冬休みが明ける前日、1月5日。年明け最初のコンサートなんだろう、年初めの挨拶をする声があちこちで聞こえる。都内でも有名な大ホールに足を踏み入れたのは、開演5分前、ギリギリだった。ウツミのメッセージには返事をしなかったし、来るかどうかギリギリまで迷ったけれど、当日になったら勝手に足が動いて電車に乗り込んでいた。おれも本当懲りない奴。

そういえば滝先生の知り合いに誘われたんだっけ。席に座って、入口でもらったパンフレットを見る。ウツミが出るのは休憩後の2部からみたいだ。全然音楽のことに詳しくないけれど、アマチュアバンドにしては観客数が多いな。おれはひとまず端っこの席を選んだ。こういうクラシックコンサートに来たこと自体初めてで足がすくんだ。会場の空気は澄んでいて静まり返っている。普段過ごしている世界とは切り離された位置にあるのではないかと思う程。

なんとなく、ウツミに素直にここへやってきたことがバレたくなくて、キャップを深くかぶった。気休めだけど。

やがて開演時刻になると、暗闇のステージ上でオーボエの音からチューニングが始まった。小さな楽器の音から重なって、会場全体を音が包む。音がそろったところで舞台の光が灯り、指揮者が登場して頭を下げた。周りが拍手を送るのに合わせておれも大袈裟に手を叩いておく。その後何曲かピアノのいないクラシックが続いた。知っている曲もあれば初めて聴く曲もあって中々面白い。普段聞いているポップスとは全く違うけれど、生の演奏というのはやはり心にくるものがある。まだウツミの出番ではないけれど、おれは既に結構満足していた。


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