それから本格的に練習が始まった。
台本は絵本を元に日向が演劇用に書いてくれた。
練習をしながら役に合わせて変えたほうがいいところはその都度変更していく。
このクラスならではの白雪姫を作っていくつもりだ。
「やっぱり三城さん上手だね」
「うん。声もよく通るし、感情がすごくこもってる」
「色も白くて可愛いし、本当に白雪姫みたい」
みんなが言うように日向の演技は圧巻だった。
彼女が演劇をしていたなんて知らなかった。
でも、白雪姫を演じている姿は本当に楽しそうで、真剣で、彼女ならきっとこの劇を素晴らしいものにしてくれるとクラスの全員が思っているだろう。
練習は空き教室を使わせてもらったり、クラス交代で体育館で行う。
出演しないクラスメイトたちはそれぞれ大道具や小道具の準備をしてもらっている。
練習をしながら準備の指示をだしたりスケジュールの調整をしたりと、実行委員との兼ね合いは難しかったが、一方で楽しくもあった。
日向との時間が増えたからだ。
そして前よりも感情を言い合うようになった。
「絵本では、王子様はたまたま森を通りかかって白雪姫をみつけるだろ?」
「でも、アニメーション映画では王子様はずっと白雪姫が好きでずっと探し続けるの。その方が王子様の誠実で優しい感じが出ると思うんだよ。それに想い続けてた相手を救って結ばれたら絶対感動すると思うの!」
「いや、でもたまたま見つけて一目惚れするほうがよくない?」
「一途な王子様の方が絶対いいよ!」
はじめ、絵本を元に書いた台本では王子様は最後に出てくるだけだった。
でも、途中で日向が台本を変えたいと言い出した。
物語の序盤で白雪姫を好きになった王子様がいなくなった白雪姫を必死に探す。
そして眠ってしまった白雪姫を見つけ、愛のキスをして目覚めさせるのだ。
みんなにも台本を変えることを相談したが、白雪姫と王子様の二人で決めてくれたらいいと言われた。
「僕に、できるかな?」
「都希くんなら大丈夫だよ! 私もアドバイスするし」
「わかった……それでいこう」
「ほんとに?! ありがとう!」
台本を握りしめ、嬉しそうにお礼を言う日向。
目をキラキラさせながら、ここの王子様のセリフはこうで、と呟きながら台本を書き変えている。
その、楽しそうな笑顔に僕は、自分のできることは惜しみなくやらなければならないと改めて思った。
その他にも、こうしたほうがいいとか、こっちはだめだとか、意見をぶつけることもあった。
それがお互いの事がよりわかるきっかけにもなった。
ただもちろんハプニングというか、うまくいかないこともでてくる。
「黄色の生地、一緒に届いてないの?!」
「在庫切れだったみたいで入荷次第届くらしい」
「入荷次第っていつになるのよ」
小道具係の人たちが衣装を作ることになっているが、注文していた生地が一部届かなかった。
黄色の生地は白雪姫のドレスのスカートに使う生地で一番重要なものだ。
「いつ届くかわからないし、買いに行こう」
「そのほうがいいね」
そして予算を管理している実行委員で生地を買いに行くことになった。
颯太と園田は放課後の学園祭の準備のあとは部活があるので、僕と日向で行くことにした。
練習を終え、二人で手芸用品店のある商店街へ向かう。
商店街までの道のりも自然と学園祭の話をしていた。
「日向は本当に演技がうまいよね」
「そうかな? ありがとう」
「それに演劇で賞をとったことがあるなんて知らなかったよ」
「賞をとったっていってもね、個人的にじゃないんだよ。転校する前の中学でね、演劇部だったの。大会でうちの部が優秀賞をもらって、少しだけ新聞に載ったりしたんだ。その時、主人公を演じたからちょっと目立っちゃって」
日向は謙遜して言っているが、主人公に抜擢されることも、大会で賞をとることもすごいことだ。
きっと、たくさん努力をしたのだろう。だから今の日向がいるんだ。
「劇、絶対成功させよう」
「うん。頑張ろうね」
話しているうちに手芸用品店に着いた。
中に入ると、手芸道具やアクセサリーパーツ、糸やたくさんの服飾資材が並んでいる。
そして一番奥へ進むと壁際に、巻き板に巻かれた様々な種類の生地が並んでいた。
「思ったよりたくさんあるね」
「黄色っていっても色んな黄色と素材があるんだね」
僕たちは小道具係の人にもらったイメージ写真を見ながら質感を確かめ、黄色の生地を選んだ。
薄手で少し光沢のある、それでいてあまり値段も高くない生地。
「これだよね?」
「それだと思う」
一人では選べなかったかもしれない。
選んだ生地を裁断してもらい、会計を済ませた。
無事に生地を買えたことに安心し、お店を出ようとしたとき、入り口横でやっていたワークショップが目に入る。
ポスターには『アクアリウムチャーム手作り体験』と書かれていた。
並べられている見本は、水槽の形をしたチャームの中に、魚やイルカ、ビーズやスパンコールが入っていて、小さな海のようですごく綺麗だ。
そこでふと、日向の日記に書いてあったことを思い出す。
『瀬里ちゃんと萩原くんがお揃いのキーホルダーをつけてた。本当に仲がいいなあ。それに、お揃いのものをつけるのって憧れる』
読んだ時は、お揃いのものをつけるのに憧れてるのか、だからといって僕がなにかお揃いのものをあげるのは変だしな、なんて思っていた。
でも、これなら自然と同じものを作って自然とお揃いにできる。
日向がそれに気づくかはわからないけれど、僕も日向と同じものをもてることは嬉しい。
これは僕の自己満足ではあるけど、日向が喜んでくれる可能性が少しでもあるならやってみたい。
「日向、あれ綺麗じゃない?」
「ほんとだ。キラキラしてて綺麗だし、かわいいね」
「じゃあ、一緒に作ろうよ」
「え? でもっ」
僕は二人分の参加費を払い、日向の手を引いて机についた。
少し強引だったかなと思ったけれど、隣に座る日向はたくさんの海の生き物やビーズなどのパーツをじっと見つめ、どれを使おうか悩みながらも目を輝かせている。
こういうの好きだと思ったんだよな。
そして悩んだすえ、イルカとサンゴ、星の形をしたビーズと小さな丸いビーズをいくつか選んで入れた。
僕も少し真似をしてイルカと水草、月の形をしたビーズと丸いビーズを入れた。
最後にUV接着剤で蓋を付け、完成。
思っていた以上に簡単で、二十分程度の作業時間だったけれどとても楽しい時間だった。
「そうだ都希くん、私の分の参加費……」
「いいよ。僕が作りたかっただけだから。付き合ってくれてありがとね」
「ううん。私も作れて嬉しいよ。ありがとう」
お店を出て、日向がチャームを空に透かし、嬉しそうに眺める。
僕も同じように透かしてみた。
「綺麗だね。本当にありがとう」
「うん。ほんとだね。綺麗だ」
すると日向が突然顔を近づけ、僕のチャームを覗き込む。
「なんだかお揃いみたいだね」
「えっ、うん。そうだね。僕とお揃い嫌だった?」
「そんなわけないよ。すごく嬉しいよ」
そう言い、日向はチャームを鞄に付けた。
そして僕も同じように付けると、日向はそれを見て笑い『恋人みたいだね』と呟く。
そこまでのつもりはなかったが、確かに傍から見ればそう思うかもしれない。
鞄に付けるのはやめておこうかとチャームに手を伸ばしたとき、日向が僕の手を掴んだ。
「絶対に外さないでね」
少しいたずらっぽく笑う日向に顔が火照るのを感じる。
きっと赤くなっているであろう頬を誤魔化すように、視線を逸らし頷く。
日向も満足そうに頷くと、僕たちは帰り道を歩き出した。
台本は絵本を元に日向が演劇用に書いてくれた。
練習をしながら役に合わせて変えたほうがいいところはその都度変更していく。
このクラスならではの白雪姫を作っていくつもりだ。
「やっぱり三城さん上手だね」
「うん。声もよく通るし、感情がすごくこもってる」
「色も白くて可愛いし、本当に白雪姫みたい」
みんなが言うように日向の演技は圧巻だった。
彼女が演劇をしていたなんて知らなかった。
でも、白雪姫を演じている姿は本当に楽しそうで、真剣で、彼女ならきっとこの劇を素晴らしいものにしてくれるとクラスの全員が思っているだろう。
練習は空き教室を使わせてもらったり、クラス交代で体育館で行う。
出演しないクラスメイトたちはそれぞれ大道具や小道具の準備をしてもらっている。
練習をしながら準備の指示をだしたりスケジュールの調整をしたりと、実行委員との兼ね合いは難しかったが、一方で楽しくもあった。
日向との時間が増えたからだ。
そして前よりも感情を言い合うようになった。
「絵本では、王子様はたまたま森を通りかかって白雪姫をみつけるだろ?」
「でも、アニメーション映画では王子様はずっと白雪姫が好きでずっと探し続けるの。その方が王子様の誠実で優しい感じが出ると思うんだよ。それに想い続けてた相手を救って結ばれたら絶対感動すると思うの!」
「いや、でもたまたま見つけて一目惚れするほうがよくない?」
「一途な王子様の方が絶対いいよ!」
はじめ、絵本を元に書いた台本では王子様は最後に出てくるだけだった。
でも、途中で日向が台本を変えたいと言い出した。
物語の序盤で白雪姫を好きになった王子様がいなくなった白雪姫を必死に探す。
そして眠ってしまった白雪姫を見つけ、愛のキスをして目覚めさせるのだ。
みんなにも台本を変えることを相談したが、白雪姫と王子様の二人で決めてくれたらいいと言われた。
「僕に、できるかな?」
「都希くんなら大丈夫だよ! 私もアドバイスするし」
「わかった……それでいこう」
「ほんとに?! ありがとう!」
台本を握りしめ、嬉しそうにお礼を言う日向。
目をキラキラさせながら、ここの王子様のセリフはこうで、と呟きながら台本を書き変えている。
その、楽しそうな笑顔に僕は、自分のできることは惜しみなくやらなければならないと改めて思った。
その他にも、こうしたほうがいいとか、こっちはだめだとか、意見をぶつけることもあった。
それがお互いの事がよりわかるきっかけにもなった。
ただもちろんハプニングというか、うまくいかないこともでてくる。
「黄色の生地、一緒に届いてないの?!」
「在庫切れだったみたいで入荷次第届くらしい」
「入荷次第っていつになるのよ」
小道具係の人たちが衣装を作ることになっているが、注文していた生地が一部届かなかった。
黄色の生地は白雪姫のドレスのスカートに使う生地で一番重要なものだ。
「いつ届くかわからないし、買いに行こう」
「そのほうがいいね」
そして予算を管理している実行委員で生地を買いに行くことになった。
颯太と園田は放課後の学園祭の準備のあとは部活があるので、僕と日向で行くことにした。
練習を終え、二人で手芸用品店のある商店街へ向かう。
商店街までの道のりも自然と学園祭の話をしていた。
「日向は本当に演技がうまいよね」
「そうかな? ありがとう」
「それに演劇で賞をとったことがあるなんて知らなかったよ」
「賞をとったっていってもね、個人的にじゃないんだよ。転校する前の中学でね、演劇部だったの。大会でうちの部が優秀賞をもらって、少しだけ新聞に載ったりしたんだ。その時、主人公を演じたからちょっと目立っちゃって」
日向は謙遜して言っているが、主人公に抜擢されることも、大会で賞をとることもすごいことだ。
きっと、たくさん努力をしたのだろう。だから今の日向がいるんだ。
「劇、絶対成功させよう」
「うん。頑張ろうね」
話しているうちに手芸用品店に着いた。
中に入ると、手芸道具やアクセサリーパーツ、糸やたくさんの服飾資材が並んでいる。
そして一番奥へ進むと壁際に、巻き板に巻かれた様々な種類の生地が並んでいた。
「思ったよりたくさんあるね」
「黄色っていっても色んな黄色と素材があるんだね」
僕たちは小道具係の人にもらったイメージ写真を見ながら質感を確かめ、黄色の生地を選んだ。
薄手で少し光沢のある、それでいてあまり値段も高くない生地。
「これだよね?」
「それだと思う」
一人では選べなかったかもしれない。
選んだ生地を裁断してもらい、会計を済ませた。
無事に生地を買えたことに安心し、お店を出ようとしたとき、入り口横でやっていたワークショップが目に入る。
ポスターには『アクアリウムチャーム手作り体験』と書かれていた。
並べられている見本は、水槽の形をしたチャームの中に、魚やイルカ、ビーズやスパンコールが入っていて、小さな海のようですごく綺麗だ。
そこでふと、日向の日記に書いてあったことを思い出す。
『瀬里ちゃんと萩原くんがお揃いのキーホルダーをつけてた。本当に仲がいいなあ。それに、お揃いのものをつけるのって憧れる』
読んだ時は、お揃いのものをつけるのに憧れてるのか、だからといって僕がなにかお揃いのものをあげるのは変だしな、なんて思っていた。
でも、これなら自然と同じものを作って自然とお揃いにできる。
日向がそれに気づくかはわからないけれど、僕も日向と同じものをもてることは嬉しい。
これは僕の自己満足ではあるけど、日向が喜んでくれる可能性が少しでもあるならやってみたい。
「日向、あれ綺麗じゃない?」
「ほんとだ。キラキラしてて綺麗だし、かわいいね」
「じゃあ、一緒に作ろうよ」
「え? でもっ」
僕は二人分の参加費を払い、日向の手を引いて机についた。
少し強引だったかなと思ったけれど、隣に座る日向はたくさんの海の生き物やビーズなどのパーツをじっと見つめ、どれを使おうか悩みながらも目を輝かせている。
こういうの好きだと思ったんだよな。
そして悩んだすえ、イルカとサンゴ、星の形をしたビーズと小さな丸いビーズをいくつか選んで入れた。
僕も少し真似をしてイルカと水草、月の形をしたビーズと丸いビーズを入れた。
最後にUV接着剤で蓋を付け、完成。
思っていた以上に簡単で、二十分程度の作業時間だったけれどとても楽しい時間だった。
「そうだ都希くん、私の分の参加費……」
「いいよ。僕が作りたかっただけだから。付き合ってくれてありがとね」
「ううん。私も作れて嬉しいよ。ありがとう」
お店を出て、日向がチャームを空に透かし、嬉しそうに眺める。
僕も同じように透かしてみた。
「綺麗だね。本当にありがとう」
「うん。ほんとだね。綺麗だ」
すると日向が突然顔を近づけ、僕のチャームを覗き込む。
「なんだかお揃いみたいだね」
「えっ、うん。そうだね。僕とお揃い嫌だった?」
「そんなわけないよ。すごく嬉しいよ」
そう言い、日向はチャームを鞄に付けた。
そして僕も同じように付けると、日向はそれを見て笑い『恋人みたいだね』と呟く。
そこまでのつもりはなかったが、確かに傍から見ればそう思うかもしれない。
鞄に付けるのはやめておこうかとチャームに手を伸ばしたとき、日向が僕の手を掴んだ。
「絶対に外さないでね」
少しいたずらっぽく笑う日向に顔が火照るのを感じる。
きっと赤くなっているであろう頬を誤魔化すように、視線を逸らし頷く。
日向も満足そうに頷くと、僕たちは帰り道を歩き出した。