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 明日には十八歳になる彼女も、家族とともに家の前で待っていてくれた。もう心と身体が一致している、つまり昨日までの自身ではないはずなのに。

 なんだか家庭訪問みたいだな。

 自分の生きる時代では、むしろ行なわれないことが多くなった学校行事を思い出しながら、明人は遠くからぺこりと頭をさげた。実際、三十分と経たないうちに桃香の家、我が家、そしてこの見先家と三件を立て続けに回っている。幸い付近で火災は起きていないようだし、一軒一軒の間が広く取られていることもあってか一帯は比較的無事なようだ。

「こんばんは。近守正の弟で、明人と申します」

 直の両脇に立つ両親へ、明人はもう一度しっかりと礼をした。
 そういえば桃香と同じで、直さんも一人っ子だったっけ。
 思い返しつつ頭を上げた先で、兄の言葉通り娘によく似た、本当に二十代と言っても通用しそうな美人がにこやかに微笑んだ。

「こんばんは、明人君」

 慌てて羽織ったのだろうか、夫と色違いの野暮ったいダウンジャケット姿だが、それすらもやたらと似合って見える。

「娘からも聞いています。わざわざ来てくれてありがとう」

 バリトンボイスで続いてくれた父親も、ダンディという言葉がぴったりの、自分たちの時代で言うならば「イケオジ」な人だった。三十代半ばから後半くらいにしか見えないが、実年齢はもう少し上だろう。
 そして。

「明人君、ありがとう」

 父と母の台詞を紡ぎ合わせたような言葉で、彼女もにこやかに微笑んでくれた。

「いえ。直さ……えっと、見先先輩もご無事でよかったです」

 なんとか冷静さを装って、明人が返した途端。
 切れ長の目が輝いた。「やっぱり」とか「予想通り」とでも言いたげに。愉快そうに。

「もう。名前でいいって言ったでしょ」
「あ、すいません。……って、え!? あれ?」

 笑みをたたえたまま、彼女が――身も心も高校三年生の直が続ける。

「二十四年後の私が」

 瞬間、明人の鼻腔を、同級生たちとは違う大人びた香りがくすぐった気がした。
 艶やかなボブカットを揺らしながら、触れたことのある唇がますますほころんでゆく。 いたずらっぽい、あの魅力的な笑顔とともに。

「早く私に、会えるといいね」