恐田(おそれだ)ァ!! どこだッ!!」

『廊下は走るな』という貼り紙が目に飛び込んでくるが、俺の足は止まらない。風を切る勢いで通過する俺を避けるように、廊下を歩く生徒らが道を空けてゆく。まるでモーゼにでもなったような気分だ。
 傲慢(ごうまん)な腹心など知る由もなく、周囲の生徒は俺を邪険に扱うどころか、むしろ「あっち行ったぞ!」と協力してくれる。通り過ぎ際に「サンキュー」と礼を告げ、俺はターゲットが逃げ込んだ空き教室へと飛び込んだ。
 空き教室には整然と机が並べられているものの、人の姿はない。唯一残っていた人影――ターゲットも、俺が入ると同時に窓を飛び越えた。
 ベランダの欄干を背にして、ターゲットがこちらを振り返る。体格が良く、強面な俺のクラスメート。

「見つけたぞ、恐田(おそれだ)ッ!」

 恐田(おそれだ)と呼ばれた男子生徒は欄干に肘をのせ、屋上を仰ぎ見るように身体を仰け反らせた。
 自分のことのように足が(すく)む。ここは地上三階。誤って転落すれば無事では済まない。
 制止したいが、声を張り上げれば驚かせてしまうだろう。俺は忍び足でベランダへと近付いてゆく。
 不意に恐田は視線を下ろし、俺と目を合わせた。口元をニヤリと歪ませ、凶暴な笑みを見せつけられると、否応なしにゾクッとしてしまう。

(殺される……!?)

 そんな予感すら抱いたのも束の間、俺が硬直している間に、恐田はぬるっと背中から欄干を乗り越え、地上三階の中空に身を投げ出した。
 息する間も無かった。窓枠を飛び越え、恐田が落下した位置から地上を見下ろす。

「恐田ァッ!!」

 しかし、そこに恐田の姿は無かった。「は?」と困惑の声が漏れる。
 地上の生徒がこちらを指差し、何事か叫んでいる。クラスメートの目黒だ。
 
鬼越(おにごえ)ッ! 下ッ! 下ッ!」
「下?」
 
 階下を(のぞ)き込む。すると、真下のベランダから手のひらが突き出された。くいくいっと挑発するように人差し指を折り曲げ、その手はベランダ内に引っ込んだ。

「アイツ……!!」

 手の主は恐田に違いない。まんまと逃げられた。
 俺は欄干に拳を叩きつけ、忌々しいほど澄み切った青天井に怒りをぶつける。

「授業をサボるなァッ!! 恐田ァッ!!」


 ***


 皆さん、『鬼ごっこ』はご存知だろうか。鬼役が逃げ回る人を追いかけ、タッチすると鬼役を交代できる遊びだ。
 追いかける側には『早く鬼役から降りたい』という焦りがあり、追われる側には『鬼役になりたくない』という恐怖が付き(まと)う。このスリリングさこそ『鬼ごっこ』の醍醐味だろう。
『鬼ごっこ』は鬼が敗者のゲームだ。鬼役になったが最後、誰かを犠牲にするまで懲役は終わらない。ちょこまかと逃げ回るネズミを捕まえなければ、永遠に勝つことができないのだ。
 しかし、現実での『鬼ごっこ』は鬼役が勝者のゲームだ。鬼役が常に優位に立ち、ネズミ役を追い詰める。
 タチが悪いことに、現実の『鬼ごっこ』にはルールという名の救済措置がない。追いかける側はずっと追いかける側で、追いかけられる側はずっと追いかけられる側。タッチしたところで鬼役は交代しない。一度ネズミ役となったが最後、一生鬼役にはなれないのだ。
 そんなクソゲーにも、しかし逆転方法は存在する。鬼役になれないのなら、ネズミ役を担う第三者を投入すればいのだ。そうすれば、追い詰められたネズミも鬼へとランクアップできる。

 俺が鬼にランクアップしたきっかけは、クラス委員への立候補だった。
 高校二年生。環境の変化にも対応した俺は、年度はじめの委員会決めの折、クラス委員へと立候補した。理由は簡単。内申点が欲しかったのだ。他に立候補する物好きはおらず、俺は満場一致でクラス委員となった。
 クラス委員なんて想像よりも遥かに楽な委員会だ。クラスの集合時に整列を促したり、欠員がいないか担任の先生に報告すればいい。それ以外は簡単な雑務のみで、他の委員会に比べれば拘束時間が少ない。そのわりにクラスの中心として振る舞うことを許され、教師からの信頼も厚い。良いこと尽くしというわけだ。
 その日も俺は授業終わりに担任の村岡先生から呼び止められ、雑務を一つ任された。

鬼越(おにごえ)恐田(おそれだ)を探してきてくれないか? 放送でも呼んでるんだが一向に見つからなくてな。今日中に渡したい書類があるんだ」
「わかりました。連れてきます」

 恐田は屋上の扉の前でスマホをいじっていた。屋上は出入り禁止のため施錠されており、階段にも『進入禁止』とテープが貼られ封鎖されている。昔、上からボールを落として騒ぎになったことがあるようだ。

「恐田、村岡先生が呼んでるぞ。渡したい書類があるそうだ。職員室に行って来い」

 恐田はスマホの画面に釘付けになっている。どうやらワイヤレスイヤホンをつけて動画サイトを見ているようだ。(のぞ)いてみると、公園と思しき場所で、ブロンド髪の男が階段を使わずに壁を伝って階段を飛び越えていた。
 
(かっけぇ。これって『パルクール』か?)

 パルクールとは、道具を使わずに階段や障害物を乗り越えたり、二階から飛び降りてショーカットしたりするスポーツのことだ。恐田は部活に入っていないが、屈強な身体をしている。もしかすると、恐田自身もパルクールをやっているのかもしれない。

(こういうのが好きなのか。恐田って、いまいち何考えてるわからねぇよな)

 二年生に進級して一か月。恐田はクラスの中でも孤立している。誰にも喋りかけず、喋りかけられても最低限の会話で済ます。何が好きで何が嫌いなのか、どこに住んでいるのかさえもわからない。毎日退屈そうにスマホをいじっているせいか、クラスメートも恐田に関わろうとしなくなった。
 普段は大人しく授業を受けているが、自習になると恐田はフラッと姿を消し、そのまま帰って来なくなる。どうやら一年の頃からその習性は変わっていないらしく、教師が何を言っても改善されないそうだ。
 面倒なことを押しつけられたものだ。だが、これもクラス委員の務め。しっかり果たさなければ。
 スマホの手前に顔を滑り込ませ、俺は恐田の顔を(のぞ)き込んだ。

「おーそーれーだっ!」

 十分な空間が無かったせいか、思ったよりも恐田と至近距離で見つめ合う形になった。
 近くで見ると、恐田に話しかける者がいない理由がよくわかる。一言で言えば威圧感だ。鋭い目つき。眉間に寄った(しわ)。引き結んだ口許。直視すれば殺されそうな眼光は、見る者全員を恐怖へと叩き落とす鋭さがある。
 そんな屈強な恐田は、しかし身体を大きく仰け反らせ、壁に背中を強打し苦悶に(あえ)いだ。冷静沈着なイメージがあったが、存外驚きやすいのかもしれない。茫然(ぼうぜん)とこちらを見上げる姿には、親近感というか庇護欲が湧いてくる。
 俺は足元に転がるスマホを拾い上げた。仰け反った拍子で恐田が取り落としたものだ。

「驚かせて悪い。背中大丈夫か? いい音したけど」
「……平気」

 初めて恐田の声を聞いた。想像どおりドスの利いた低い声だ。
 恐田は俺からスマホを受け取り、イヤホンごとポケットに仕舞った。ズボンの(ほこり)を払い、緩慢な動作で立ち上がる。

「なら良かった。そう言や、パルクール好きなんだな。ああごめん、勝手に見ちまったんだけど」
「構わない。別に好きなわけじゃないから」

 首を(ひね)る。わざわざ授業をサボってまで、好きではないものを見るものだろうか。

「あんたはやったりしないのか? こんな風にやるんだろ、パルクールって」

 俺は階段の手すりの上に座り、踊り場目指してするすると滑り降りた。十段降りるのにかかった時間は五秒。普通に降りたほうが早かった。
「どう?」と俺が階上の恐田を見上げると、恐田は俺から顔を逸らしていた。気を遣われると無性に悔しい。

「そんなに言うんだったら、あんたもやってみろよ!」
「何も言ってないけど」
「どうせあんたもできないん――」

 挑発していると、不意に恐田は階段の手すりを飛び越えた。踊り場を越え、反対側の壁を蹴ると、三階の廊下へと身を転がして着地する。
 服についた(ほこり)を払い、恐田がこちらを振り返る。

「どう?」
「どうって言われても……」

 人間離れした動きを目の当たりにして、俺は頭が追いつかなかった。
 ただ一つ言えることは――

「やっぱりあんた、パルクール好きだろ」
「好きじゃない。俺はただ……」

 何事か言いかけ、恐田が教室へと戻ってゆく。その背中を追いかけ、俺は一段飛ばしで階段を駆け降りる。

「恐田! 職員室で村岡先生が呼んでたぞ!」
「そう」

 恐田が(きびす)を返し、階段を降りてゆく。その背中を追いかけ、俺は手すりの上に座って滑り降りる。先ほどよりも素早く移動できた。
 見たか、と表情で訴えるものの、恐田は心底呆れている――わけではなく、ただただ困惑している。そんな目で俺を見るな。

「恐田、さっきのやつ……パルクールだったか。凄いな! プロみたいだったぞ!」
「プロじゃないけど」
「知ってるけど」

 恐田が何事か言いたそうにしている。怒っているわけではなさそうだ。
 せっかくの機会だ。クラス委員として孤立しているクラスメートと親睦を深めよう。
 俺は恐田と肩を並べた。

「あれよりもっと凄いことできるのか? 動画でやっているようなやつとか」
「凄いことはできない。……だけど、簡単なやつなら」
「じゃあ見せてくれよ。あんたの凄いところ、もっと見たいからさ」

 リップサービスは過剰なくらいが丁度良い。褒められて嫌な人間はいないのだ。それに、大袈裟に言っただけで本質は嘘ではない。恐田の動きに見惚(みと)れたことは事実なのだ。
 笑ってみせると、突如恐田は駆け足になった。二階に降り、廊下を爆走してゆく。

「なっ……にぃ!?」

 恐田の背中が小さくなってゆく。何故いきなり走り出したのか見当もつかない。人は思いもよらないことに直面すると、身体が動かなくなるというのは本当だったようだ。
『廊下は走るな』という貼り紙が目に飛び込んだ。

「マズいッ……!」

 廊下を走って誰かに怪我でもさせれば、先生に目を叱られる。クラス委員として、それだけは避けなければならない。
 床を蹴り、俺は恐田に追従した。

「恐田! 急にどうした!? 先生は職員室だぞ!?」

 俺の声が届いていないのか、恐田は加速し続ける。
 やがて突き当たりまで到達すると、恐田は大きく跳躍した。突き当たりの壁を蹴り、そのまま窓側の壁を蹴り、(ひね)りを加えたバック転を披露する。
 綺麗に着地した恐田がこちらを見つめている。無表情だが、したり顔に見える。

「あんた、まさか……!」

 俺の言葉を待たず、恐田はこちらへ向かって駆け出した。止めようと腕を伸ばすが、すんでのところで半身を(ひね)り、俺の手をかわした。俺の背後に回り、そのまま反対方向へと駆け抜ける。
 バッと振り返り、恐田の背中へ向かって俺は声を荒らげる。

「『見せてくれ』とは言ったけど、今じゃねぇだろォッ!!」

 飛んだり跳ねたり回ったり、恐田は無重力空間さながらのアクロバットを披露してゆく。廊下を歩く生徒が次々と悲鳴を上げてゆく様はさながら台風だ。せめてTPOを(わきま)えてほしい、という俺の切実な願いは届かなかったようだ。畜生。
 台風とは異なり実害は出ていないが、いつ何が起こってもおかしくはない。俺は堪らず声を張り上げる。

「恐田ァッ! 廊下は走るな! 危ないだろッ!」
「わかった」

 恐田は急カーブして一年の教室に飛び込んだ。俺も後を追うと、恐田は昼食中の生徒を()うようにベランダへ向かって突き進んでいた。楽しい昼食が一転、誰もが困惑の表情を浮かべている。

「そうはならないだろッ!!」

 どこの世界に『廊下を走るな』を『教室なら走ってオッケー♪』と曲解する人間がいるというのか。
 ここにいるよ!

「恐田!! 人がいるところは危ない!! 戻れ!!」

 恐田の後を追い、机の合間を縫ってゆく。皮肉な話だが、同じ行動を取ると、恐田の凄さを実感できた。
 恐田は机や椅子にぶつかりそうになる度、身体の軸を(ひね)り、進行方向を変えている。簡単なように見えるが、体幹が良くなければできない芸当だ。
 一方、体幹が良くない俺はいろんなものにぶつかっている。机に、椅子に、バッグに、身体に。幸い大きな被害に繋がらなかったものの、終始冷や汗ものだった。

「観念しろ、恐田!」

 ようやく教室の隅まで恐田を追い詰めた。逃げられないように、すり足でにじり寄り、手を伸ばす。

「おりゃっ!」

 捕まえた――と思いきや、俺の手は恐田ではなくカーテンを掴んだ。恐田は棚の上をするりと滑り、背後に回って俺の手をかわしていたのだ。
 苛立ちのあまり棚に拳を叩きつける。

「クソッ! ちょこまかとッ!」

 入り口を振り返る頃には、既に恐田は教室から立ち去っていた。
 一年生から奇異の視線を向けられ、俺は冷静さを取り戻す。

「……はは、ごめんなぁ。今、校内の見回り中なんだ~! おっ、この机ガタが来てるなぁ! 先生に交換してもらうように伝えとくわ! そんじゃっ!」

 そそくさと教室を後にし、俺は「ふう」と額の汗を拭う。早く恐田を捕まえなければ、良くない風聞が立ってしまう。
 
「俺はクラス委員なのに……!」

 階段に差し掛かる。現在二階。恐田は上と下どちらに向かったのだろう。
 丁度その時、階下からクラスメートの目黒が上ってきた。ペットボトルのスポーツドリンクを飲んでいる。

「おっ、鬼越。先生にまた雑用押しつけられたんだって? よくやるよなぁ。今度は何だ? ノート集め?」
「目黒! 恐田を見たか!?」
「ん? ああ、恐田ならさっき見かけたぜ? 体育館の方へ向かって――」
「サンキュ!」
「あっ、おい鬼越! 飯は――!?」

 階段を駆け下り、体育館に続く連絡通路へ向かう。
 
「見つけたッ!」

 連絡通路の手前に恐田がいた。村岡先生から何かを受け取っている。
 俺に気付くなり、恐田は身を(ひるがえ)し体育館へと向かった。俺は徐行から一転、アクセル全開になる。

「おう鬼越。恐田を連れてきてくれてありがとな。お礼にジュースの一本でも――」
「ありがとうございまぁぁぁす!!」

 村岡先生の横を通過し、連絡通路へと入る。背後から「授業までには戻れよー」と聞こえてきたが、今はそれどころではない。恐田に続いて体育館へと踏み込む。
 館内には男子生徒が一人いた。制服姿でバスケを行っている。恐田の姿は無い。
 男子生徒が俺に気付いて、シュートをキャンセルした。一年の時のクラスメート金子だ。
 
「鬼越、お前がここに来るなんて珍しいな。一緒に1on1やるか?」
「恐田は?」
「恐田? ……ああ、さっき来たヤツか。それなら多分――」

 金子は人差し指をピンと立てた。俺は金子の隣まで行き、頭上を見上げる。

「あっ!」

 体育館の二階通路に恐田がいた。欄干に腕をのせ、退屈そうに俺たちを見下ろしている。

「恐田と鬼ごっこか? 仲が良いな、お前ら」
「遊びじゃない! 先生からアイツに渡したい書類があるから探してきてって言われて……」
「書類って、アレのこと?」

 金子の視線を追いかけると、恐田が手にした封筒をひらひらと振っていた。
 
「あ……う……たぶん、そう」

 先ほど先生が恐田に手渡していたのは、あの封筒だったのか。となると――

「なら追いかける理由ねーじゃん」
「……確かに」

 先生から礼を言われた時点で気付くべきだった。どうやら焦りのあまり冷静さを欠いていたようだ。

「恐田、それが先生の用件か?」

 恐田が(うなず)いてみせる。

「そうか。なら任務完了だ。これ以上、先生に迷惑かけるなよ? 呼ばれたら行け。いいな?」

 恐田は素直に(うなず)いた。教師への反抗心があるわけではなさそうだ。では、何故授業をサボったのだろうか。しかも、一番自由がある自習の時間で。

(素直なのか、あまのじゃくなのか……)

「……どうだった?」
「どうって、何が?」

 恐田は不満そうに目を細めた。何かデリカシーのないことを言ってしまっただろうか。
 しばし思案し、俺は恐田との会話を思い出した。

「……ああ、あんたの動きね。そりゃもう凄かったよ。捕まえたと思ったかわされてるし、見つけたと思ったら次の瞬間には遠くにいる。届きそうで届かない。忍者っつうか――まるでヒーローだ」

 ヒーローと言っても、『お騒がせヒーロー』の類だが。

「ヒーローって、お前……」

 隣で金子が苦笑する。

「『鬼ごっこ』と言い『忍者』と言い、鬼越って結構子供っぽいんだな」
「鬼ごっこじゃねぇっての! 金子だって見ただろ!? 恐田の動きを! 尋常じゃねぇんだって!」
「さすがに盛り過ぎだろ」

 金子がけらけらと笑う。リアリストめ。まるで俺がオオカミ少年ではないか。いや、金子の感覚が普通なのかもしれない。俺だって、恐田の動きを目の当たりにしなければ、こんな風には思わなかった。
 不意にガラガラと音が聞こえ、俺と金子は二階を見上げる。すると、恐田が窓を開け放ち、窓枠に飛び移っていた。足元が不安定だと言うのに、恐田の身体は安定している。バランス感覚にも秀でているようだ。

「お、おい! そんなところに飛び乗ったら危ないぞ!?」

 おろおろとする俺の頭上で、恐田がこちらを振り返る。退屈そうな顔に熱が宿っていた。

「……ヒーローは逃げたりしない」

 次の瞬間、恐田は窓枠から飛び降りた。
 俺はサンダルのままにもかかわらず、思わず体育館の外へと飛び出した。左右を見渡しても、恐田の姿はどこにもない。
 不意にガサガサッと音が鳴った。頭上を見上げると、人影が目の前を通過した。

「恐田ッ……!」

 恐田は鉄棒のように木の幹から隣の木へと飛び移ると、そのまま地上へと降り立ち、俺を一瞥(いちべつ)して去っていった。
 俺を挑発するように人差し指をくいくいっと曲げながら――