セミが夏の訪れを告げ始める時期になった。

それなのに、いつまで経ってもあの夜の事が頭から離れずにいる。

数日間は憂太の顔を見る度にキスのその先を想像してしまうぐらいだった。

どれだけピュアなんだよと情けなくなる。

それに、あの憂太相手にドキドキしていた自分に対しても驚きだった。


なのに憂太自身は全く覚えていないのか、何事もなかったかのような態度で接してくる。

自分だけがあの日に言った練習の恋人役を意識しているのかもしれない。

そう考えると、何となく悔しくて憂太と同じように何事もなかったかのように接している。

前期最後のゼミも終わり、普段通り憂太と昼ご飯を食べようと食堂へ向かっていた。


「あの…湊くん、今ちょっと時間ないかな?」

声をかけてきたのは結衣という将人の高校時代からの彼女だった。

将人は湊が高校まで入っていたサッカー部のチームメイトで、たまに大学に入ってからも会っている。

「わあ、結衣久しぶり!今、時間ないことはないんだけどー」

憂太と昼ご飯を食べた後、一緒に研究室の備品の買い出しに行く予定をしていた。

横にいる憂太の方をチラッと見る。

「いいよ、湊。こっちは別に急ぎじゃないし、先に食堂で食べてるから」

「あぁ、ごめん、ありがと。後で連絡する!」

「はいはい」

憂太はそう言って食堂へ向かって行った。