「駒の配置で指示を?……いや、確かにシヴァ様ならそのくらいの事出来るだろうが……だが相手はシヴァ様と同等の頭脳を持つやつだ。向こうが提示する条件を誘導するなんて可能なのか?」
蛇さんが顎に手を当て考え込む仕草を見せる。それに僕は「確信はありませんが……」と言葉を続けた。
「シヴァ様がひとりで踏み込んだこと。これは向こうも予測していなかったことが、聞こえた台詞から読み取れます。」
まさか1人で来るとは、と言っていたあの声は平静を装いつつも確かな動揺が感じ取れた。
「向こうからすれば予測を尽くひっくり返されたことになります。その上でチェスの対局の申し込み。そして新しい変則チェス。向こうはシヴァ様の狙いが全く読めず、1度その手に乗るしかない。」
それに、あの弓の射手のボスは、どことなくシヴァ様に甘い様子が見て取れた。
それはこちらの事を甘くみているのか舐めているのかわからないが、恐らく提案を断ることは無いとシヴァ様本人も分かっていた。
「傍から見ればシヴァ様はチェスにこそ狙いがある様にしか見えません。だから向こうも警戒してシヴァ様に駒を触らせないようにした。」
そこまで言った所で、ほかの幹部たちもなるほど、と頷き合う。
「そうなると駒の配置は誰がどれになるの?」
川さんが地図を覗き込みながらそう尋ねる。それに三叉槍さんが「幹部の名前じゃ駒とは一致しないよな。」と眉間に皺を寄せた。
「恐らくですが、ポーンは構成員です。8つのグループに分けての配置かと。」
僕の言葉に蛇さんが「なるほどな。」と言葉をこぼした。
「だから2つ取られると困るんだ。指示が出せなくなるし、戦線が崩壊する。」
そう続けられた言葉に僕は同意を示し頷く。
「そして、ナイトの2つ。これは恐らく三叉槍さん達と野々本君率いる青龍。2人ともシヴァ様の武器です。」
野々本君は正確には幹部では無いが、頭数や役割を考えば妥当だと思う。
ナイトは騎士。剣を片手に戦場を駆け抜けるのが役目だ。そうなればこの2人以外には考えられない。
「次にルークの2つ。これは多分太鼓さんと僕です。」
そう告げると「おや、私ですか?」と太鼓さんが意外そうな顔をする。
「ルークは紋章学では2つの角が描かれます。同じように太鼓さんの由来である太鼓も2面の太鼓。」
そう、チェスの駒ではルークは塔のような形をしているのだが、紋章学で使われるデザインでは2面の太鼓のような、2つに分かれた角を持つデザインなのだ。
「そして、ルークの価値数は5。シヴァ神と5という数字は切り離せません。恐らく5つのマントラから、顔に関係する名を持つ僕のことだと思います。」
5はシヴァ神と結び付けられる神聖な数字だ。
シヴァ神の体は5つのマントラから成るといわれ、それぞれのマントラがシヴァ神の5つの顔として表現されている。
「あとはビショップの2つ。恐らくこれは川さんと三日月さんだと思います。2人とも名前の由来はシヴァ神の『三日月の冠』や『髪から流れるガンジス川』といった頭に関係していますから。」
そう僕が説明すると、蛇さんが何度が頷く。
「なるほど、ビショップの駒は聖職者を示す司教冠を模した駒だからな。」
と、蛇さんが補足の説明を加えると、三叉槍さんも「あ、なーるほど、そーゆね。」と腕を組み頷いた。
「ただ、順当に考えるとキングは蛇さんなんですけど、クイーンがわからなくて……幹部の数から言って、誰かが重複することになると思うんですが……」
そう、元々幹部の頭数は野々本君を足したとしても7人。駒はポーンを抜けば8つ。
誰かが2つ役目を担うことになると思うのだが、その理由と役割が僕には推察出来なかった。
すると、三日月さんが右手をあげ、「多分、私の事よ。」と、名乗りを上げた。
「俺たちは元々、シヴァ様が入る前の前身であるグループ『チェス』でキングとクイーンの名を冠していたんだ。」
と、蛇さんが三日月さんと並び立ち、僕を真っ直ぐ見遣る。
(なるほど……だから理由の分からなかった蛇さんがキングなんだ。)
消去法で割り当てたが、これで僕のシヴァ様の作戦への推察が間違っていなかったことへの確信へと変わった。(※勘違い)
「でもそうなると、三日月だけ指示が2箇所に重複するよな?クイーンやビショップを全く動かなさいなんて、試合上無理だろうし……」
「そこなんですよね……」
三叉槍さんの言葉に僕も顎に指を添え唸る。どちらかは三日月の部下達を動員しろ、ということなのだろうか?
(そういえば、三日月さんと初めて会った時、シヴァ様にクイーンの駒のことを教えてもらったんだっけ……)
ふと、浮かび上がったその記憶。僕が幹部になる前で、初めてシヴァ様にチェスを教えて頂いた時の事だ。
(確か、その時シヴァ様が言っていた言葉は……)
「「……1番大きく動き、そして攻撃の要になる事が出来る……」」
三日月とその言葉が被る。
お互いが目を見開き、「あの時言っていたお言葉!」とマナーは良くないが勢いよくお互いを指さしてしまった。
「三日月さんの強みはそのサイバー技術です!」
僕の口から飛び出した言葉に三日月さんも「そう!そうよ!」と何度も力強く頷く。
「三日月さんが直接動く必要は無い……その場で、三日月さんは、クイーンは攻撃も守備にも転じることができる唯一の幹部です!」
その言葉に蛇さんも気がついたのか僅かに目を見開いた。
「確かに、こちらにサイバー技術を持つ人間がいることくらい、弓の射手も分かっているはず。この街の主要各所にサイバー攻撃を仕掛けてもおかしくはない!」
なんで気が付かなかったんだ!と蛇さんが両手で髪の毛を掻き混ぜる。
そしてボサボサになった頭のまま、
「よし、これで俺たちがやるべき事がわかった。それぞれ配置に着く準備と、ポーンである構成員の部隊分けを。」
と、的確な指示を飛ばす。
「1から分けるのは時間の無駄だ。三叉槍と野々本の部隊、あと三日月のサイバー班を抜いた残りの部隊を8つに分ける。」
「なら、私の部下は人数が少ないので1部隊のままがいいでしょう。」
「逆にあたしの部下は人数が多いわ。3つに分けれる。」
「よし、あとは俺の部隊を2つ、残りの無所属構成員を2つに分けて配置指示を出そう。」
蛇の言葉に皆が声を揃えて是を返す。
あっという間に部隊分けと方針が決まり、次のシヴァ様の指示に応える準備が完了する。
蛇さんのその統率力、そして咄嗟の判断力は同じ頭脳派と言えどやはり僕にはまだまだ足りないもので、何となく悔しく感じる。
(僕だって、もっとシヴァ様のお役に立つ……!)
無意識に拳を握りしめた所で、
『では、駒係が到着した所で、先手後手を決めましょうか。』
運命の1局が、始まろうとしていた。
蛇さんが顎に手を当て考え込む仕草を見せる。それに僕は「確信はありませんが……」と言葉を続けた。
「シヴァ様がひとりで踏み込んだこと。これは向こうも予測していなかったことが、聞こえた台詞から読み取れます。」
まさか1人で来るとは、と言っていたあの声は平静を装いつつも確かな動揺が感じ取れた。
「向こうからすれば予測を尽くひっくり返されたことになります。その上でチェスの対局の申し込み。そして新しい変則チェス。向こうはシヴァ様の狙いが全く読めず、1度その手に乗るしかない。」
それに、あの弓の射手のボスは、どことなくシヴァ様に甘い様子が見て取れた。
それはこちらの事を甘くみているのか舐めているのかわからないが、恐らく提案を断ることは無いとシヴァ様本人も分かっていた。
「傍から見ればシヴァ様はチェスにこそ狙いがある様にしか見えません。だから向こうも警戒してシヴァ様に駒を触らせないようにした。」
そこまで言った所で、ほかの幹部たちもなるほど、と頷き合う。
「そうなると駒の配置は誰がどれになるの?」
川さんが地図を覗き込みながらそう尋ねる。それに三叉槍さんが「幹部の名前じゃ駒とは一致しないよな。」と眉間に皺を寄せた。
「恐らくですが、ポーンは構成員です。8つのグループに分けての配置かと。」
僕の言葉に蛇さんが「なるほどな。」と言葉をこぼした。
「だから2つ取られると困るんだ。指示が出せなくなるし、戦線が崩壊する。」
そう続けられた言葉に僕は同意を示し頷く。
「そして、ナイトの2つ。これは恐らく三叉槍さん達と野々本君率いる青龍。2人ともシヴァ様の武器です。」
野々本君は正確には幹部では無いが、頭数や役割を考えば妥当だと思う。
ナイトは騎士。剣を片手に戦場を駆け抜けるのが役目だ。そうなればこの2人以外には考えられない。
「次にルークの2つ。これは多分太鼓さんと僕です。」
そう告げると「おや、私ですか?」と太鼓さんが意外そうな顔をする。
「ルークは紋章学では2つの角が描かれます。同じように太鼓さんの由来である太鼓も2面の太鼓。」
そう、チェスの駒ではルークは塔のような形をしているのだが、紋章学で使われるデザインでは2面の太鼓のような、2つに分かれた角を持つデザインなのだ。
「そして、ルークの価値数は5。シヴァ神と5という数字は切り離せません。恐らく5つのマントラから、顔に関係する名を持つ僕のことだと思います。」
5はシヴァ神と結び付けられる神聖な数字だ。
シヴァ神の体は5つのマントラから成るといわれ、それぞれのマントラがシヴァ神の5つの顔として表現されている。
「あとはビショップの2つ。恐らくこれは川さんと三日月さんだと思います。2人とも名前の由来はシヴァ神の『三日月の冠』や『髪から流れるガンジス川』といった頭に関係していますから。」
そう僕が説明すると、蛇さんが何度が頷く。
「なるほど、ビショップの駒は聖職者を示す司教冠を模した駒だからな。」
と、蛇さんが補足の説明を加えると、三叉槍さんも「あ、なーるほど、そーゆね。」と腕を組み頷いた。
「ただ、順当に考えるとキングは蛇さんなんですけど、クイーンがわからなくて……幹部の数から言って、誰かが重複することになると思うんですが……」
そう、元々幹部の頭数は野々本君を足したとしても7人。駒はポーンを抜けば8つ。
誰かが2つ役目を担うことになると思うのだが、その理由と役割が僕には推察出来なかった。
すると、三日月さんが右手をあげ、「多分、私の事よ。」と、名乗りを上げた。
「俺たちは元々、シヴァ様が入る前の前身であるグループ『チェス』でキングとクイーンの名を冠していたんだ。」
と、蛇さんが三日月さんと並び立ち、僕を真っ直ぐ見遣る。
(なるほど……だから理由の分からなかった蛇さんがキングなんだ。)
消去法で割り当てたが、これで僕のシヴァ様の作戦への推察が間違っていなかったことへの確信へと変わった。(※勘違い)
「でもそうなると、三日月だけ指示が2箇所に重複するよな?クイーンやビショップを全く動かなさいなんて、試合上無理だろうし……」
「そこなんですよね……」
三叉槍さんの言葉に僕も顎に指を添え唸る。どちらかは三日月の部下達を動員しろ、ということなのだろうか?
(そういえば、三日月さんと初めて会った時、シヴァ様にクイーンの駒のことを教えてもらったんだっけ……)
ふと、浮かび上がったその記憶。僕が幹部になる前で、初めてシヴァ様にチェスを教えて頂いた時の事だ。
(確か、その時シヴァ様が言っていた言葉は……)
「「……1番大きく動き、そして攻撃の要になる事が出来る……」」
三日月とその言葉が被る。
お互いが目を見開き、「あの時言っていたお言葉!」とマナーは良くないが勢いよくお互いを指さしてしまった。
「三日月さんの強みはそのサイバー技術です!」
僕の口から飛び出した言葉に三日月さんも「そう!そうよ!」と何度も力強く頷く。
「三日月さんが直接動く必要は無い……その場で、三日月さんは、クイーンは攻撃も守備にも転じることができる唯一の幹部です!」
その言葉に蛇さんも気がついたのか僅かに目を見開いた。
「確かに、こちらにサイバー技術を持つ人間がいることくらい、弓の射手も分かっているはず。この街の主要各所にサイバー攻撃を仕掛けてもおかしくはない!」
なんで気が付かなかったんだ!と蛇さんが両手で髪の毛を掻き混ぜる。
そしてボサボサになった頭のまま、
「よし、これで俺たちがやるべき事がわかった。それぞれ配置に着く準備と、ポーンである構成員の部隊分けを。」
と、的確な指示を飛ばす。
「1から分けるのは時間の無駄だ。三叉槍と野々本の部隊、あと三日月のサイバー班を抜いた残りの部隊を8つに分ける。」
「なら、私の部下は人数が少ないので1部隊のままがいいでしょう。」
「逆にあたしの部下は人数が多いわ。3つに分けれる。」
「よし、あとは俺の部隊を2つ、残りの無所属構成員を2つに分けて配置指示を出そう。」
蛇の言葉に皆が声を揃えて是を返す。
あっという間に部隊分けと方針が決まり、次のシヴァ様の指示に応える準備が完了する。
蛇さんのその統率力、そして咄嗟の判断力は同じ頭脳派と言えどやはり僕にはまだまだ足りないもので、何となく悔しく感じる。
(僕だって、もっとシヴァ様のお役に立つ……!)
無意識に拳を握りしめた所で、
『では、駒係が到着した所で、先手後手を決めましょうか。』
運命の1局が、始まろうとしていた。

