ガラス越しに、自分が見えた。
 曇りガラスの向こう側に、ぼんやりした輪郭で。
 ぼやけていてもそれが自分だとわかるのは、この光景を、感覚を、知っているから。夢だと自覚できるなか、もう一人の「私」を見つめる感覚を私は知っている。何度も体験したことがある。

 だんだんと声も聞こえてきた。聞き慣れた声。今とはちょっとトーンが違うけれど、でも自分の声だと、こちらも疑う余地なくわかる。
 ガラスの向こう側で、「私」は誰かと笑っている。何が嬉しいのだろう。何がおかしいのだろう。なんにせよ、とても楽しそうだ。自分のはずなのに、いいなあ、と微笑ましく見つめ続けてしまう。
 と、「私」が振り返った。目が合った気がした。

 あ。

 頭のなかに何かが走る。けど、この感覚も知っている。そして、次に何が起こるのかも。

 来る……!。

 来たのはやはり、光だった。「私」の顔から淡い光が広がり始める。私と「私」を隔てるガラスが、ガラスじゃなくなってゆく。光の拡散とともに、耳に聞こえる声がますますリアルになってゆく。声だけじゃなく匂いも、肌の感覚も、どんどん現実的になってゆく。
 ああ、と思う。
 すべてがはっきり聞こえ、はっきり感じられたとき。広がった光が全身を包み込んだ。吸い込まれるように、飲み込まれるように、白一色に覆い尽くされた私の視界が「私」のそれと重なる。

 瞳に映る光景は、もうぼやけていない。
 目の前にいる人も、笑っていた。