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それから少しずつ、イチの俺への態度が変わっているのがわかった。俺も自然にそれを受け入れていて、いつしか俺とイチはいつでも一緒にいるようになっていた。まあ隣の席だしね。
イチが俺に向ける視線は、他の誰かに向ける笑顔とはちょっと違う。入学初期に感じていた胡散臭い感じではなく、ひどく優しい目をして俺を見る。それでいて、時々あまりに不安そうな顔をして距離を取ろうとすることがあった。一定のラインは決して超えてこない。程よい距離感といえばそうなのだろうけれど。
時々不安な表情を見せて距離を測ろうとするイチのことは、俺が人の気持ちを汲み取るのが得意なばかりに、なんとなく理由がわかってしまった。なんでも出来て人当たりもいい所謂人生勝ち組と呼ばれるイチは、もしかすると、俺に嫌われるのが怖いのかもしれない。
こんなに一緒にいて、俺はイチにしか心を開いていなくて、そんなの第三者から見たって丸わかりの状態で。それでどうしてそんなに不安になるのだろう。どうして嫌われるだなんて思うんだろう。何故イチみたいな嫌われる要素の1ミリもない人間が、こちらの様子を伺うような姿勢を見せるのだろう。
俺はそれがずっと気になっていて、高校2年の冬、やっと悟ってしまった。イチの好きなタイプが、『指が綺麗な子』だと知った瞬間に。
─────ああ、イチって、俺のことが好きなのか。
なんだか妙にすとんと、腑に落ちてしまった。男同士だけど、不思議と変な感じも嫌な感じもしないことに自分で驚く。そういえば、俺って人を好きになったことがないから、自分の性対象について考えたことなんてなかったな。やっぱり俺は自分のことには少々疎いらしい。