イチを初めてみた時の印象は、「かなり胡散臭い奴だなあ」だった。

入学初日のこと。都内屈指の進学校。たまたま隣の席になったイチは、俺が教室に足を踏み入れた瞬間からクラスの中心人物だった。

誰が見ても整っている、目がくりっとした可愛らしい顔立ちに、茶髪の癖毛が印象的。身長は平均的だけれど、中性的な顔立ちにはむしろそれくらいがちょうどいい。人懐っこい笑顔と人当たりの良さで入学初日から周りに人が集まるような人間で、それでいて成績優秀スポーツ万能、性格は意外と謙虚で空気が読める、所謂人生の勝ち組と呼ばれるタイプ。


『あ、隣の席? おれ三波壱夜! 大体イッチーって呼ばれてる! これからよろしくなー』
『……よろしく』
『うわ、愛想ないなー、こんなに綺麗な顔してんのに』
『はあ、どうも』
『てかすげーね、おれこんな綺麗な人間初めて見た』
『……』


隣の席だし必然的に関わらなきゃいけないけど、誰にでも同じような笑顔を浮かべて、なんか気持ち悪い。三波壱夜という奴は、悪いやつではないけれど、多分それだけではない。誰にでも優しくする裏側に、ひどく大きな後ろめたさを持っている。その正体が見えないから胡散臭いと感じるのだろう。俺は昔から他人に好意を寄せられやすい分、こういう人の気持ちに敏感だったりする。

だから、イチのことはずっと、本心が見えなくて少しだけ苦手だった。