「…………じゃあ、もしも彼女ができた時のために練習してみる…?」


憂太に最低と言ったが、たしかに練習できていたらジタバタせずスマートに振る舞えるのかなと考えているうちにとんでもない言葉を発していた。

「え、何、その面白い提案。湊が練習相手になってくれるってこと?」

「え、う、うん。お、俺が練習の彼女役やってやるよ…」

「え…湊が…彼女役?今から…?」

「そ…う……」


自分の提案が恥ずかしすぎて、同じ枕に頭を乗せている憂太が今どんな顔しているのかまともに見れない。

2人の間に流れる沈黙が果てしなく長く感じる。

「(うわー俺、憂太相手にとんでもないこと口走ってるじゃん。この提案に乗ってきたらどうしよ。というか、この沈黙どうすんの、憂太なんで黙ってんの!こんな時どうしたら良いんだよ)」

彼女がいたこともなければ、手を繋いだこともなくて何もアドバイスできることはないが、憂太には絶対にバレたくない。

「じゃあ、お願いする。今から」

「お、おう、今からな…任せろ…」

憂太の彼女役として振る舞おうとしてみる。

「(ああーくそ、こんな雰囲気の時、普通の彼女ってどんな感じになるのかわからんんん〜)」

湊は一生懸命友人たちの彼女の話を思い出すが、もはや憂太が何かするまで待っているのが正解なのか、自分から何か仕掛けるのが正解なのか全くわからない。

それにこんなにも近くに人の顔があること自体も初めてで、どこを見たら良いのかさえわからなくなってきた。


「ね、キス…していい?」

憂太がこの何ともいえない沈黙を破った。