「ポーンを2つ!?一体何を……!?いや、シヴァ様が負けるなんて思っていないが!」
「アンパッサンのルールがそのままなら勝負が着くのなんてあっという間よ!?べ、別にシヴァ様が負けるとは思わないけど!!」
インカム越しに聞こえてきたシヴァ様の言葉に、チャトランガ側も動揺が走る。
余りの動揺に、先程ようやく冷静に待機していなければ、と座り直した幹部たちが再び椅子を吹っ飛ばして叫び出す。
シヴァ様の邪魔をしないため、こちら側からの音声の伝達は切っているが、正直、今すぐ接続をONにしてその真意を確認したい。
(アンパッサンは確か、特定のランクまでポーンを進めた時に適用される特殊ルール……試合で必ずその適用状況が揃う訳では無いけれど、決して少ないわけじゃない……)
アンパッサンが適用できる状況であれば、相手のポーンは盤上から取り除かれる。
つまり、ポーンがポーンを取るための特殊ルールはまだ生きている。
(シヴァ様は次の追加でアンパッサンを無しにするおつもりなのかな……?)
それに、ポーンの初期配置は8つ全て前列だ。
8つ全てならまだしも、2つなんて取ろうと思えば直ぐに取ることが可能だ。
(一体どうして……)
そもそも、今まで一つも僕たち幹部に指示がないのもおかしい。シヴァ様は1人で弓の射手の本拠地に乗り込んでしまうし、全てお一人で片をつける気でいるのだろうか?
『……では、ボクからは、初期配置の自由配置をルールに追加を。変則チェス『アリマア』と同じように先手が先に並べ後手がその後並べるとしましょう。』
「なるほどな、勝利条件にポーンの2つ先取があるのなら、固定の初期配置では試合が難しい。仮に弓の射手側が先手を取れなかった場合不利になる。」
シヴァ様のインカム越しに聞こえる『弓の射手』のボスが追加したルールに、蛇さんがそう言葉を零す。確かにただでさえ先手が有利なのがチェスというゲームだ。初期配置の自由化がなければ、後手は追い詰められる一方になってしまう。
『僕からの最後の追加は、プロモーションは無し、という事です。』
プロモーションは無し。
その言葉にチャトランガ側だけではなく、インカムの向こう側にいる弓の射手も動揺したのがわかった。
「アンパッサンではなくプロモーションを!?」
三日月さんが「どうして!?」と声を荒らげる。
プロモーションはポーンが相手側の最終列に到達した際、クイーン、ビショップ、ナイト、ルークのどれか好きな駒に昇格させるルールだ。
クイーンに昇格させれば、理論上、最大で9個最強のクイーンを盤上に立たせることが出来るということになる。
(どうしてアンパッサンじゃなくてプロモーションを……?最終列まで持って行ければポーンが減る分ポーンを先取され負ける確率も減るのに……)
もちろんポーンを最終列まで持っていくのはなかなか難しい話だ。
それでもわざわざシヴァ様がそれを無しにした理由がわからなかった。
(……駒が変わると困る……とか?)
シヴァ様は意味の無いことはしないお方だ。
恐らくこの変則チェスも何か意味があるはず。
『……なるほど。ではボクからの最後のルール追加です。プレイヤーは駒を触ってはいけない。疑っているわけではありませんが、大事な1局です。不正行為がないと証明し、平等性を確実にするため、口頭で伝えた後、盤上の駒を直接動かす人間は別に用意しましょう。』
『わかりました。』
最後に足されたルールもアンパッサンを無くすものでは無かった。恐らく向こう側も警戒しているのだろう。シヴァ様が何かを狙っていると気が付いているからこそ、自ら提案するが罠だという可能性を考え、敢えてアンパッサンに触れなかった。
(それにしても駒の位置を口頭で……?シヴァ様の反応もあまりにあっさりしていた。)
もし、相手側が出すルールの追加も、シヴァ様の予想通り、もしくは誘導通りの結果だとするのなら。
「川さん、この街の地図紙で下さい!」
「え、ええ、わかったわ!」
僕がいきなり声を上げたことに川さんは驚きながらも「印刷してくる!」とスマートフォン片手に走り出す。
もし、もしもの話だが、相手から提案された口頭でのチェスがシヴァ様の狙いだったとしたら……
「このサイズでもいい!?」
「書き込れば大丈夫です!」
川さんが急いで印刷してきてくれたA4用紙にはこの街を上から見た図が写っている。
そこに定規をあて、迷いなく縦に9本、横に9本線を引いていった。
「これは……チェス盤の目か?」
覗き込んだ蛇さんの言葉に僕はしっかりと頷いて見せる。
「はい。もし、シヴァ様の狙いが口頭でのチェスだとしたらそれはきっとインカムの向こうにいる仲間、僕たちに聞かせるためだと思いませんか?」
インカムにカメラ機能は着いていない。
そのため、声を出してどこに置く、と言わなければ僕たちにシヴァ様達の対局状況は分からない。
「おいおい、まさかシヴァ様が言ってた『その時の状況によって手が変わる』ってのは……!」
蛇さんと同じく、シヴァ様の真意に気がついたらしい三叉槍さんが目を見開いた。
「はい、きっとシヴァ様が最初に1人で乗り込んだのは本拠地に残っている兵力の幹部の残留人数の確認が目的。そして状況が確認し終わり、自分と対局させることで相手のボスを足止めしつつ、」
僕はそこで言葉を切り、1度息を吐き、暴れそうになる心臓を押さえつけるように深く息を吸った。
「チェスの『駒の配置』で、僕たちへの指示を出すつもりです。」
そう、ここから。ここからが『全面戦争』の始まりなのだ。
「アンパッサンのルールがそのままなら勝負が着くのなんてあっという間よ!?べ、別にシヴァ様が負けるとは思わないけど!!」
インカム越しに聞こえてきたシヴァ様の言葉に、チャトランガ側も動揺が走る。
余りの動揺に、先程ようやく冷静に待機していなければ、と座り直した幹部たちが再び椅子を吹っ飛ばして叫び出す。
シヴァ様の邪魔をしないため、こちら側からの音声の伝達は切っているが、正直、今すぐ接続をONにしてその真意を確認したい。
(アンパッサンは確か、特定のランクまでポーンを進めた時に適用される特殊ルール……試合で必ずその適用状況が揃う訳では無いけれど、決して少ないわけじゃない……)
アンパッサンが適用できる状況であれば、相手のポーンは盤上から取り除かれる。
つまり、ポーンがポーンを取るための特殊ルールはまだ生きている。
(シヴァ様は次の追加でアンパッサンを無しにするおつもりなのかな……?)
それに、ポーンの初期配置は8つ全て前列だ。
8つ全てならまだしも、2つなんて取ろうと思えば直ぐに取ることが可能だ。
(一体どうして……)
そもそも、今まで一つも僕たち幹部に指示がないのもおかしい。シヴァ様は1人で弓の射手の本拠地に乗り込んでしまうし、全てお一人で片をつける気でいるのだろうか?
『……では、ボクからは、初期配置の自由配置をルールに追加を。変則チェス『アリマア』と同じように先手が先に並べ後手がその後並べるとしましょう。』
「なるほどな、勝利条件にポーンの2つ先取があるのなら、固定の初期配置では試合が難しい。仮に弓の射手側が先手を取れなかった場合不利になる。」
シヴァ様のインカム越しに聞こえる『弓の射手』のボスが追加したルールに、蛇さんがそう言葉を零す。確かにただでさえ先手が有利なのがチェスというゲームだ。初期配置の自由化がなければ、後手は追い詰められる一方になってしまう。
『僕からの最後の追加は、プロモーションは無し、という事です。』
プロモーションは無し。
その言葉にチャトランガ側だけではなく、インカムの向こう側にいる弓の射手も動揺したのがわかった。
「アンパッサンではなくプロモーションを!?」
三日月さんが「どうして!?」と声を荒らげる。
プロモーションはポーンが相手側の最終列に到達した際、クイーン、ビショップ、ナイト、ルークのどれか好きな駒に昇格させるルールだ。
クイーンに昇格させれば、理論上、最大で9個最強のクイーンを盤上に立たせることが出来るということになる。
(どうしてアンパッサンじゃなくてプロモーションを……?最終列まで持って行ければポーンが減る分ポーンを先取され負ける確率も減るのに……)
もちろんポーンを最終列まで持っていくのはなかなか難しい話だ。
それでもわざわざシヴァ様がそれを無しにした理由がわからなかった。
(……駒が変わると困る……とか?)
シヴァ様は意味の無いことはしないお方だ。
恐らくこの変則チェスも何か意味があるはず。
『……なるほど。ではボクからの最後のルール追加です。プレイヤーは駒を触ってはいけない。疑っているわけではありませんが、大事な1局です。不正行為がないと証明し、平等性を確実にするため、口頭で伝えた後、盤上の駒を直接動かす人間は別に用意しましょう。』
『わかりました。』
最後に足されたルールもアンパッサンを無くすものでは無かった。恐らく向こう側も警戒しているのだろう。シヴァ様が何かを狙っていると気が付いているからこそ、自ら提案するが罠だという可能性を考え、敢えてアンパッサンに触れなかった。
(それにしても駒の位置を口頭で……?シヴァ様の反応もあまりにあっさりしていた。)
もし、相手側が出すルールの追加も、シヴァ様の予想通り、もしくは誘導通りの結果だとするのなら。
「川さん、この街の地図紙で下さい!」
「え、ええ、わかったわ!」
僕がいきなり声を上げたことに川さんは驚きながらも「印刷してくる!」とスマートフォン片手に走り出す。
もし、もしもの話だが、相手から提案された口頭でのチェスがシヴァ様の狙いだったとしたら……
「このサイズでもいい!?」
「書き込れば大丈夫です!」
川さんが急いで印刷してきてくれたA4用紙にはこの街を上から見た図が写っている。
そこに定規をあて、迷いなく縦に9本、横に9本線を引いていった。
「これは……チェス盤の目か?」
覗き込んだ蛇さんの言葉に僕はしっかりと頷いて見せる。
「はい。もし、シヴァ様の狙いが口頭でのチェスだとしたらそれはきっとインカムの向こうにいる仲間、僕たちに聞かせるためだと思いませんか?」
インカムにカメラ機能は着いていない。
そのため、声を出してどこに置く、と言わなければ僕たちにシヴァ様達の対局状況は分からない。
「おいおい、まさかシヴァ様が言ってた『その時の状況によって手が変わる』ってのは……!」
蛇さんと同じく、シヴァ様の真意に気がついたらしい三叉槍さんが目を見開いた。
「はい、きっとシヴァ様が最初に1人で乗り込んだのは本拠地に残っている兵力の幹部の残留人数の確認が目的。そして状況が確認し終わり、自分と対局させることで相手のボスを足止めしつつ、」
僕はそこで言葉を切り、1度息を吐き、暴れそうになる心臓を押さえつけるように深く息を吸った。
「チェスの『駒の配置』で、僕たちへの指示を出すつもりです。」
そう、ここから。ここからが『全面戦争』の始まりなのだ。

