その時はその思わせぶりな言葉を、なんとなく流したが、初盆で遭遇した倫久の親戚はやばい人たちだった。
夏休みに入って初めて制服を着た。倫久に玄関で迎えられる。
とりあえず、母から預かったメモを持って確認作業を二人でした。お供え、お飾り。理央君が頑張って作った気持ち足長めの精霊馬も飾ってある。
「えらいなぁ、理央君」
わしわし、頭を撫でるとうれしそうに笑った。
倫久が時計を見ながら「お寺さんから連絡あって、もうすぐ来るらしいよ」と言った。
待っていると、突然ガラガラと玄関の引き戸が開く音がした。驚いて玄関に向かうと、母親とおなじくらいの女性が立っていた。その後ろから、おじさん。多分その子供だろう。中学生くらいの男の子。その制服には見覚えがあった。隣町の中学だ。三人は当たり前のように入ってくる。
「おじさん、おばさん、こんにちは」
倫久が驚いて迎える。
「誰この子?」
おばさんが俺を見て怪訝な顔をする。
「友人の長瀬君です、初盆だからって、手伝いに来てくれました」
おばさんはふーんと言って、さっさと上がっていく。理央君が俺のところにやってきて、珍しくしがみついている。
「理央君。元気だった? お母さんのお姉ちゃんよ。覚えてる?あらあら、ご飯ちゃんと食べてる?やせたんじゃない?」
俺の存在は丸っと無視して、理央に話しかけている。いや、理央君は、やせてない。むしろ背が伸びた。
「あ?」
何適当なこと言ってんだと、俺が睨むとおばさんが「怖っ」と慌てた。
「おい倫久。お茶出せ」
勝手に上がっていったおじさんの方は、どっかりとソファに座った。中学の息子は俺を見て目を見開いたが、こっちも、さっさと上がっていっておじさんの隣に座った。
おばさんは理央君が俺から離れないので、あきらめて、家の中を見て回っていた。キッチン、ダイニング。洗面所に、トイレ。リビングに戻ってきてもまだキョロキョロとしている。
「トイレの紙。なくなりそうだったわよ」「キッチン。洗ったものはしまわないと埃がつくわよ?」「初盆のお飾りこんなのしかなかったの?」
おばさんは怒涛のダメ出しを始めた。一言で言うと、何なんだこのおばさんだった。
「やっぱり、理央君が心配。家を売って家に来なさいよ」
締めくくるように言っておじさんの方を見る。
心配するのは理央君だけなのかよ。結局、初盆だってこの人たちはてつだいすらしなかった。親戚だというのに言動がいちいち胡散臭い。
俺は知っている、倫久が両親を亡くして、この半年弱必死に生活をしていたことを。何もわからない状態から一つずつ覚えて、生活を立て直したことを。何も知らないで、なんでそんな風に言えるのかわからない。ましてや手を差し伸べることだってできたのに、しなかった意味もわからない。
おばさんはなおも、庭が汚いとか。理央君の服がしわっぽいだとか。難癖をつけていた。確かに、これを母が聞いていたら、速攻こぶしが飛ぶ。話し合いではなく、果し合いになる。
俺も怒りが限界だ。こぶしを強く握って睨んだ。倫久が隣に来て、俺の握ったこぶしを撫でる。
「ご教授ありがとうございます。ご提示いただいた点については考慮していきます」
倫久は怒りも、あきれもしてない平坦な口調で、口角を上げてお辞儀をした。
それを聞いて怒りが吹き飛んだ。口調が厄介な患者を相手にする母そのものだった。理央君もぺこりと頭を下げて「考慮していきます」と言った。
おばさんは目を丸くして、倫久を見ている。
夏休みに入って初めて制服を着た。倫久に玄関で迎えられる。
とりあえず、母から預かったメモを持って確認作業を二人でした。お供え、お飾り。理央君が頑張って作った気持ち足長めの精霊馬も飾ってある。
「えらいなぁ、理央君」
わしわし、頭を撫でるとうれしそうに笑った。
倫久が時計を見ながら「お寺さんから連絡あって、もうすぐ来るらしいよ」と言った。
待っていると、突然ガラガラと玄関の引き戸が開く音がした。驚いて玄関に向かうと、母親とおなじくらいの女性が立っていた。その後ろから、おじさん。多分その子供だろう。中学生くらいの男の子。その制服には見覚えがあった。隣町の中学だ。三人は当たり前のように入ってくる。
「おじさん、おばさん、こんにちは」
倫久が驚いて迎える。
「誰この子?」
おばさんが俺を見て怪訝な顔をする。
「友人の長瀬君です、初盆だからって、手伝いに来てくれました」
おばさんはふーんと言って、さっさと上がっていく。理央君が俺のところにやってきて、珍しくしがみついている。
「理央君。元気だった? お母さんのお姉ちゃんよ。覚えてる?あらあら、ご飯ちゃんと食べてる?やせたんじゃない?」
俺の存在は丸っと無視して、理央に話しかけている。いや、理央君は、やせてない。むしろ背が伸びた。
「あ?」
何適当なこと言ってんだと、俺が睨むとおばさんが「怖っ」と慌てた。
「おい倫久。お茶出せ」
勝手に上がっていったおじさんの方は、どっかりとソファに座った。中学の息子は俺を見て目を見開いたが、こっちも、さっさと上がっていっておじさんの隣に座った。
おばさんは理央君が俺から離れないので、あきらめて、家の中を見て回っていた。キッチン、ダイニング。洗面所に、トイレ。リビングに戻ってきてもまだキョロキョロとしている。
「トイレの紙。なくなりそうだったわよ」「キッチン。洗ったものはしまわないと埃がつくわよ?」「初盆のお飾りこんなのしかなかったの?」
おばさんは怒涛のダメ出しを始めた。一言で言うと、何なんだこのおばさんだった。
「やっぱり、理央君が心配。家を売って家に来なさいよ」
締めくくるように言っておじさんの方を見る。
心配するのは理央君だけなのかよ。結局、初盆だってこの人たちはてつだいすらしなかった。親戚だというのに言動がいちいち胡散臭い。
俺は知っている、倫久が両親を亡くして、この半年弱必死に生活をしていたことを。何もわからない状態から一つずつ覚えて、生活を立て直したことを。何も知らないで、なんでそんな風に言えるのかわからない。ましてや手を差し伸べることだってできたのに、しなかった意味もわからない。
おばさんはなおも、庭が汚いとか。理央君の服がしわっぽいだとか。難癖をつけていた。確かに、これを母が聞いていたら、速攻こぶしが飛ぶ。話し合いではなく、果し合いになる。
俺も怒りが限界だ。こぶしを強く握って睨んだ。倫久が隣に来て、俺の握ったこぶしを撫でる。
「ご教授ありがとうございます。ご提示いただいた点については考慮していきます」
倫久は怒りも、あきれもしてない平坦な口調で、口角を上げてお辞儀をした。
それを聞いて怒りが吹き飛んだ。口調が厄介な患者を相手にする母そのものだった。理央君もぺこりと頭を下げて「考慮していきます」と言った。
おばさんは目を丸くして、倫久を見ている。