瞳が物語る

涼の様子がおかしくなって以降、僕自身も少しおかしかった。

ランチタイムの『charmée』。他のスタッフと仕込みのおかげでそこまで忙しくはない。カラリンというベルの音が聞こえた。振り返るとあの女性。
「いらっしゃいませ。また来てくれたんですね。」
遠慮がちにコクリと頷く彼女を席に案内する。
「ランチセットで…」
「ありがとうございます。…この前はごめんね?あいつになんか言われた?」
触れていいのか分からないが、小さく声をかけた。彼女はピクリ、と反応し、こっちを見る。
「あ!いや!全然!」
「…そ?ならいいんですけど…。」
そういうと、彼女は僕を見て、眩しそうに目を細めた。なんだろう?それ以来、彼女はランチタイムの常連さんになったのだ。

「最近、よく来てくれますね。」
オーダーを聞きながら、今日も来てくれた彼女に声をかける。ランチタイムに一度来てから、彼女はここが気に入ってくれたらしく、週に二回ここでランチを食べる。
「あはは…店長さんの作るもの、美味しいし、ゆっくりとした雰囲気も落ち着くので…。」
少し顔を赤くして恥ずかしそうに笑う。普段は客とは必要以上に親しくはしないのだが、なんだか、少し彼女と仲良くなりたくなった。そう思ったときに、アイツの顔が浮かぶ。
「僕、琢磨って言うんです。店長さん呼びでもいいんですけど。よく来てくださるし、そう呼んでもらえたらな。」
そういうと、彼女はあわあわとポケットからなぜか名刺を取り出した。
「こ、こういう者です…!」
差し出された名刺を受け取る。
「ご丁寧にどうも。愛さんですね。」
クスクスと笑うと、愛さんが「間違った⁉︎」とつぶやいた。なんだか、真面目で可愛い。その日から、愛さんは僕にとって特別なお客様になった。

愛さんがよく来てくれるようになってから、どれくらい経っただろうか?涼はあの日以来、店に来ると、さりげなく店内を見渡す。愛さんを探しているのかもしれないが、僕から何か言うことはない。涼は夜にしかここに来ないから、彼女がランチタイムに来ていることは僕しか知らない。ふと、最近、愛さんが来てないことに気づく。最後に見た彼女は「繁忙期が始まる…」と初めて会った時のような表情をしていた。おそらく仕事が忙しくて、ランチの時間もとれてないんだろう。心配だな。そんなことを考えながら、明日の仕込みをしていたら、ベルの音が聞こえた。ホールに行くと、愛さんが疲れた様子でそこにいた。
「すみません。ラストオーダーとかって…?」
店内に誰もいないことに気付いたのか、時間を気にする愛さん。
「大丈夫。好きな席にどうぞ。」
あの日座っていたソファー席。向かいの席まで行くのも面倒なのか、涼の座っていた側に崩れるように座る。
「甘いもの?ディナー?」
メニューをパラパラめくって見せる。
「…これで。」
力なく指をさしたメニューは小さめのオムライスとケーキのセットだ。
「はーい。すぐ作ってきますね。」
僕はそう言って、キッチンに向かった。手早くオムライスを作り、冷やしていたケーキを出す。あの時と同じかぼちゃのプリンケーキ。お皿に置いて、位置を微調整してたら声が聞こえた。急いで、料理を持ったまま、キッチンから出る。

そこにはあの日と同じように愛さんに声をかけるアイツがいた。