瞳が物語る

見つけた。あの日のように少し遅めの時間の『charmée』。
「おねーさん。」
声をかけた背中がビクリと跳ねる。おねーさんは、ギギギと首をまわしかけて、顔を元に戻した。
「いや、気付いてんじゃん。」
なんで今日はこっち向きなの?この前は店の入口に向いて座ってたじゃん、なんて声をかけながら向かいに座った。
「ナ、ンデショウカ…?」
「何その喋り方。緊張してんの?」
カタコトか?ってくらいガチガチの話し方。笑いながら返すと、おねーさんは目を泳がせた。キッチンの方を見ている。目が助けを求めているようだ。
「こら、お客さんをいじめちゃダメだよ。」
キッチンから琢磨が出てきた。
「いじめてねーよ。」
「ごめんね、愛さん。仕事終わりになのにこんなのに絡まれて困っちゃうよね?」
琢磨が、おねーさんに話しかけた。
「いつの間に名前で呼んだりしてるわけ?」
「よく来てくれてるんだよ。多かったら週に2回とか?この時間帯に来るのは、あの日以来だけど。このカフェのファンになったんだって。」
ね?、なんて琢磨が笑顔で、おねーさんを見る。すると、オレの前ではガチガチだった顔が、ふにゃりと和らいだ。
「琢磨さん、ケーキもドリンクも美味しくて…。脳に染み込むというか…。」
「ふふ、うれしい。癒されていってね。」
にこりと琢磨が笑い、席を離れた。あ…とおねーさんが不安そうな顔に戻る。
「愛さん、って言うんだ?」
オレが言うと、愛さんが、しまったとでも言うように顔を強張らせる。
「別にとって食おうってんじゃないからさ?琢磨と仲良くしてんだから、常連のオレとも仲良くしようよ。涼って呼んで。」
「…涼…さん?」
「涼くんの方がいいな。」
少し疑わしげにオレを見る。
「…あの、涼くん、私、仕事の資料見ながら食べるので…」
「じゃあ、オレもそうしよ〜っと。」
愛さんが諦めた顔をして、パソコンを開いた。オレも自分の作業を始める。カバンを漁りながら、キッチンに向かって叫ぶ。
「琢磨〜!オレ、あれ食べたい〜!」
バタンと冷蔵庫を閉める音がした。琢磨がこっちに来る。
「はい、いつもの。キャラメルプリンね。」
「あんがと。」
ぶふっと笑った音がした。受け取ったスプーンを咥えながら、目の前を見る。笑った本人が、サッと目を逸らした。
「なぁに?何に笑ったの?なんかおかしい?」
ぐんとテーブルに手をついて近づく。琢磨が愛さんを庇うように腕を伸ばし、遮った。オレは、何もしねぇよ、という意味で片手をひらひらさせた。もう一度ソファーに沈む。
「涼、迫らないで。…でも僕も何に笑ったのか気になるなぁ〜。」
琢磨が、愛さんを見る。愛さんは、チラリと俺のキャラメルプリンを見た。
「い、いや…似てるから…」
「涼とキャラメルプリンが?…あぁ〜。」
俺の頭を見て、琢磨が笑った。何笑ってんだよ。
「そ…そう!で、共食いだと思ったら、おかしくなっちゃってっ…‼︎」
愛さんが笑いを堪えきれずに、くくっ…と喉を鳴らした。笑いすぎて、涙が出ている。
「…かわいいじゃん。」
涙に濡れた黒い瞳が、星空を映す水たまりのようだ。
「へ?」
オレの一言に、ぱりくちとする愛さん。琢磨も少し驚いた顔をしている。
「ねぇ、愛さん。オレと付き合おうよ。」
『charmée』が静かになる。空気を読まない冷蔵庫だけが、ガラリ…と氷を吐き出した。