爆弾魔、ガブリエルは小心者である。
これは、裏社会で言われているガブリエルへの評価だ。

やることは派手。
爆弾へのこだわりと技術は凄いのに、本人の性格はまるっきり小物のそれだ、と。

(そんなやつなら、爆発よりも自身の身の安全を求めるはずだ。)

わざと足音を立て、平然と歩道橋を登っていく。
それにガブリエルは僅かに反応したものの、ただの学生と思ったのか、それとも気にするに値しないのか分からないが、その視線は再び手元のスマートフォンへと移された。

「なぁ、お前弓の射手の幹部、ガブリエルだろ?」

だから、俺は堂々とそいつの横に立って、あっけらかんと話しかける。
流石にそれは予想外だったのか、ぽかんと口を開けたままスマートフォンからこちらへと目を向けたかと思えば、

「……え、ま、まさか、お前があのチャトランガとかいう組織の構成員……?え、うそでしょ、そんな普通に話しかけてくるとかある??」

と、早口で捲し立ててきた。
ひょろ長いその身体を縮こまらせながら「いや、訳わかんないのだが。俺の名前呼ぶってことは俺の事知っててこの態度……??え、こわ……え、何??最近の子供って危機感死んでんの??」と、ブツブツボヤいたかと思えば、スマートフォンの画面をいきなり見せてきた。

「そ、そ、そ、それ以上近づいてきたりゃ、こ、これ押すからな!!」
「いや、まず落ち着けよ、お前。」
「あんたは落ち着きすぎだろ!!何なんだよこのガキ!!?」

あまりにも吃るので思わず突っ込めばすかさずツッコミを返される。

「あと爆弾は解除したから爆発しないぞ。」
「そんなサラッと言うことじゃなくない!?」
「ちなみに2つだけ爆発する。」
「なんで!?なんで2つだけ!?」
「それをこの陸橋の両端に取り付けてある。押せばお前は落ちて死ぬ。」
「なんなの!?なんなのこのガキ!!?」

そう、俺が出した指示。それは俺が話しかけ気を逸らしている隙に陸橋の両端、支柱部分に爆弾を取り付けた後、切った配線を繋ぎ直せ、というものだ。

「……え、ていうかそれなら君も落ちて死ぬんじゃ……?」

背を縮こまらせながら、チラチラとこちらへ視線を向ける男。その小心者を全身で体現する男に「何故こいつは幹部になれたんだ……?」と思いながらも、口を開く。

「俺は問題ない。シヴァ様を信仰しているからな。」
「完全にやべぇやつじゃんっ!!」

「カルト!?カルト系なの!?」と叫ぶガブリエルに「不敬だぞ。」と麻酔銃を向ければ「なんで平和ボケした日本人が拳銃もってんの!?」と更に叫ばれた。

そもそもチャトランガは反社会的組織に位置する裏社会の集団で、宗教団体ではない。
シヴァ様という絶対神はいるけれど。

俺が死なない、と言っているのは単純に俺ならこの高さから飛び降りた所で受身が取れるからだ。伊達に青龍のボスをやってはいない。爆破されそうになったら起爆のタイミングで外へ飛べばいいだけの話だ。
もちろん、シヴァ様を信仰しているから、というのも嘘では無い。シヴァ様が死ぬな、と願うから俺たちは決して生きることを諦めない。それだけなのだ。

「だ、大体、俺は、好きに爆弾作っていいって言うから弓の射手に加入しただけで、ボスの言う計画とか別にどうでもいいし、あんたらみたいなカルトとかもっと無理なんだけど……!」
「カルトじゃねぇっつってんだろ。」
「ヒィィッ!ごめんなさいっ!」

更に麻酔銃を近づければ大袈裟な程に震え上がって頭を抱え込むガブリエル。知識と技術は凄いのに、裏社会での噂以上に小心者らしい。

「……クソクソクソ、俺はただ俺の作品が人々の最後を飾る瞬間が好きなだけなのに後ろ盾と資金源欲しさに弓の射手になんか入るんじゃなかった……!何だよチャトランガって何だよシヴァって!こんな平和ボケした国に何であんな得体の知れないクソガキが……なんで国際テロ組織の弓の射手と張り合ってんだよ……!怖すぎる……!」

「は?お前今シヴァ様の悪口言ったか?」

「ヒッ……!」

歩道橋近くに控えていた部下達が「あっやべ。」と言葉をこぼすも、既に時遅し。

俺はグリップにある麻酔濃度を調整するツマミを親指で弾き、即気絶から感覚が麻痺する程度まで濃度を下げ、まず両腕に撃ち込んだ。

「ひィィ!?何これ何今の!?撃たれた!撃たれたよね!?血出てないのに動かない!!動かないんだけど!?」

カシャーンっとスマートフォンが勢いよく落ちて男からすべり離れていく。
撃たれた拍子に尻もちを勢いよく着いたガブリエルは動かない腕をなんとか動かそうと上半身をモゾモゾ動かしながら喚き散らす。それに冷めた目を向けながら「シヴァ様と第三の目(アジュナ)さんの悪口は許さないって決めてるんだ。」と今度は右足に撃ち込む。

「やっぱカルトじゃんっ!!?てかアジュナって誰よ!?」
「カルトじゃねぇっつってんだろ。」

続けて左足も撃ち込めばベソベソ泣きながら「やだよぉ死にたくないよォ……!!俺が何したって言うんだ……!」と芋虫のように動き始めた。

「いや、爆弾で人殺してるだろお前。」
「あっ。そうだった。ぐぇっ……!」

うぞうぞと這いずって逃げようとするガブリエルの背中を踏みつければ、汚い呻き声を上げる。
ここまでされてもまだ逃げようとするその根性に一周まわって感心してしまう。

「……やっぱお前死んどくか?」
「えっっ!?嘘でしょ!!?チャトランガって人殺さないんじゃないの!!?」
「シヴァ様の悪口言ったし……」
「撤回する!撤回するから!!」

命乞いのためか、ペラペラと「いやぁ、素晴らしい人とは思ってたんだ!でもほら、俺にも立場があるから仕方なく……ね!?」と薄っぺらい賛辞を喋り出すガブリエル。
ピキリとこめかみに青筋が立った。
銃口側を持ち、グリップを上にし振りかぶった所で

「だめですって!野々本さん!!殺しちゃだめですって!!」
「殺しはしない、10分の9殺しにするだけだ。」
「それもう瀕死ですって!!!」

部下達が羽交い締めにして止めに入った。もちろんガブリエルのためではない。このままガブリエルをボコボコにして仮に死んでしまった場合、シヴァ様のご意向から逸れてしまうからだ。

そして、前話の冒頭に戻った所で、

「……いや、お前らまで何してるんだ??」

(サーンプ)達がカオスな現場に到着。

(サーンプ)さん!」

と、部下がホッとし腕が緩んだ所を振りほどき、俺は思いっきりガブリエルを殴り、気絶させた。

「いえ、何も。幹部ガブリエル制圧しました。」
「……いやいやいや、今アンタ殴ったわよね??その麻酔銃の意味は??」
「幹部ガブリエル制圧しました。」
「認めない気だな??」

まあ、死んでないならいいか、と言うあたり(サーンプ)達も似たり寄ったりな思考である。