この人はまた何を言い出すんだろう────。
「・・そ、それはさすがに無いですよ、夏樹君・・」
冗談って顔じゃないし。どう受け止めていいものか分からなかった私は、若干苦い顔でそう返した。すると彼は真面目な顔のまま、首を傾げた。
「ダメかね、やっぱり」
ダメかねって・・どこまで本気なんだろうこの人。相変わらず行動が読めないというか、掴めない人だ・・。
「だ、だめですね。私を慰めようと思ってそう言ってくれたってのは、分かるんですけど・・」
すると彼はその美しい瞳でじっと私の顔を見つめた。な、何・・? 今度はどんな突拍子もない事を?
「なんとなくだけど・・ひまりサンとはこのままいつか、家族になってもいいかなと思ってたから」
────え・・?
そうか。何となく分かった。
この人はなかなか人を受け入れない分、一度認めた人間に対する情がもの凄く深いんだ。
それを何となく理解できたのは・・多分私もそのタイプの人間だから。
だから私も難しい。央君に別れを告げられたとて、その気持ちを簡単に消すなんて事は出来ない。
「夏樹君のそれはただの情で、恋愛の類では無いですよ。だから彼氏彼女とかじゃなくていいんじゃないですか? 芽留ちゃんみたいに、普通にお友達の方が自然な流れかと」
推しと崇める存在にそこまで言ってもらえるなんて、気持ちはとても有難くて。私にとっても夏樹君は、もう遠くから眺めるだけの対象では無くなっていたから。
「今更なのですが・・私とお友達になってもらえませんか・・?」
私がそうお伺いをたてると、彼はその美貌に美しい微笑を浮かべた。
「うん。そうだね」
失われてしまった私の恋。だけど全てが消えてしまった訳じゃない。
恋する気持ちと一緒に知ることができた、人を大切に想う気持ち。それだけは大切にしたい。
◇◆◇◆◇◆
「ひまりサンと別れたらしいね」
廊下に置いてある冷蔵庫からコーラを取り出したとき、最近ほとんど俺と会話をしなくなったあいつが、珍しくそう声をかけてきた。
「だから? 何か文句でもある?」
久しぶりにそっちから声かけてきたと思ったらそれかよ。俺は若干苛立って、横柄な答えを返した。
「考え直したら。随分つまらん理由で別れたみたいだけど」
「つまんなくねぇよ!」
怯む事なく正論とばかりに睨みを向けてきた夏樹に、俺は益々苛立った。
「本当は俺のことが嫌いだったんだと。なのに付き合うか普通? あいつは趣味で書いてる小説のネタにできれば誰だってよかったんだよ」
「どう見たって今は違うだろ」
「分かんねーだろそんなの! 母さんだって・・!」
あの日が来る前の母の姿────それを思い出すたびに、どこか背筋が寒くなる。
「母さんだって・・居なくなる直前まで普段と変わんなかっただろーが!」
母さんは至って普通だった。
普通に笑って普通に食べて・・腹の中では俺らを捨てるつもりだったのに?
意味が分からん。明日居なくなるつもりの奴が、どうして普通に笑えるんだよ?
所詮他人の頭の中なんて絶対に分からない。愛想笑いしたり、思ってない事にも同調したり、皆そうやって自分を護るために嘘をついて生きている。皆が皆お前みたいに、周りにどう思われようが自分の道を突き進めるような強い人間じゃない。
陽葵は違うと思ってた。お前と同じで嘘をついてまで周りに合わせる様な小賢しい奴じゃないって。だから信用してたのに────・・
そもそも始まりから嘘じゃねぇか。
それのどこをどう信じろっていうんだよ?
「なら、俺が貰っていい?」
その夏樹の言葉を聞いて────・・
気づいた時にはもう、俺はあいつに掴み掛かっていた。
だけど襟首を掴んで睨みつける俺から、あいつは少しも目を逸らさずにこう言った。
「なんで怒るの? もう別れたんでしょ? 央に口出す権利なんかあるの?」
それが正論なのは俺にも分かってる。
でも何でだよ夏樹・・
今までずっと一緒にやって来たのに・・どうして突然俺を苦しめる様なことばかりするんだよ。
もう本当に俺のことなんか要らない────そういう事なのか・・?
「じゃあこうしようか?
トライアルで良い結果を残した方が、ひまりサンを貰う。・・どう?」
何でだよ、夏樹────!
「・・そ、それはさすがに無いですよ、夏樹君・・」
冗談って顔じゃないし。どう受け止めていいものか分からなかった私は、若干苦い顔でそう返した。すると彼は真面目な顔のまま、首を傾げた。
「ダメかね、やっぱり」
ダメかねって・・どこまで本気なんだろうこの人。相変わらず行動が読めないというか、掴めない人だ・・。
「だ、だめですね。私を慰めようと思ってそう言ってくれたってのは、分かるんですけど・・」
すると彼はその美しい瞳でじっと私の顔を見つめた。な、何・・? 今度はどんな突拍子もない事を?
「なんとなくだけど・・ひまりサンとはこのままいつか、家族になってもいいかなと思ってたから」
────え・・?
そうか。何となく分かった。
この人はなかなか人を受け入れない分、一度認めた人間に対する情がもの凄く深いんだ。
それを何となく理解できたのは・・多分私もそのタイプの人間だから。
だから私も難しい。央君に別れを告げられたとて、その気持ちを簡単に消すなんて事は出来ない。
「夏樹君のそれはただの情で、恋愛の類では無いですよ。だから彼氏彼女とかじゃなくていいんじゃないですか? 芽留ちゃんみたいに、普通にお友達の方が自然な流れかと」
推しと崇める存在にそこまで言ってもらえるなんて、気持ちはとても有難くて。私にとっても夏樹君は、もう遠くから眺めるだけの対象では無くなっていたから。
「今更なのですが・・私とお友達になってもらえませんか・・?」
私がそうお伺いをたてると、彼はその美貌に美しい微笑を浮かべた。
「うん。そうだね」
失われてしまった私の恋。だけど全てが消えてしまった訳じゃない。
恋する気持ちと一緒に知ることができた、人を大切に想う気持ち。それだけは大切にしたい。
◇◆◇◆◇◆
「ひまりサンと別れたらしいね」
廊下に置いてある冷蔵庫からコーラを取り出したとき、最近ほとんど俺と会話をしなくなったあいつが、珍しくそう声をかけてきた。
「だから? 何か文句でもある?」
久しぶりにそっちから声かけてきたと思ったらそれかよ。俺は若干苛立って、横柄な答えを返した。
「考え直したら。随分つまらん理由で別れたみたいだけど」
「つまんなくねぇよ!」
怯む事なく正論とばかりに睨みを向けてきた夏樹に、俺は益々苛立った。
「本当は俺のことが嫌いだったんだと。なのに付き合うか普通? あいつは趣味で書いてる小説のネタにできれば誰だってよかったんだよ」
「どう見たって今は違うだろ」
「分かんねーだろそんなの! 母さんだって・・!」
あの日が来る前の母の姿────それを思い出すたびに、どこか背筋が寒くなる。
「母さんだって・・居なくなる直前まで普段と変わんなかっただろーが!」
母さんは至って普通だった。
普通に笑って普通に食べて・・腹の中では俺らを捨てるつもりだったのに?
意味が分からん。明日居なくなるつもりの奴が、どうして普通に笑えるんだよ?
所詮他人の頭の中なんて絶対に分からない。愛想笑いしたり、思ってない事にも同調したり、皆そうやって自分を護るために嘘をついて生きている。皆が皆お前みたいに、周りにどう思われようが自分の道を突き進めるような強い人間じゃない。
陽葵は違うと思ってた。お前と同じで嘘をついてまで周りに合わせる様な小賢しい奴じゃないって。だから信用してたのに────・・
そもそも始まりから嘘じゃねぇか。
それのどこをどう信じろっていうんだよ?
「なら、俺が貰っていい?」
その夏樹の言葉を聞いて────・・
気づいた時にはもう、俺はあいつに掴み掛かっていた。
だけど襟首を掴んで睨みつける俺から、あいつは少しも目を逸らさずにこう言った。
「なんで怒るの? もう別れたんでしょ? 央に口出す権利なんかあるの?」
それが正論なのは俺にも分かってる。
でも何でだよ夏樹・・
今までずっと一緒にやって来たのに・・どうして突然俺を苦しめる様なことばかりするんだよ。
もう本当に俺のことなんか要らない────そういう事なのか・・?
「じゃあこうしようか?
トライアルで良い結果を残した方が、ひまりサンを貰う。・・どう?」
何でだよ、夏樹────!