になってくる。目的の物は到底健全とはいえないのに。
いや、夏休みに好きな子と安全に初体験をするために必要な物を……なんて、健全も健全、ど健全だ。


帰り道、イツキはほとんど話さなかった。
ついさっきまでドラッグストアで異常なテンションではしゃいでいたのが嘘みたいだ。
ソレだけ買うのは恥ずかしいとイツキは言い、ゼリー飲料とかスポドリとかカップラーメンとかまでカゴいっぱいに詰め込んで、それが却って会計の時間を長引かせ気まずい時間を引き伸ばした。
手汗が止まらず落とした小銭を拾おうとして、同じく拾おうとしてくれていたイツキと指先が触れた。視線がぶつかりお互いに馬鹿みたいに顔を赤くして顔を背ける。
それからずっと2人して言葉少なだ。
自宅までの最後の坂道を下る時、イツキの両手が腰に回された。
後戻りはしない、したくない。前に進むだけだ。もう、ペダルを踏まなくてもタイヤは回り続け、自ずとスピードは上がる。
体が熱すぎるくらい熱い原因が、夏のせいだけなのか。
誰に教わらなくても、俺たちはその答えを知っている。