「恋人の練習ってキスの他に何するの?いつになったらするの?」


買い出しを終え、研究室に戻ってくるなり憂太から唐突に質問された。

研究室は窓から夕陽が差し込み、部屋の灯りがなくても憂太の何か言いたそうな表情がわかった。

あのキスした夜のことは覚えていないと思っていた憂太からの急な質問に心臓の音が急に大きく速くなる。

「えっと…憂太に彼女ができた時にスマートな振る舞いができるようにする練習…?」

我ながらどんな練習だよと思う。

研究室の奥にある窓を開けに行き、憂太に背を向けたまま返事をする。

「じゃあ、デートとかもする?」

「練習しておきたいなら…」

「いつ?」

「…いつでも?」

憂太は食い気味に質問してくる。


「いや、それより憂太!あの日のこと覚えてたの?」

「あの日?夜中にキスして湊が練習の恋人になってくれるって言ったこと?」

「そ、そう…だけど、覚えてなかったんじゃ…?」

「忘れたなんて一言も言ってない」

「え、でも次の日もその次も何事もなかったみたいにしてたじゃん」

「…そう?」

「そうだよ!俺なんか、ずっとお前が頭からはなれな……」

お前のことが頭から離れずに、キスの先まで想像してしまったなんて口が裂けても言えない。


「…キスしたこと頭から離れなかったの?」

「仕方ないだろ!憂太はいつもと変わらないし、酔って見ためちゃくちゃリアルな夢なのかと思ったわ」

「ふーん」

「ふーんじゃねえ」

世間の大学生にとってはキスなんて挨拶程度でしかなくて、キスを重大なイベントの1つとして捉えていたのは俺だけなのかと自分の感覚を疑う。