夏休みが終わり二学期が始まって一ヶ月が過ぎた。もうすぐ文化祭だ。だけど今年は昊がいないから楽しくない。昊に来るかどうか聞いたら「行かない」と即答されてしまった。

夏休みのあの日、昊と映画を観た後に佐藤さんに声をかけられた日から、昊の様子がおかしい気がする。昊に聞いても「なんでもない。今までと同じだろ」とはぐらかされる。
あの日、昊と手を繋いで歩いて、まるで恋人のようだと嬉しくて幸せだったのに、邪魔が入って腹が立った。佐藤さんは悪くないけど、声をかけないで通り過ぎて欲しかったと、ずっと思ってる。あの後、昊に「すげー勢いで手を離したじゃん」と言われて、複雑な心境になった。俺は本当は、手を離したくなかったんだ。ずっと繋いでいたかったんだ。だけど男同士で、しかも兄弟で手を繋いでいるところを見られて、昊に何か言われることが怖かった。俺は何を言われてもいい。軽蔑されてもいい。でも昊が傷つくことがあっては絶対にダメだと思って、咄嗟(とっさ)に離してしまったんだ。でもあんな風に言うってことは、昊も離したくなかった?俺と同じ気持ちだった?そう都合のいいように考えて、昊の気持ちを確かめたいと思った矢先、昊が俺を避けるようになった。
俺はショックだった。昊の気持ちを確かめたいなどと欲を出したから、いけなかったのか?俺の気持ちに気づいて、昊は逃げたくなったのか?悶々(もんもん)と悪いことばかりを考えて、気持ちが落ち込んで、耐えきれなくなって昊に聞いた。

「なんで俺を避けるの?俺のこと、嫌いになった?」

自分で言ってて、情けなくなった。ダメな恋人みたいなセリフを吐いてる。昊にとってはただの弟なのに、俺って気持ち悪いよな。
昊はチラリと俺と目を合わせ、すぐに逸らせてしまう。逸らせたまま、俺に掴まれた腕を振りほどく。

「は?なに言ってんの?別に避けてないけど。それに家族なんだから、嫌いになるも何もねーよ」
「でもっ」

なおも言い募る俺を置いて、昊は部屋の扉を閉めてしまった。それ以上、しつこく追いすがることができなくて、俺はしばらくその場に立ち尽くした。

その日から、俺と昊はギクシャクしている。同じ家に住んでいるから毎日顔を合わせる。会えば他愛のない会話もする。だけど昊は俺を見ない。目を合わせようとしない。そんな昊の態度を目にする度に、俺は欲を出して手を繋いだことを、ひどく後悔した。



昊と気まずくなったあの夏から二年が経ち、俺と颯人は高校生になった。俺も颯人も昊や夏樹と同じ学校だ。昊と一緒に過ごす時間が減ったぶん、俺は勉強を頑張った。だからレベルの高い学校だけど、余裕をもって合格することができた。
颯人はもともと頭がいい。上の学校にも行けたはずだけど、「青がいない学生生活なんて楽しくないじゃん」と嬉しいことを言ってくれて、同じ学校に進学した。
昊とのことで悩んでいたけど、颯人が傍にいてくれて心強い。俺の気持ちを知ってる颯人には、色々と相談もできるから、誰にも知られてはいけない気持ちを吐き出せて、苦しくてどうしようもないと沈んでしまわなくて済んでいる。

高校に入学してゴールデンウィーク後に気づいたけど、どうやら昊と柊木は同じクラスになったらしい。休み時間に夏樹を見かけたから聞いてみると、「そうなんだよ」と苦笑していた。
俺のテンションが一気に下がる。第一印象からして、俺は柊木をよく思っていない。篠山も嫌いだったけど、柊木は篠山よりも何を考えているのかがわからなくて苦手だ。
ちなみに夏樹は昊と違うクラスになったらしい。しかも教室も端と端で離れているらしく、中々様子を見に行けないとのことだ。
俺はため息をついて「マジか…」と呟いた。

「昊の様子を教えてあげたいんだけどわかんなくてさ、ごめんな?」
「いや、夏樹が謝ることは何もないよ。ただ、昊は柊木と仲がいいのかな…」
「いいか悪いかで言えば、いいみたいだね。休みの日にも会ってるみたいだけど…。青は知らなかったのか?」
「うん…、最近はさ、昊があまり話してくれなくてさ…」
「そっか。そういえば昊も、あまり青のこと話さなくなってるよな。喧嘩でもした?」
「うん…喧嘩っていうか…」
「あっ、青くんいた!」

クラスの女子に、話を遮られた。入学した初日から、人懐っこく話しかけてくる金井(かない)さんだ。悪い人ではないんだけど、空気を読まずにグイグイと来るところが苦手だ。
俺は少し面倒くさそうに「なに?」と答える。

大神(おおがみ)先生が(さが)してたよ。午後の授業の準備を頼みたいって」
「は?なんで俺…」
「だって先生、青くんのこと、お気に入りじゃん。私も手伝うよ」
「いや、いいよ。夏樹ごめん。また連絡する」
「ああ。またな」

夏樹が俺に手をあげ、金井さんに微笑んで去って行く。俺も大神先生がいつもいる数学の準備室に行こうとすると、金井さんがついてきた。

「金井さん、教室に戻っていいよ」
「えー?手伝いたかったのにな。ねぇさっきの人って、三年生だよね?」
「うん。兄さんの友達。俺の友達でもあるけど」
「ふーん、かっこいい人だね。青くんのお兄さんもかっこいいんだろうね」
「なんで?」
「だって青くんがかっこいいから」

俺は気づかれないよう、一瞬だけ金井さんを見る。どういう意図で、昊のことを聞いてきたのだろう。昊に興味を持たれるのは、困る。

「昊…兄さんは、かっこよくはないよ」
「ええ?兄弟って素直に相手の良さを認めないアレ?」

勝手な解釈をした金井さんに、俺は心の中で違うと反論する。
昊はかっこいいんじゃなくて、綺麗なんだ。あんなに綺麗な人を、俺は(いま)だかって見たことがない。

途中で金井さんと別れ、数学準備室の前に来た。声をかける前に扉が開く。ずり落ちそうな眼鏡を指で押し上げながら、大神先生が「入って」とにこやかに言う。
俺が素直に中に入ると、後ろでガチャと鍵がかかる音がした。
俺は振り向き思いっきり嫌な顔をする。

「なんで鍵かけるんですか」
「森野との時間、誰にも邪魔されたくないから」
「はあ?気持ち悪いこと言わないでくださいよ。で?手伝ってほしいことってなに?」
「あー、おまえは相変わらずクールだよなぁ。俺の気持ちわかってんだろ?」
「何度も言ってますが迷惑です。それに犯罪ですよ?」
「ちっ、何かといやぁ脅しやがって。別に手は出さねぇよ」
「出さなくても嫌がってるのに言い寄るのは、セクハラになりませんか?」
「ならない。だっておまえ、俺のこと嫌いじゃないだろ?」
「さあ?」

「さあって何だよ」と不貞腐(ふてくさ)れながら、大神先生が机の上の書類をまとめ始めた。

担任ではないけど、一年の数学の授業を担当する大神先生は、生徒の間で人気がある。言葉遣いは荒いが、親しみやすく誰に対しても平等に接するから。でもなぜか、最初の授業の日から俺に執着している。廊下で会えば必ず声をかけられ、何かと用事を頼まれる。
何度目かの用事を頼まれた時に、先生が受け持つクラスの生徒でもないのに、なぜ俺にばかり用事を頼むのか聞いた。答えは先ほどの通り。俺に一目惚れしたらしい。マジかよと驚いた。
大神先生は先生になって三年目で若い。だからといって、九歳も下の、しかも同性に告白するか?でもまあ、俺は歳の差とか同性にはこだわりはない。ただ、俺には心から好きな人がいる。だから正直にそう話して、きっぱりと断った。想ってくれても構わないが、俺が先生を好きになることはないと断言した。それなのに…先生は諦めてくれない。断った後も俺に声をかけ続け頻繁に用事を頼む。用事は大したことではなく、俺に会う口実らしい。
颯人にも相談したけど、「口では青のこと好きだって言うけど、手は出してこないんだろ?悪い人じゃないし数学教えてもらえる代わりに、話してあげてるって思えば?本当に困ったら俺を呼んで」と言われてしまった。
確かに颯人の言うように、俺に指一本触れてはこない。「同意なしに触らないよ」と先生も言ってたし。それにもし先生が襲ってきても、俺の方がデカいし反撃できる。先生は、口ではしつこく言ってくる割に、態度がとても紳士なんだ。
俺は以前のように昊と話せなくなったことが寂しかったけど、いつしか先生と過ごす間は、寂しさが紛れていることに気づいた。

先生と過ごす時間は気が紛れるけれど、昊のことが頭から離れることはない。同じ家にいる時でさえそうなのだから、学年もクラスも違う学校では尚更だ。今何してるんだろうとか、柊木と一緒なのかとか考えて寂しく思ってしまう。
今もぼんやりと書類を整える先生の手元を見ていると、「好きな奴のこと考えてるの?」と先生が聞いてきた。
先生は遠慮がない。思ったことを口に出す性格なのだろう。え?それ聞く?ってこともズケズケと聞いてくるから困る。
俺はちらりと先生の目を見て「そうだよ」と小さく溜息をついた。

「わあ…そこは気を使って『違う』って言って欲しかったなぁ」
「なんで?聞かれたから正直に答えたんだけど」
「なんでって、俺は森野が好きだって言ってるじゃん」
「だからそれ、セクハラですよ?もしくは犯罪です。俺、未成年だし」
「森野が本当に嫌がってるなら言わない。でも、なんだかんだ森野は俺を拒絶しないで話してくれる。すごく優しいよね。見た目もそういうところも、ほんと好き」
「それはどうも。でもやめてくださいね」
「はぁ…ほんと塩対応…」

当たり前だ。好きだと言われて嬉しいのは、昊にだけだ。昊に想いを向けてもらえたら、この上ない幸せなのに。去年の夏から色彩が消えた俺の世界が、色鮮やかになるのに。
俺はもう一度そっと息を吐き出すと、机の上の書類に手を置いた。

「これを運ぶんですか?どこに?」
「森野のクラスに。六限目、数学だろ?」
「あ…」
「えー、うそだぁ。もしかして忘れてた?」
「…はい」
「課題は?」
「やったけど家に置いてきました」
「必ず今日提出って言ったよ」
「放課後…取りに行ってきます」
「悪いけどそうしてくれる?森野だけ特別扱いできないから」

少し目線を上げた先生と目が合う。
先生は「ごめんね?」と申し訳なさそうに眉尻を下げる。
年の割に幼い顔つきで、かわいいと女子の間では人気だ。男子に告白されたこともあるという、噂もある。確かに大きな目に見つめられると、目が離せなくなりそう。でも俺の感想は、目が良さそうだなっていうだけだ。それに…特別扱いできないってなんだよ。俺のこと好きだと言ってる時点で、かなり特別じゃん。先生は明るい性格だけど、見た目通り子供っぽい気がする。昊の方が余程大人だ。
昊のことを考えたら昊に会いたくなってしまった。早く家に帰りたい。課題取りに帰るの、面倒だな。

「先生」
「ダメ」
「まだ何も言ってないじゃん」
「森野が考えてることはわかる。ダメ」

エスパーかよと可笑しくなって、俺はぷッと吹き出した。

放課後、部活に行く颯人と別れて下駄箱に向かう。俺は高校では部活に入っていない。それほどサッカーが好きではなかったし、他にやりたい部活もない。何より、昊と過ごす時間が欲しい。同じ家に住んでいても、昊は塾から帰ってくるのが遅くてあまり顔を合わせない。でも気まぐれで塾を休んで、いきなり家にいることがある。昊がいると嬉しくて、昊の隣に座って早口で話しかけるけど、昊は適当に相槌をうってすぐに部屋に行ってしまう。
そんな時俺は、胸が押し潰されたように苦しくなって、昊を追いかけて抱きしめて、好きだ、俺を避けないでと叫びたくなるんだ。何度そうしようかと腰を浮かしたか。でも実際は、昊を追いかけることなく再び腰を下ろし、深くため息をつくことしかできない。

今日は昊がまだ帰ってないといいなと思いながら帰路についた。一度学校に戻らないといけないから、昊がいても話ができない。どうか塾に行ってますようにと願っていると、家の前に着いた俺の横に車が静かに止まった。
何の気なしに横を向くと、運転席の窓が開いて大神先生が「やあ」と手を上げて笑っている。

「…なにしてんですか?」

俺は呆れて息を吐き出しながら低い声を出す。
先生はハザードをつけて車から降りると、俺の肩に手を置いた。

「森野が課題を取りに帰るの、面倒だって顔をしてたからさ、俺が取りに来てあげたの」
「家、知ってたんですか?」
「あーごめん、調べた」
「うわ…ストーカー」
「いやいや、必要なことだったから」

調べてまで家に来たことに若干引いたけど、先生は俺の家を知ったからといって悪用しないことはわかっている。
だから俺は「家には上げないですよ。ちょっと待っててください」と苦笑して、玄関に向かおうとした。
その時、扉が開いて昊が出てきた。
昊は目を丸くして、俺と俺の肩に手を置いた先生を交互に見て、ふいと目を伏せる。
俺は思わず唇を噛んだ。しまった、今日はいる日だったのか。ラフな格好をしてるしコンビニでも行くのだろうか。
俺は平静を装って昊に話しかける。

「昊、どこ行くの?塾は休み?」
「…コンビニ。なに?先生に送ってもらったんだ?」
「えっ?違っ…」

俺の言葉を待たずに、昊が横を通りすぎる。その時にチラリと先生を見て、小さく頭を下げた。
去って行く昊の背中を見ながら、先生が呟く。

「…俺、森野のお兄さんに嫌われてる?」

「なんでですか」と聞いた声が、思いの外掠れている。

「だって、すんごい睨まれた」
「まさか」

だとしたら、俺のせいだ。二年前の夏から、俺は昊に嫌われているのだから。

先生は課題を受け取ると、すぐに帰っていった。
俺はリビングで昊を待っていたけど、三十分経っても帰ってこない。コンビニは家から五分の場所にある。その先のコンビニも十分はかからない。

「なんで帰って来ないんだよ…くそっ。やっぱり俺を避けてる?」

自分の言葉に胸が痛くなる。ねぇ昊、そんなに俺が嫌い?もう仲のいい兄弟に戻れないの?俺のことを好きじゃなくてもいいから、嫌いにならないでよ…。
誰もいない静かな家の中で、壁の時計の音だけがやけに耳について落ち着かない。
俺はソファーから勢いよく立ち上がると、スマホを掴んで、靴を履くのももどかしく急いで玄関を出た。
一番近くのコンビニまで早足で向かう。コンビニの周囲を見回してから中へ入る。ひと通り見て回ったけど昊がいない。じゃあこの先のコンビニか?と出て、走り出した。
早く昊に会いたい。すぐに会えると思ったのに予想が外れて焦る。家で待ってたら必ず帰って来るけど、それすらも待てない。

「本当に、どこに行ったんだよ」

次のコンビニに着き、ハアハアと息を切らしながら中を覗く。ここにも昊がいない。

「くそっ…どこを探せば」

途方にくれて、前髪をクシャとかきあげた。そして振り向いた瞬間、こちらに向かってくる昊と目が合った。

「昊…」

昊が無言で近づいてくる。無視されるのかと思ったけど、俺の前で立ち止まり見上げてきた。
久しぶりに至近距離で見つめられて、俺の鼓動が早鐘を打ち始める。
昊が俺を見てる。久しぶりに目が合った気がする。どうしよう。話さなきゃいけないことがたくさんあるのに、喉が震えて言葉が出てこない。早く何か言わないと、また昊が行ってしまう。俺の前から去ってしまう。

「あ…」
「なに?おまえも買い物?」

俺の顔がくしゃりと歪む。やばい。嬉しい。昊が普通に喋ってくれてる。短い言葉だけど、すごく嬉しい。早く返事をしたいのに更に喉が震えてしまって、今声を出すと涙が出そうで、でも昊にどこにも行って欲しくなくて、考えるよりも先に手を伸ばした。

「え…?ちょっ…!青っ、何してんだよっ」
「昊…っ」

ああ、昊が俺の腕の中にいる。可愛い。いい匂いがする。なんか怒ってるけど、拒絶はされてないから、離さなくてもいいよね?というか、もう離せない。
しかし、すごい力で昊に胸を押されて、離れてしまった。
嫌だ、離れるなと再び伸ばしかけた俺の手を、昊が握りしめる。そしてそのまま引っ張って、コンビニから離れて行く。
「ど…」こに行くの?という俺の声は、昊の言葉によって遮られた。

「おまえさぁ、近所のコンビニの前であんなことするなよ。誰かに見られたらどうすんだよ」
「どうもしない…」

前を向いたまま話す昊の後頭部に向かって、小さく呟く。
昊はチラリと振り返って俺を見ると、「とりあえず家に帰るぞ」と握る手に力を込めた。
俺は手を引かれるままに足を前に出す。昊に言いたいこと、したいことがたくさんある。だけど今は言わないしやらない。口を開くと、また昊に逃げられてしまうかもしれない。繋がれているこの手を離したくない。だけど一つ気になることがあって、静かに聞いた。

「買い物は?いいの?」
「もう用事は済んだ。家に帰ろうと思ったら、おまえがすごい顔で走ってったからさ、気になって後を追いかけた」
「え?すれ違ってた?どこで?」
「手前のコンビニの近く。ただごとじゃない様子にビビったっつーの」
「なんだ…いたんだ」
「…俺を探してたのか?」
「そうだよ…」
「ふーん」

それから二人で無言で歩いた。家に着き手を繋いだまま玄関を入りリビングに向かう。まだ母さんが帰っていなくて、相変わらず時計の音だけが響いている。……いや、今は俺の鼓動の方が大きく聞こえている。
リビングの扉を閉めると、昊が手を離して俺の正面に立った。俺を見上げて何か言いたそうにしているけど、口を開かない。
俺はもう、我慢しない。我慢できない。だから、そっと昊を抱きしめて、耳のそばで「昊」と囁いた。緊張していたから想像以上の掠れた声が出た。でも名前を呼んだ瞬間、想いが溢れて涙も出た。声も出さずに涙を流していると、昊の手が俺の腰に触れた。拒絶されなかったことに安堵して、小さく息を吐く。それが首をかすめたのか、昊が微かに震えた。

「なぁ」
「…ん」
「先生に送ってもらったのか?」
「違うよ…。俺が課題を忘れたから、取りに来たんだ」
「そっか」
「うん」

先生のこと、気にしてたの?なんで?と聞きたいけど、その前に言いたいことがある。
俺は深呼吸をすると、抱きしめる腕に力を込めた。

「昊」
「なに」
「俺の話…聞いてくれる?」
「ああ」
「ちゃんと最後まで、聞いてくれる?」
「聞くよ」
「約束だよ」
「わかった」

もう一度深呼吸をして、秘めてきた想いを伝える。

「俺は、昊が好き」
「うん」
「兄弟の好きじゃない。恋人としての好きだよ。それに昊のこと、性的に見てる」
「……」
「ごめん…昊に気持ち悪いと思われても、俺は昊が好きだよ」
「青…」

昊の声が震えている。やっぱり怖がらせてしまったのかな。今、どんな顔をしてるのだろう。見るのが怖い。けど見たい。
俺は昊の首に伏せていた顔を上げた。そして目を瞠る。だって昊も、俺と同じように泣いていたんだ。