そしてすぐの週末、母の車で小畠家へ向かった。彼の家は保育園を挟んだ隣の学区で、純和風の平屋建てだった。なんか小畠っぽいなと納得してしまう。

 うまくいってないと言うのが、玄関の横から見える庭からも想像できた。草はほぼ枯れていたり、しなびたりして元気がない。料理だけでもあれだけいっぱいいっぱいだったんだ、そこまで気が回らないだろう。
 玄関の引き戸を開けると倫久が立っていた。やっぱりなんだか、くたびれた様子だ。玄関近くの扉からは理央君が顔をのぞかせていた。

 「おう」
 休日の倫久にニヤつかないように眉間にしわを寄せてあいさつすると、母がすかさず偉そうにと尻を叩いてきた。こういう子どもあつかいはやめてほしい。倫久に笑われてしまった。


 通された部屋は予想よりもきれいだった。
 だが、漫然と片付いていない。間取りはリビングダイニング。奥にオープンキッチンとその前に、ダイニングテーブル。テレビの前にソファがあって。リビングには大きな掃き出し窓があった。家とよく似た間取りだ。

 そして、リビングの片隅、真っ白な仏壇が置いてあった。
 俺たちは、そこに手を合わせてあいさつをした。


 倫久がおどろかないでねと言った理由はその様相にあった。間を埋めるように、中身の詰まった指定ごみ袋が置いてある。
 ダイニングの上には、洗ってあるものの片付けていないプラスチックとかペットボトルが並んでいいて。ソファには洗濯された服が積まれている。扉の上枠にはカーテンよろしく何個もハンガーがかかっていた。

 それでも、生活をしようとしていた努力は見える。
 洗いカゴに置いたままだけど、食器は洗ってある。ごみはたまっているが、何とか分別はできているし。
 なんか試行錯誤のあとが見えて泣きそうだ。つい眉間にしわをよせてしまった。

 「ごめん、片付いてなくて。あきれるよな」
 倫久が俺の表情を見て、苦笑いをする。
 「ああ、いや違う。なんか頑張ってるのが見えるから」
 慌ててとりなそうとしたが、変にごまかすのもおかしいと思って頭を掻いた。
 母はいつの間にか、洗面所に行っていたみたいだ。
 「洗濯、毎日ちゃんと回してたんだね。えらいね」
 「母がそうしてたので……」

 「……よし、じゃあできるところまで片付けましょう」

 母はどうやら人の家を片付けるのが好きな人間らしい。すごく張り切って洗面所に向かった。俺はとりあえず、いつもやっているキッチンを攻めることにした。倫久と、理央、旺次郎はリビング側を片付ける係になった。
 たぶん、倫久の母親はきれい好きだったのだろう。キッチンはクロスで拭くだけでかなりきれいになった。冷蔵庫は、まだ賞味期限が切れそうな食品はなさそうだ。しおれた野菜があるくらい。

 残すところはごみ類だが、分別はできている。あとはそれを出す算段を整えるだけでよさそうだ。
 「倫久。ごみ収集カレンダーどこ?」
 倫久は立ち上がって、ごそごそと探している。
 「あぁ、ここの地区名を言ってくれたらネットでも見れるから」
 倫久は驚いた顔でこっちを見た。
 「え……ごめん。実はいつごみを出していいかわからなくて……溜めてたんだ」
 「あぁ……でも、分別はできてるから……な」
 素早くスマホを操作して調べた。
 「分かった。こっちの資源ごみは、第二火曜日」
 倫久は慌てて付箋を持って書き込み貼っていった。
 「こっちは、燃えないゴミだから第一・第三金曜日」
 倫久がぺたりと貼り付ける。
 「で、燃えるごみは、月金だ」
 「ありがとう。これでごみが出せる」
 「いや。まぁ、あと、こっちの牛乳パックとか、プラトレイと透明トレイ、ペットボトルはスーパーに回収ボックスがあるからそこに持っていくといい」
 「え……祐一郎すごい」
 倫久の視線が熱を帯びて尊敬するまなざしと言うのになっていた。
 さっきから、「いやまぁ」しか言えていない。