「・・央は5月で、もう終わっちゃったのよ。来年はひまりちゃんも一緒にお祝いしてね。29日、良かったらひまりちゃんもウチで一緒にケーキ食べる?」
「もう学校始まってるよ」
「そっか、最近は31までじゃないんだもんな。毎年驚くなこれ。自分ときの感覚が未だに抜けないわ〜」
二人は何事も無かったかの様に話を続けていたけど・・聞いてはいけないことを聞いてしまったのだと悟った。
誕生日が別ということは、央君と夏樹君は二卵性の双子ではない。
でも同じ年ということは・・腹違いっていうのも違うだろう。同じ年に別々の女性から亮司さんの子供が生まれるってのは、流石に無い気がする。
考えられるのは漫画でよくある、ある日突然兄弟ができるパターン。つまり両親の『連れ子同士』というやつだ。
でも・・なんかそれもおかしい。
だってそれなら親が離婚したら・・子供同士はまたバラバラになるのが普通なのでは────・・
「ひまりちゃん」
ハッとして顔を上げると、そこには亮司さんの優しい笑顔が私を待っていた。
「洗い物くらい俺やるよ。ひまりちゃんは座ってて」
「あ、いえ・・皆さんお疲れぽいですし、大丈夫ですよ」
私がそう答えると、夏樹君が「ごちそうさまー」と言ってリビングから出て行くのが見えた。「コラ夏樹! 片付けくらい手伝いなさい」と亮司さんが声をあげたけど、彼がそのまま二階へ上がっていく足音が聞こえた。
「まったくあいつは・・央なら絶対やってくれるのに、あの子あんなので大丈夫なのかねぇ・・」
「ま、まあ・・夏樹君なら誰かがやってくれそうですけどね。学校でも大人気ですし」
「そうかなぁ。あの子友達少ないし、家でも央に頼りっぱなしで・・親としては心配なんだけど」
亮司さんと手分けして片付けを進めていると、ふと、彼はこう言った。
「あのさ、ひまりちゃん」
「はい?」
「ひまりちゃんには話しておこうと思うんだけど・・さっきの話。央と夏樹は双子じゃないんだよね」
どきんとした。そうだよな。私が不思議に思ってるって、多分亮司さんは気づいてるよね。
「す、すいません。変なこと聞いちゃって、私・・」
「ううん。いずれ分かることだし。ウチの嫁とは再婚でさ。渚と夏樹は俺の連れ子で、央は嫁の連れ子だったんだけど・・でも嫁は去年、他で男作って居なくなっちゃったんだわ」
────え・・?
でもそれじゃ・・それじゃ央君は────。
「突然居なくなって、ポストに手紙と一緒に離婚届けだけ入っててさ。今どこに居るんだかもよく分かんない。まぁ争わなくて済んで良かったのかもしれないとも思ってるんだけどね。央にとっても慣れたこの家離れて面識ない母親の男と暮らすより、こっちのがいいんじゃないかと思うし。少なくとも俺達は央まで居なくならなくて良かったなって思ってる。
だけど央自身はどう思ってんのかなーって・・たまに思うのよ。母親に着いていくっていう選択肢があったら、央はどうしてたんだろうって・・」
亮司さんは皿を拭いていた手を止めた。
「この間さぁ・・央がバイト代入ったからって、お金渡してきたのよ・・」
その時見せた亮司さんの表情は、私の心に深く焼きついている。
「・・ショックだったぁ」
だってこんなに切ない笑顔・・私は見たことがない。
「俺ってあいつに何か言ったのかな。あいつがそんなことしないとこの家に居られないと思わせるような事・・自分では夏樹も央も分け隔てなく接してるつもりなのに、気づかないうちに何かしてんのかな・・。自分じゃ分かんなくてさ・・」
やっと分かった────夏樹君のあの言葉の意味。
私は今まで、央君の何を見て来たんだろう。
陽キャの人は悩みなんか無さそうって・・どうしてそんな事を思ってたんだろう。央君だって紗奈ちゃんだって、悩みが無い訳じゃなくて、ただ強いから笑ってる。それだけなのに。
今だってきっと────辛いはずなのに・・
堪らない気持ちで・・下を向く亮司さんの袖を掴んだ。
「ただの親孝行かもしれません。片親の家庭は共働きより家計が大変なのは当然ですし、央君は優しいからそういう事まで気にしたのかも。
ただお父さんの助けになりたかっただけなんじゃないでしょうか」
央君は優しいから。私や夏樹君に対しても、お節介なくらい世話焼きだから。私がそう言うと、亮司さんはへにゃっと、ワイルドに日焼けした美貌を情けなく崩れさせた。
「ひまりちゃんありがとぉぉ〜」
そして彼はやっぱり日に焼けた腕を伸ばし、私の頭を優しく撫でた。
「お願いひまりちゃん・・。央が何か悩んでるようだったら、あいつの力になってやって」
────亮司さん。
『力になる』って・・どういうことですか?
私に出来ることって何があるのかな。
私なんかよりずっと重い問題を抱えながら、あんなに明るい笑顔で笑ってる・・強いあの人に。
私で力になれることって、一体何があるんだろう・・。
「もう学校始まってるよ」
「そっか、最近は31までじゃないんだもんな。毎年驚くなこれ。自分ときの感覚が未だに抜けないわ〜」
二人は何事も無かったかの様に話を続けていたけど・・聞いてはいけないことを聞いてしまったのだと悟った。
誕生日が別ということは、央君と夏樹君は二卵性の双子ではない。
でも同じ年ということは・・腹違いっていうのも違うだろう。同じ年に別々の女性から亮司さんの子供が生まれるってのは、流石に無い気がする。
考えられるのは漫画でよくある、ある日突然兄弟ができるパターン。つまり両親の『連れ子同士』というやつだ。
でも・・なんかそれもおかしい。
だってそれなら親が離婚したら・・子供同士はまたバラバラになるのが普通なのでは────・・
「ひまりちゃん」
ハッとして顔を上げると、そこには亮司さんの優しい笑顔が私を待っていた。
「洗い物くらい俺やるよ。ひまりちゃんは座ってて」
「あ、いえ・・皆さんお疲れぽいですし、大丈夫ですよ」
私がそう答えると、夏樹君が「ごちそうさまー」と言ってリビングから出て行くのが見えた。「コラ夏樹! 片付けくらい手伝いなさい」と亮司さんが声をあげたけど、彼がそのまま二階へ上がっていく足音が聞こえた。
「まったくあいつは・・央なら絶対やってくれるのに、あの子あんなので大丈夫なのかねぇ・・」
「ま、まあ・・夏樹君なら誰かがやってくれそうですけどね。学校でも大人気ですし」
「そうかなぁ。あの子友達少ないし、家でも央に頼りっぱなしで・・親としては心配なんだけど」
亮司さんと手分けして片付けを進めていると、ふと、彼はこう言った。
「あのさ、ひまりちゃん」
「はい?」
「ひまりちゃんには話しておこうと思うんだけど・・さっきの話。央と夏樹は双子じゃないんだよね」
どきんとした。そうだよな。私が不思議に思ってるって、多分亮司さんは気づいてるよね。
「す、すいません。変なこと聞いちゃって、私・・」
「ううん。いずれ分かることだし。ウチの嫁とは再婚でさ。渚と夏樹は俺の連れ子で、央は嫁の連れ子だったんだけど・・でも嫁は去年、他で男作って居なくなっちゃったんだわ」
────え・・?
でもそれじゃ・・それじゃ央君は────。
「突然居なくなって、ポストに手紙と一緒に離婚届けだけ入っててさ。今どこに居るんだかもよく分かんない。まぁ争わなくて済んで良かったのかもしれないとも思ってるんだけどね。央にとっても慣れたこの家離れて面識ない母親の男と暮らすより、こっちのがいいんじゃないかと思うし。少なくとも俺達は央まで居なくならなくて良かったなって思ってる。
だけど央自身はどう思ってんのかなーって・・たまに思うのよ。母親に着いていくっていう選択肢があったら、央はどうしてたんだろうって・・」
亮司さんは皿を拭いていた手を止めた。
「この間さぁ・・央がバイト代入ったからって、お金渡してきたのよ・・」
その時見せた亮司さんの表情は、私の心に深く焼きついている。
「・・ショックだったぁ」
だってこんなに切ない笑顔・・私は見たことがない。
「俺ってあいつに何か言ったのかな。あいつがそんなことしないとこの家に居られないと思わせるような事・・自分では夏樹も央も分け隔てなく接してるつもりなのに、気づかないうちに何かしてんのかな・・。自分じゃ分かんなくてさ・・」
やっと分かった────夏樹君のあの言葉の意味。
私は今まで、央君の何を見て来たんだろう。
陽キャの人は悩みなんか無さそうって・・どうしてそんな事を思ってたんだろう。央君だって紗奈ちゃんだって、悩みが無い訳じゃなくて、ただ強いから笑ってる。それだけなのに。
今だってきっと────辛いはずなのに・・
堪らない気持ちで・・下を向く亮司さんの袖を掴んだ。
「ただの親孝行かもしれません。片親の家庭は共働きより家計が大変なのは当然ですし、央君は優しいからそういう事まで気にしたのかも。
ただお父さんの助けになりたかっただけなんじゃないでしょうか」
央君は優しいから。私や夏樹君に対しても、お節介なくらい世話焼きだから。私がそう言うと、亮司さんはへにゃっと、ワイルドに日焼けした美貌を情けなく崩れさせた。
「ひまりちゃんありがとぉぉ〜」
そして彼はやっぱり日に焼けた腕を伸ばし、私の頭を優しく撫でた。
「お願いひまりちゃん・・。央が何か悩んでるようだったら、あいつの力になってやって」
────亮司さん。
『力になる』って・・どういうことですか?
私に出来ることって何があるのかな。
私なんかよりずっと重い問題を抱えながら、あんなに明るい笑顔で笑ってる・・強いあの人に。
私で力になれることって、一体何があるんだろう・・。