川達がそんなこんなでヴァジュラを撃破した頃、野々本率いる青龍は、
「だめですって!野々本さん!!殺しちゃだめですって!!」
「殺しはしない、10分の9殺しにするだけだ。」
「それもう瀕死ですって!!!」
何故か部下であるはずの青龍メンバーが総出でリーダーである野々本を羽交い締めにするという#川__ナディ__#達に劣らずのカオスな状況になっていた。
元々正面切って戦うつもりの無かった野々本はシヴァこと芝崎から場所の指示(※勘違い)が出された時点でいくつか策を講じていた。
野々本率いる青龍のメンバーは未成年のみ。
どちらかと言えば組織の中で新参者に入る野々本達はこの前の紅葉組との抗争がデビュー戦のようなもの。そこで初めて年上や格上の組織と戦ったのだ。学生同士の喧嘩とは訳が違う。
(俺だけならまだしも、他の奴らを国際テロ組織なんてやべぇやつらとまともにやらせるわけにはいかねぇ……)
指定された場所を大きく囲うように部下に指示を出し、敵幹部がいるであろう場所に向かって包囲網をジワジワと縮めていく。
そんな中、念の為付近の建物の安全確認に行っていた構成員の1人から連絡が入った。
「どうした?」
『……アパートの非常階段に爆弾のような物を見つけました。』
その報告に、近くの仲間が息を飲んだ。
「……時間は?」
『タイマーのようなものはないっすね。ただ、配線が電子パネルから直接爆薬部分に繋げられてるんで遠隔で爆破させられると思います。恐らくは通電によって爆発する可塑性爆薬……プラスチック爆弾ですね。』
「わかった。全員に告げる。一旦その場で待機。勝手に進むなよ。」
そう指示を出しながらも、ずっと待機している訳にも行かない。
爆弾がひとつとは限らないし、恐らく住宅の多いこの辺りに爆弾をしかけたのは人質の意味も強いのだろう。
(慈愛溢れるシヴァ様と違って弓の射手は人の命を軽く見てる。病院の電子システムも狙われてるっぽいし、完全にこの街を乗っとる気だな……)
とにかく、今は住民の身の安全が最優先。
他の集合住宅や、子供の遊ぶ公園に爆弾がないかを確認するよう指示を飛ばす。
(……三叉槍の言う通りだったな。)
ただ殴る蹴るだけの道具ではシヴァ様のお役には立てない。
チャトランガの傘下に下ったばかりのころ、三叉槍である里田にそんなことを言われた。
(知識もちゃんとした武器になる。)
今回、不審物が爆弾であること。
それがプラスチック爆弾であること。それの危険性。必要な情報の報告。
知識があったからこそ出来た対応だ。
もともとバカの多いのが青龍だが、その中でもちゃんと知識を蓄えられる人間がいる。
「解体できるか?」
あらかた爆弾が見つかり、それを地図に書き込む。
およそ等間隔に配置された爆弾は、殺すというよりもパフォーマンス的な意味が強いのか、それほど大きいものではない。
とはいえ、解体に危険が伴うことに変わりは無く、小さいとはいえ至近距離で爆発を受ければひとたまりも無いだろう。
『出来ます。プラスチック爆弾は電気さえ通さなければ爆発しないんで。』
通電しなきゃいいんですよ、とインカム越しに軽い口調が返ってきた。
それに「通電の配線を切るのは一斉に、だ。」と全員に指示を出す。
それぞれから準備が出来たと連絡が届き、念の為、1部前線を引き下げた。最悪の場合の全滅を避けるためだ。
「……準備……切断。」
パチン、パチン、とインカムの向こうから配線の切られる音が響く。
ドッドッドッと胸の奥で跳ねる心臓が、耳の真横にあるかのようだ。
特にどこからも爆発音が聞こえることもなく、それぞれから『切断完了』の報告が届く。
「……全爆弾、解除成功……」
インカム越しに全員にそう告れば、息を吐く音がいくつも重なって聞こえてくる。
そういう俺も、詰めていた息をゆっくりと吐き出した。
(あとは爆弾魔の所在地だ……爆弾を使う凶悪犯は三日月さんの調べたリストだと1人だけ。)
勿論、名前の上がっていない人物の可能性もあるが、三日月さんの情報収集力から考えると、そいつである可能性の方が高い。
(簡易的なプラスチック爆弾なのは材料の不足か……?日本は島国の分、出入国の管理がしっかりしている。密入国だけでも一苦労の所、火薬の類を大量に運び入れるのは無理があるだろうし……)
弓の射手の幹部たちにとって日本への招集はいきなりのことだった。
到着してから火薬類を手に入れようにも売買ルートの開拓も出来ていなければ、時間も足りなかったはず。
再度開かれた地図と睨み合う。
急ぎの分、精度が高くないということは遠隔スイッチもしくは爆発物に取り付けた受信媒体もそこまで質のいいものでは無いはず。
(等間隔に並ぶ爆発物に、およそ均等に電波が届く場所……)
爆発物があった場所に記した印を指でなぞる。
急ごしらえとはいえ、爆弾魔は自分の作品が輝く瞬間を見たいはずだ。
「……ここか。」
どこの爆発物からも付かず離れずの距離でありながらも、全体を見渡せるだけの視界の広さと高さがある所。
「前線『中央歩道橋』を目指し前進。包囲網を狭める。解体班は引き続き爆発物がないかのチェックを。」
『了解。』
恐らく、そこに爆弾魔がいる。
ゆっくりと陣形を狭めていきながら、姿を隠しつつ前線を進めていく。
次第に陸橋の姿が顕になると、そこに一人の男がスマートフォンをいじりながら、手すりに寄りかかっていた。
焦る様子が見受けられないが、果たしてそれは解体されたことに気がついていないからなのか、他にも爆弾があるからなのかわからない。
(粗方探したとはいえ100%無いとは言いきれない……)
それこそ、他の地域にも設置されていたら野々本達だけでは探しようがない。
(……ひとまず様子を見つつ……いや、待てよ……?)
「解体班、切った配線を繋ぎ直すのは可能か?」
『え?まあ、可能ですけど……繋げます?』
「今はまだいい。2つだけこっちに持ってこい。」
そう指示を出しつつ、物陰からスマートフォンのカメラを使ってアップにすれば、男の顔が確認できた。
(……やっぱり、三日月さんの資料にあった男だ。)
爆弾魔、ガブリエル。
主にフランスや隣国スペイン、ドイツ等で過激な爆弾テロを起こしている国際指名手配犯だ。
「……野々本さん。」
「来たか。」
解体班の1人が両脇に爆弾と思しき包みを抱えてこちらにやってくる。
「俺が先にやつと接触する。お前らはその間に───……」
これからの指示を粗方伝え終わると、部下の顔がだんだん険しさを増した。
「……野々本さん、それはあまりにも危険です。」
「他に有効な手立てがない。時間を置けば置くだけ、相手が好きなタイミングで爆発させるだけだ。」
爆弾が全て解除できたから分からない今、それはあまりにも危険だと伝えれば「それはわかっていますが……」と苦虫を噛み潰したように顔を歪める。
「シヴァ様は人死を許しませんよ。……だから、死なないで下さい。」
(……こいつが、こんなこと言うなんてな。)
元々、1年生である俺が青龍のボスへとなったことに不満を持つものは多かった。現に目の前のこの男は3年生だと言うこともあり、何かと俺に突っかかっていた人物だ。
シヴァ様と出会って変わったのは俺だけじゃない。青龍の全員が以前よりも結束し、仲間を思いやる組織へと変わった。
「ああ、絶対に死なない。」
俺は、目の前にいる部下の目を真っ直ぐ見て、そう答えた。
**(後書き)**
幹部それぞれの対戦を1話ずつにしていたので、できれば野々本の話も1話にまとめたかったのですが、長くなりすぎたので分けます。
すみません。
「だめですって!野々本さん!!殺しちゃだめですって!!」
「殺しはしない、10分の9殺しにするだけだ。」
「それもう瀕死ですって!!!」
何故か部下であるはずの青龍メンバーが総出でリーダーである野々本を羽交い締めにするという#川__ナディ__#達に劣らずのカオスな状況になっていた。
元々正面切って戦うつもりの無かった野々本はシヴァこと芝崎から場所の指示(※勘違い)が出された時点でいくつか策を講じていた。
野々本率いる青龍のメンバーは未成年のみ。
どちらかと言えば組織の中で新参者に入る野々本達はこの前の紅葉組との抗争がデビュー戦のようなもの。そこで初めて年上や格上の組織と戦ったのだ。学生同士の喧嘩とは訳が違う。
(俺だけならまだしも、他の奴らを国際テロ組織なんてやべぇやつらとまともにやらせるわけにはいかねぇ……)
指定された場所を大きく囲うように部下に指示を出し、敵幹部がいるであろう場所に向かって包囲網をジワジワと縮めていく。
そんな中、念の為付近の建物の安全確認に行っていた構成員の1人から連絡が入った。
「どうした?」
『……アパートの非常階段に爆弾のような物を見つけました。』
その報告に、近くの仲間が息を飲んだ。
「……時間は?」
『タイマーのようなものはないっすね。ただ、配線が電子パネルから直接爆薬部分に繋げられてるんで遠隔で爆破させられると思います。恐らくは通電によって爆発する可塑性爆薬……プラスチック爆弾ですね。』
「わかった。全員に告げる。一旦その場で待機。勝手に進むなよ。」
そう指示を出しながらも、ずっと待機している訳にも行かない。
爆弾がひとつとは限らないし、恐らく住宅の多いこの辺りに爆弾をしかけたのは人質の意味も強いのだろう。
(慈愛溢れるシヴァ様と違って弓の射手は人の命を軽く見てる。病院の電子システムも狙われてるっぽいし、完全にこの街を乗っとる気だな……)
とにかく、今は住民の身の安全が最優先。
他の集合住宅や、子供の遊ぶ公園に爆弾がないかを確認するよう指示を飛ばす。
(……三叉槍の言う通りだったな。)
ただ殴る蹴るだけの道具ではシヴァ様のお役には立てない。
チャトランガの傘下に下ったばかりのころ、三叉槍である里田にそんなことを言われた。
(知識もちゃんとした武器になる。)
今回、不審物が爆弾であること。
それがプラスチック爆弾であること。それの危険性。必要な情報の報告。
知識があったからこそ出来た対応だ。
もともとバカの多いのが青龍だが、その中でもちゃんと知識を蓄えられる人間がいる。
「解体できるか?」
あらかた爆弾が見つかり、それを地図に書き込む。
およそ等間隔に配置された爆弾は、殺すというよりもパフォーマンス的な意味が強いのか、それほど大きいものではない。
とはいえ、解体に危険が伴うことに変わりは無く、小さいとはいえ至近距離で爆発を受ければひとたまりも無いだろう。
『出来ます。プラスチック爆弾は電気さえ通さなければ爆発しないんで。』
通電しなきゃいいんですよ、とインカム越しに軽い口調が返ってきた。
それに「通電の配線を切るのは一斉に、だ。」と全員に指示を出す。
それぞれから準備が出来たと連絡が届き、念の為、1部前線を引き下げた。最悪の場合の全滅を避けるためだ。
「……準備……切断。」
パチン、パチン、とインカムの向こうから配線の切られる音が響く。
ドッドッドッと胸の奥で跳ねる心臓が、耳の真横にあるかのようだ。
特にどこからも爆発音が聞こえることもなく、それぞれから『切断完了』の報告が届く。
「……全爆弾、解除成功……」
インカム越しに全員にそう告れば、息を吐く音がいくつも重なって聞こえてくる。
そういう俺も、詰めていた息をゆっくりと吐き出した。
(あとは爆弾魔の所在地だ……爆弾を使う凶悪犯は三日月さんの調べたリストだと1人だけ。)
勿論、名前の上がっていない人物の可能性もあるが、三日月さんの情報収集力から考えると、そいつである可能性の方が高い。
(簡易的なプラスチック爆弾なのは材料の不足か……?日本は島国の分、出入国の管理がしっかりしている。密入国だけでも一苦労の所、火薬の類を大量に運び入れるのは無理があるだろうし……)
弓の射手の幹部たちにとって日本への招集はいきなりのことだった。
到着してから火薬類を手に入れようにも売買ルートの開拓も出来ていなければ、時間も足りなかったはず。
再度開かれた地図と睨み合う。
急ぎの分、精度が高くないということは遠隔スイッチもしくは爆発物に取り付けた受信媒体もそこまで質のいいものでは無いはず。
(等間隔に並ぶ爆発物に、およそ均等に電波が届く場所……)
爆発物があった場所に記した印を指でなぞる。
急ごしらえとはいえ、爆弾魔は自分の作品が輝く瞬間を見たいはずだ。
「……ここか。」
どこの爆発物からも付かず離れずの距離でありながらも、全体を見渡せるだけの視界の広さと高さがある所。
「前線『中央歩道橋』を目指し前進。包囲網を狭める。解体班は引き続き爆発物がないかのチェックを。」
『了解。』
恐らく、そこに爆弾魔がいる。
ゆっくりと陣形を狭めていきながら、姿を隠しつつ前線を進めていく。
次第に陸橋の姿が顕になると、そこに一人の男がスマートフォンをいじりながら、手すりに寄りかかっていた。
焦る様子が見受けられないが、果たしてそれは解体されたことに気がついていないからなのか、他にも爆弾があるからなのかわからない。
(粗方探したとはいえ100%無いとは言いきれない……)
それこそ、他の地域にも設置されていたら野々本達だけでは探しようがない。
(……ひとまず様子を見つつ……いや、待てよ……?)
「解体班、切った配線を繋ぎ直すのは可能か?」
『え?まあ、可能ですけど……繋げます?』
「今はまだいい。2つだけこっちに持ってこい。」
そう指示を出しつつ、物陰からスマートフォンのカメラを使ってアップにすれば、男の顔が確認できた。
(……やっぱり、三日月さんの資料にあった男だ。)
爆弾魔、ガブリエル。
主にフランスや隣国スペイン、ドイツ等で過激な爆弾テロを起こしている国際指名手配犯だ。
「……野々本さん。」
「来たか。」
解体班の1人が両脇に爆弾と思しき包みを抱えてこちらにやってくる。
「俺が先にやつと接触する。お前らはその間に───……」
これからの指示を粗方伝え終わると、部下の顔がだんだん険しさを増した。
「……野々本さん、それはあまりにも危険です。」
「他に有効な手立てがない。時間を置けば置くだけ、相手が好きなタイミングで爆発させるだけだ。」
爆弾が全て解除できたから分からない今、それはあまりにも危険だと伝えれば「それはわかっていますが……」と苦虫を噛み潰したように顔を歪める。
「シヴァ様は人死を許しませんよ。……だから、死なないで下さい。」
(……こいつが、こんなこと言うなんてな。)
元々、1年生である俺が青龍のボスへとなったことに不満を持つものは多かった。現に目の前のこの男は3年生だと言うこともあり、何かと俺に突っかかっていた人物だ。
シヴァ様と出会って変わったのは俺だけじゃない。青龍の全員が以前よりも結束し、仲間を思いやる組織へと変わった。
「ああ、絶対に死なない。」
俺は、目の前にいる部下の目を真っ直ぐ見て、そう答えた。
**(後書き)**
幹部それぞれの対戦を1話ずつにしていたので、できれば野々本の話も1話にまとめたかったのですが、長くなりすぎたので分けます。
すみません。

