「行くな」

 その人は、強い口調で止めてきた。「絶対に行っちゃ駄目だ」と。

「なんで? あっちは今んとこ、大丈夫って言うとるよ?」

 普段は朴訥というか、むしろぬーぼーとしているくらいの性格なので、私は思わず目を丸くしてしまった。だからこそ、

「ま、まあ、あんたがそこまで言うんなら」

 と、素直に従うことにもしたのだけれど。

「ごめんな、本当に。けどこればっかりは、信じて欲しいんだ」
「わかった」

 頷いてみせるやいなや、心底ほっとした顔で、そして何より優しい目で「ありがとう」と微笑んでくれる。いつものトーンで。私とは違う標準語で。
 さらには、唐突なひとことまでサービスしながら。

「おまえが大事なんだ」
「な、なんやの、いきなり!? そんなこと言うても、晩御飯のおかずは変わらんからね!」

 かあっと頬が熱くなる。けれども彼は、笑みを深くするばかりだった。

「ありがとう。俺みたいな、ジジくさいやつのそばにいてくれて」

 などと、今さらになって照れ臭そうに続けながら。