「……シヴァ様、弓の射手との取り決めを教えてください。」
(え、知らないが???)
朝日さんの問いかけに内心で即行ツッコミを入れる。
だって、その辺を決めたのは川さんと向こうのバフダーラさん基、ヴァジュラさんだ。
「……川さん。」
「はーい!任せて下さい!」
何とか川さんに声をかければ察してくれたのか元気よく返事をし、「弓の射手と決めた条件は4つ。」と説明を始めてくれた。
「1、勝負は3日後。18時から。」
ピンッと川さんが人差し指を立てる。意外と細かく日時が決められていた。
「2、勝負は1度きり。負けた方が解散。勝者は敗者を追わない。」
続けて川さんは折りたたんでいた中指を立てる。
「3、第三者の介入は厳禁。参戦は構成員までで、同盟関係者はダメ。」
今度は薬指が立ち、蛇さんは「なるほど、牡丹組と公安を警戒したな。」と相手の意図を推察していた。
そして、
「4、弓の射手が勝ったら……し、シヴァ様を、あの、クソ野郎どもに、渡す……!」
物凄く嫌そうに、何なら苦虫1000匹くらい噛んだかのような顔で川さんが告げた4つ目の条件。
立てた指は最早握りこぶしへと代わり、力を込めすぎて白くなっている。
「……は??」
「おい待てなんだその条件。許し難いが??」
真っ先に反応したのは三叉槍さんと蛇さんだ。
数拍置いて三日月さんがよろめいたかと思えば、「は?万死万死万死許されると思ってんのか何様のつもりだシヴァ様は誰の配下にも下らないしそもそもお前ごときがシヴァ様の上に立てると思ってんのか不敬不敬(以下略)」とブツブツ言い始め、野々本君に至っては「殺しましょうやつは人間じゃありません害虫です。」と一息に言い切る始末。
そんな彼らに川さんが「仕方ないじゃない……!シヴァ様が条件を飲むと仰ったんだから……!」と伝えるが、その拳は更に力が込められ震えていた。
(え、えぇ……皆そんなに僕負けそうって思ってるのかな……)
これでも、チェスの腕前はそこそこだと自負していたんだけれど。
ちょっぴり悲しい気持ちになりながら、朝日さんの方へ視線を戻すと、
「……っ、……っ……!」
(めっちゃ泣いてるーーーー!!?)
僅かな嗚咽をつまらせながら、ダバダバと滝のような涙を流していた。
余りの勢いにこちらも驚いて動きが止まる。
「し、シヴァ様が、み、自らを売るような選択を、させてしまって、わ、私は……!」
成人をとっくに過ぎた大人とは思えない豪快な泣きっぷりに、いつの間にか蛇さん達が囲いこんで背中を撫でたり、ハンカチ渡したりしながら
「わかる、シヴァ様には安全な場所で堂々と構えてて欲しかったんだよな。」
「シヴァ様を賞品みたいに扱われるの嫌だよな。 」
「ましてや自分の力不足でそうなってしまって悔しいよね。」
「わかるよ、圧倒的力がシヴァ様にあったとしても、そこに並び立って支えたいよね。」
と、皆で慰めあって……これは慰めあっているのだろうか??多分慰めあっている。
よく分からない空間が生成され、僕は思わず背後に宇宙を背負ってしまう。
(……え、よく分かんないけど、そんなに僕ボロボロに負けそうって思われてるの??)
公安所属の人が思わず泣くくらいに、負け確と思われているのだろうか。
確かに前回の試合は引き分けで、今回は交渉によって途中で試合が終わってしまったけれど、それでも恥ずべき様な無様は晒していないはずだ。
なんだか、段々腹が立ってきた。まるで僕が負ける前提なのか気に食わない。
確かに蛇さんみたいな皆をまとめる才能も無ければ三日月さんみたいにパソコンに強い訳でもない。三叉槍さんみたいな圧倒的な喧嘩の腕を持っているわけでもない。
だけど、チェスは、チェスだけはずっと好きで打ち続けてきたんだ。様々な定跡を学び、過去の凄腕のプレイヤー達の棋譜を並べ続け、様々な人達と対戦してきた。
それなのに、そんな簡単に「負けてしまう」と思われるなんて、諦められてしまうなんて、許せないじゃないか。
「負けなければいい話でしょう。」
気づけば、怒りがそのまま口から飛び出していた。
そう、どうして負け前提で話すのか。負けなければ無効の条件じゃないか。
(って、偉そうに言っちゃったー!!)
言葉が出たことによって少し頭が冷える。
負けなければいいって、生意気言ってしまった。しかも対戦相手はあのルドさん。勝負は五分五分なのに、大口叩いてしまった!
サーっと頭から血の気が引いていく。これだけ大きな口を叩いておいて、本当に負けたら「え、あんな大口叩いておいてやっぱ負けてんじゃん」ってなってしまう。
いや、それ以前に「いや、いきなり生意気な大口叩くじゃん」ってなるかもしれない。
しかし、僕の杞憂に対して、皆はぱちりぱちりと目を瞬くと、突然表情を引きしめた。
そして、蛇さんが口を開いた。
「あるんですね。やつらに勝つ、作戦が。」
(え、ありませんが????)
そもそも対局前なのに作戦とは??
前提として、まず芝崎は、提案と言って吹っかけた勝負に関して「チェス」という単語を一言も発していない。
そのため、チャトランガも弓の射手も組織の全面戦争だと思っており、トップ同士でのチェス勝負で片をつけると思っているのは芝崎だけである。
一言チェスの勝負で、と言えば済んだものを酷いすれ違いである。
(え、知らないが???)
朝日さんの問いかけに内心で即行ツッコミを入れる。
だって、その辺を決めたのは川さんと向こうのバフダーラさん基、ヴァジュラさんだ。
「……川さん。」
「はーい!任せて下さい!」
何とか川さんに声をかければ察してくれたのか元気よく返事をし、「弓の射手と決めた条件は4つ。」と説明を始めてくれた。
「1、勝負は3日後。18時から。」
ピンッと川さんが人差し指を立てる。意外と細かく日時が決められていた。
「2、勝負は1度きり。負けた方が解散。勝者は敗者を追わない。」
続けて川さんは折りたたんでいた中指を立てる。
「3、第三者の介入は厳禁。参戦は構成員までで、同盟関係者はダメ。」
今度は薬指が立ち、蛇さんは「なるほど、牡丹組と公安を警戒したな。」と相手の意図を推察していた。
そして、
「4、弓の射手が勝ったら……し、シヴァ様を、あの、クソ野郎どもに、渡す……!」
物凄く嫌そうに、何なら苦虫1000匹くらい噛んだかのような顔で川さんが告げた4つ目の条件。
立てた指は最早握りこぶしへと代わり、力を込めすぎて白くなっている。
「……は??」
「おい待てなんだその条件。許し難いが??」
真っ先に反応したのは三叉槍さんと蛇さんだ。
数拍置いて三日月さんがよろめいたかと思えば、「は?万死万死万死許されると思ってんのか何様のつもりだシヴァ様は誰の配下にも下らないしそもそもお前ごときがシヴァ様の上に立てると思ってんのか不敬不敬(以下略)」とブツブツ言い始め、野々本君に至っては「殺しましょうやつは人間じゃありません害虫です。」と一息に言い切る始末。
そんな彼らに川さんが「仕方ないじゃない……!シヴァ様が条件を飲むと仰ったんだから……!」と伝えるが、その拳は更に力が込められ震えていた。
(え、えぇ……皆そんなに僕負けそうって思ってるのかな……)
これでも、チェスの腕前はそこそこだと自負していたんだけれど。
ちょっぴり悲しい気持ちになりながら、朝日さんの方へ視線を戻すと、
「……っ、……っ……!」
(めっちゃ泣いてるーーーー!!?)
僅かな嗚咽をつまらせながら、ダバダバと滝のような涙を流していた。
余りの勢いにこちらも驚いて動きが止まる。
「し、シヴァ様が、み、自らを売るような選択を、させてしまって、わ、私は……!」
成人をとっくに過ぎた大人とは思えない豪快な泣きっぷりに、いつの間にか蛇さん達が囲いこんで背中を撫でたり、ハンカチ渡したりしながら
「わかる、シヴァ様には安全な場所で堂々と構えてて欲しかったんだよな。」
「シヴァ様を賞品みたいに扱われるの嫌だよな。 」
「ましてや自分の力不足でそうなってしまって悔しいよね。」
「わかるよ、圧倒的力がシヴァ様にあったとしても、そこに並び立って支えたいよね。」
と、皆で慰めあって……これは慰めあっているのだろうか??多分慰めあっている。
よく分からない空間が生成され、僕は思わず背後に宇宙を背負ってしまう。
(……え、よく分かんないけど、そんなに僕ボロボロに負けそうって思われてるの??)
公安所属の人が思わず泣くくらいに、負け確と思われているのだろうか。
確かに前回の試合は引き分けで、今回は交渉によって途中で試合が終わってしまったけれど、それでも恥ずべき様な無様は晒していないはずだ。
なんだか、段々腹が立ってきた。まるで僕が負ける前提なのか気に食わない。
確かに蛇さんみたいな皆をまとめる才能も無ければ三日月さんみたいにパソコンに強い訳でもない。三叉槍さんみたいな圧倒的な喧嘩の腕を持っているわけでもない。
だけど、チェスは、チェスだけはずっと好きで打ち続けてきたんだ。様々な定跡を学び、過去の凄腕のプレイヤー達の棋譜を並べ続け、様々な人達と対戦してきた。
それなのに、そんな簡単に「負けてしまう」と思われるなんて、諦められてしまうなんて、許せないじゃないか。
「負けなければいい話でしょう。」
気づけば、怒りがそのまま口から飛び出していた。
そう、どうして負け前提で話すのか。負けなければ無効の条件じゃないか。
(って、偉そうに言っちゃったー!!)
言葉が出たことによって少し頭が冷える。
負けなければいいって、生意気言ってしまった。しかも対戦相手はあのルドさん。勝負は五分五分なのに、大口叩いてしまった!
サーっと頭から血の気が引いていく。これだけ大きな口を叩いておいて、本当に負けたら「え、あんな大口叩いておいてやっぱ負けてんじゃん」ってなってしまう。
いや、それ以前に「いや、いきなり生意気な大口叩くじゃん」ってなるかもしれない。
しかし、僕の杞憂に対して、皆はぱちりぱちりと目を瞬くと、突然表情を引きしめた。
そして、蛇さんが口を開いた。
「あるんですね。やつらに勝つ、作戦が。」
(え、ありませんが????)
そもそも対局前なのに作戦とは??
前提として、まず芝崎は、提案と言って吹っかけた勝負に関して「チェス」という単語を一言も発していない。
そのため、チャトランガも弓の射手も組織の全面戦争だと思っており、トップ同士でのチェス勝負で片をつけると思っているのは芝崎だけである。
一言チェスの勝負で、と言えば済んだものを酷いすれ違いである。

