厨房に向かおうとすると、彼が私の腕を掴んだ。そのままいつものテーブルにつかせる。
「ちょっと待っててください」
 彼はプロジェクターを操作すると、明かりを消した。私の向かい側に座る。
 白い壁に映像が映し出された。
 画面は真っ白だ。でもよく見ていると、白い雲が空を覆っているのだとわかった。
 やがて雲の中央がぽっかりと空いて、真っ青な空が現れた。青はゆっくりと雲を押しやり、画面いっぱいに青空が広がっていく。光が溢れ、画面全体が発光するかのように輝いた。
「前に撮影しておいたんです。青空を賛歌さんに見せてあげたくて」
 典十さんは私に手を伸ばした。その手を私はそっと握りしめる。
「これからは、晴れた日には僕が空の映像を残しておきます。だから青空が見えなくても、悲しまないで」
 彼の温度を感じながら見る青空は嬉しそうに笑っていた。

(了)