瞳が物語る

涼くんの言葉に思考が停止する。
「え、あ、いや、ごめんなさい…?」
私は驚きすぎて、ポロポロとこぼすように返事した。
「ちぇっ…まぁいいや、今から今から。」
私の返事なんて、気にするでもなく、涼くんはプリンをパクと食べた。琢磨さんの方を見ると、少し意味ありげに笑みを浮かべられた。
「今からって…」
今、お断りしたんだけど?そう言いたくて、涼くんを見ると、涼くんは手に持った紙をじっと見ていた。カフェの柔らかな光で、手元の紙が反対から透けて見える。
「楽譜…?」
何やら音符が踊っている。
「そ。」
もぐもぐと口を動かしながら、短く返事をする涼くん。
「涼はシンガーソングライターなんだよ。」
琢磨さんが言う。涼くんの手元の荷物に視線を移した。
「え、すごい。」
「まぁ、オレ、まだ有名とかじゃないけど。」
音楽。私は、あんまり自信がないジャンル。触れてこなかった世界。涼くんが置いている荷物は、ギターだろう。楽器が弾ける人自体すごいけど、シンガーソングライター。へぇ、と感嘆のため息を漏らす。そのため息に涼くんが反応した。
「なに?オレに興味でた?好きになりそう?」
涼くんの言葉に、今度は呆れのため息。彼の軽い言葉をもう気にするでもない。そう思い、自分もパソコンに向き合う。
「…。」
静かな時間がゆっくりと過ぎていく。ある程度、片付いた仕事を程よく整理して、パソコンを閉じた。ちらりと目線を上げると涼くんは、何かを書き込みながら、反対の手で小さく指を動かしていた。真剣な視線に「なんだ、かっこいいじゃないか。」と思ったのは内緒だ。
「ごちそうさまでした。」
少し涼くんの様子を見てから、まだ頑張るのかな、と思い、先に帰ろうと席を立つ。
「ね、次、いつ来んの?」
会計をしていたら、涼くんが振り返ってこっちを見ていた。琢磨さんを見ると、にこりと微笑まれる。
「…うーん?いや…決めてはない…。」
別に決めてはないので、そのまま返事する。
「りょーかい。じゃあ、次会ったら、運命だ。」
そう言って笑う涼くん。
「2人とも結構な頻度で来てるからなぁ。」
琢磨さんが呆れたように言った。

五日後、私は忙しさで昼に来れなかったので、夜の『charmée』に来ていた。すると、見覚えのある金髪がひょっこりとソファから見えていた。
「愛さん、こんばんは。」
琢磨さんは、わざと私の名前を呼んだ…気がした。
ぴょこ、と涼くんがソファから顔を覗かせる。
「お!やっと会えた!」
そう言って、涼くんは、自分の目の前のソファを指さした。断る理由もなく、そこに座らせてもらう。
「やっぱ、運命だからかな〜。」
ふふん、と満足気な涼くんの言葉に、呆れた顔をして見せる私。
「涼、毎日来てたのに運命はズルじゃない?」
ニヤリと笑う琢磨さんからの言葉に、え、と声を漏らす。
「おい、バラすなよ!」
涼くんが焦ったような怒ったような反応をする。なんとも反応しづらい。涼くんが、琢磨さんを追い払い、私を見た。
「会いたかったんだけど。だめ?」
キャラメル色の瞳が、私を見る。子犬のようだ。
「好きにしたらいいと思うけど…。」
ぽり、と頬をかきながら言うと、涼くんは、安心した顔をした。その顔は、なんだか幼くってかわいい。
「そう言えば、涼くん、何歳なの?」
「19。次の3月でハタチになる。」
「わっか⁉︎若い!」
年齢を聞いて、ソファに崩れる私。眩しすぎる…。
「愛さんは?」
「24…次で25歳…。」
「じゃあ、琢磨と1歳違いか。あいつ26になる年だし。」
私が勝手にダメージを受けてる様を気にせず、話し続ける涼くん。
「めでたいね…。20歳かぁ…。何か欲しいものはある…?」
急に芽生えた年上精神。お姉さんが何か買ってあげよう…。そう思って言うと、涼くんは、何かを思いついたような顔をした。
「あ!じゃあさ、20歳の誕生日プレゼント。デートしてくれない?」
「え?」
突然のデートのお誘い。そんなあまりにも青春すぎるものに頭が追いつかない。涼くんが、私を見つめた。
その瞳は、熱く、鋭かった。