あの日からウツミとは距離ができた。あの後ウツミの返事も聞かずに音楽室を出て、そのまま。

丁度良く冬休みに入ったせいで顔を合わせることも殆どなかったし、おれは年末年始都内の実家に帰っていたから、寮で姿を見るということもなかった。大晦日の紅白を見ている時も、年を越す瞬間も、初詣で今年の健康を祈った時も、ウツミが何をしているのか知らなかった。連絡くらいよこせばいいのに、薄情な奴。まあおれも大概だけど。

何をしているのかわからないと言いながら、会っていない間もずっとウツミのことを考えているおれのほうが、きっとどうかしてる。あーもう、自分から手放したくせに、いつまでもウツミの姿とピアノの音がチラついて仕方ない。最悪だ。

年が明けて3日目、実家の炬燵にぬくぬくと身を沈めていた時。冬休みに入ってからはじめてウツミからのメッセージが届いた。それは簡素なもので、前に言っていたクラシックコンサートの電子チケットだった。律儀に開始時刻と会場だけぽろんと続けて送られて。

なんだこいつ、ずっと無視していたくせにこういう時だけ。嫌な奴。

だけどそれがうれしくてどうにかなりそうなおれも、相当ウツミに甘い。本当嫌になる。