夏休みになって10日ほど経ち、約束していた花火大会の日になった。

夏のゆっくり暗くなる空を見ながら、これから憂太と花火デートかあ…と何度も頭で繰り返してしまう。

その度にデートの練習だと言い聞かせるが、着慣れない浴衣を着ているせいか、同じ花火大会へ向かう人たちのワクワクしている雰囲気のせいか、期待とか緊張みたいなもので心がソワソワしてしまう。

「(とりあえず憂太と花火見るの楽しもう。変なこと考えない!よし!)」

花火大会の最寄り駅に着くと電車を降りてすぐに気合いを入れた。


「(うわー、予想はしてたけど、人多い…この人混みじゃ出会うまでに時間かかるかもなー)」

改札を出て、憂太との待ち合わせ場所に向かう。

ブブブ、ブブブ…

スマートフォンが憂太からの着信で震えている。

「あ、もしもし?憂太着いた?」

「うん、着いて北口出て右側にあるタクシー乗り場辺りにいるよ」

「あ、了解。向かうわ」

「急がなくて良いよ」

「大丈夫。すぐ近くなはずだからこのまま電話繋いどく」


そう言って憂太を探すが、全然見つからない。

「タクシー乗り場のとこだよな?」

「え、うん。迷った?」

「んー俺もタクシー乗り場付近なんだけど見つかんない」

「じゃ、僕がそっち行くよ。手上げてて」

「ええーはずいじゃん」

「すぐ見つけるから大丈夫。一旦切るね」

「(もう〜なんで電話切るんだよ)」

人混みの真ん中で手を上げるのは恥ずかしいが、憂太といつまでも会えないのは困る。

憂太を見つけたらすぐに手を下ろそうと思っているのに見つからない。



ぎゅっ…。


誰かが後ろから上げている腕の手首を掴んだ。