「うわーさむ、てかもう22時じゃん、金曜とはいえみんな羽目外しすぎだよなー」
「さむい、はやく帰りたい」


隣に並ぶウツミが、ぶるっと肩を震わせてマフラーに顔を埋めた。

ファミレスを出て、女の子たちを駅まで送って解散した。都内有数の私立進学校であるうちの高校は、遠方からやってくる人も少なくない。そんなわけで、大体の生徒が学生寮に住んでいる。それはおれとウツミも例外ではなく。


「23時半に寮の入口締め切られるのに、あいつら元気だよなー」
「俺たちには真似できないね」


ウミネコ率いる男子群は、門限ギリギリまで遊び尽くすだとかなんだとか。ゲーセンかボーリングにでも行ったんだろう。ああ見えても流石に普段は真面目に勉強している奴らなので、時々こうやって羽目を外したがる。

ふと横を見ると、ウツミはかなり眠そうに白い息を吐いていた。鼻が少し赤くてかわいい。あ、かわいいとか、男に思うのは変だよな。あぶない。

ていうか、本当にウツミは睡眠欲以外の欲がない。人並みにお腹が減ることはあるだろうけど、お腹が空いたから何かを腹に入れる、といった感じで、何か好きなものを食べたい!というような場面を見たことがない。性欲もそう。健全な男子高校生たちが所構わず繰り広げる下ネタに、ウツミは眠そうに欠伸するだけでまったく参加しない。まあ、おれも笑ってやり過ごしてるけど。


「……ウツミさ、」
「ん?」
「今日タイプの子いた?」
「……珍しいね、イチがそんなこと聞くの」
「おまえも今日聞いてきただろ、仕返しだよ」
「あー、なるほど」


寮の入口について、オートロックを開ける。おれもウツミも2階なので、共同スペースを抜けて階段を登った。タン、タン、と、おれの少し先をウツミがのぼっていく。


「どうだろ、タイプってなんだろうね」


タン、タン、ウツミのローファー、そこがすり減ってすこし変な足音だ。


「おれが聞いてるんだけど」
「……ね、イチ、今日一緒に寝てくれない?」
「ああうん……って、は?」
「最近あんま夜寝れなくてさ、誰か横にいてくれたら寝れるかもって」


はあ? 何言ってんの、おまえ。

2階まで上がり切ってウツミを見ると、マフラーのせいで表情はよく読み取れない。けれど冗談の類じゃないことは目の色でわかる。もう1年半以上一緒にいるんだから。


「いやいや、そんなのひとりでもいいだろ、金曜なんだし」
「金曜だからでしょ」
「だからってなんでおれが添い寝しないといけねーのよ」
「ウミネコたちとよくゲームしたりしてオールしてるじゃん、同じでしょ?」
「いやまあそうだけど……」
「なに? ダメなことでもある?」


そう言われると、黙り込むしかない。ここで断るって、確かにおれが意識しすぎ? ウミネコや他の奴とは泊まるのに、確かにウツミとは夜を一緒に過ごしたことなんてない。そもそも、そういう集まりにウツミは参加しないし。


「いや、ダメじゃないけど……」
「うん、じゃあ風呂入ったら俺の部屋来て」
「え、」
「じゃああとでね、イチ」


いやいや、あとでねって……。

その声が少し嬉しそうだったのがわかってしまって、完全に調子が狂う。ウツミがおれに懐いてることはわかってるけど、いや、一緒に寝るってどうなの? 友達なら、泊まるのだって普通か? やばい、わかんなくなってきた。

とりあえず、おれはこの気持ちをウツミに悟られることがいちばんまずい。ああ言われると、もう断ることもできないし。どうにか乗り切るしかない。おれの気も知らないで、ウツミってほんと勝手なやつだよ。さっきからおれはずっと心臓がうるさいっていうのに、勝手なこと言うなよ、ばかやろう。