読者はすでにわかっているとは思うが、全ては勘違いである。
事の発端は凡そ1時間前。
「|You want a piece of me!?《てめぇ喧嘩売ってんのか!?》」
(貴方は私の駒が欲しい……??)
今日は終業式だったため、早く学校が終わった芝崎は外国籍の3人の男に絡まれていた。
この絡んできた男達がなんの因果か『弓の射手』の下っ端構成員だった。
チャトランガと違い、国外からやってきた『弓の射手』の構成員は外国籍の者が多い。そのため、7月の終わりに学期末が来るというイメージそのものがあまりない。
国によっては6月から8月の長期間夏休みの所もあるし、そこ以外も7月の頭から夏休みが始まる国が多い。
そのため、芝崎のことを昼間からわざわざ制服を着てうろつく不良学生として見え、下っ端構成員の目に付いたのだ。
そしてその若さとそぐわない存在感に畏怖し、「俺らがこんな餓鬼に怖がるわけないだろ!!」という反抗心から絡みに行ったのだ。
日本のチンピラよろしく肩をぶつけ軽いスラングを浴びせる。しかし、芝崎がそれに大して反応を示さなかったので「|You want a piece of me!?《てめぇ喧嘩売ってんのか!?》」と怒鳴り散らしたのだ。
しかし、肝心の芝崎はあくまでマークシートを偶然全て正解し続けているだけであって、実際は学校の成績ほど英語が得意ではない。
そのため、「You want a piece of me!?」というスラングに近い喧嘩言葉を正しく理解出来ず、「貴方」「欲しい」「駒」「私の」と誤訳した。ちなみに私の駒と訳すのであれば本来ならmeではなくmyである。
そして「piece」。これをボードゲームが好きな芝崎は咄嗟にボードゲームの駒と訳したが、今回は同じpieceでも駒ではなく、「1部」や「1切れ」を示すpieceであり、ボードゲームは一切関係ない。
そしてこれらの勘違いから芝崎が導き出した答えは
(ボードゲームで遊ぼうって誘われてる!)
これである。
なお、ボードゲームに関してバカになる傾向のある芝崎は、相手の怒っている顔が視界に入らなくなったらしい。
「OK,Let's play.」
そのため、芝崎は持てる英語知識でそう答えた。
芝崎からすればボードゲームのお誘いに対して、「OK,Let's play.」との返答になる。この場合ボードゲームの「play」なので、誤用では無い。
だが、下っ端3人組からすれば喧嘩の煽り文句に対して「OK,Let's play.」というニュアンスが返されたと受け取った。
しかも、「play」はスポーツやゲームなど以外に使う場合子供が公園で遊ぶ、などの「play」となる。
つまり、下っ端3人組は子供扱いされた上に「遊んであげる」と喧嘩を買われた。そう解釈したのだ。
「|Don't make me hurt you!!《痛い目にあわせてやる!!》」
「Hang on!|this place is inconvenient!《この場所はまずい!》」
3人のうち1人がクイッと顎で建物を指し示した。そこは表向きはただの企業ビルの受付窓口に見える自分たち『弓の射手』の拠点だ。
一応上から今は騒ぎを起こすなと言われている。だから密室でリンチして恥ずかしい写真の1枚でも撮ってやれば、日本なんて言う平和ボケした国の学生なんて泣き寝入りするだろう、と下っ端3人組は考えたのだ。
もちろん全然わかっていない芝崎は「あ、あそこのビルでボードゲームできるんだ。なんのボードゲームかなぁ。」なんて呑気に考えていた。
そしてのこのことエントランスへとついて行き、そこで芝崎はふと思い出した。そういえばこの後松野くんと会う約束していたな、と。
ただ、会う時間は夕方なので、今から何かしらのボードゲームを1戦やるくらいは大丈夫だろう。
(……うーん、でも念の為、連絡しておこう。)
僕の場合、ボードゲームに夢中になって時間忘れそうだし、とエントランスのど真ん中で、スマートフォンを取り出し、先程確認したビルの名前を打ち込み「少し遊んできます。」と松野翔へとメールを送った。
それが余計に小馬鹿にしているように思えた下っ端3人組は密室に連れ込むどころか、エントランスで殴りかかろうとした。
しかし、芝崎は運悪く……この場合は運良くスマホを落としかけ身を屈めたことにより1人目の拳を避け、何か分からず振り返ろうと足を動かした瞬間2人目の足を引っ掛け転ばせ、驚き後退しようと1歩足を下げたらそこには3人目の足が。
平たい床だと思っていたのに凹凸のあるものを踏み、バランスを崩した芝崎の肘は3人目のみぞおちに綺麗に入った。
まさにあっという間。
3人目は勢いよくみぞおちに肘が入ったことにより悶絶し意識を飛ばしかけている。
1人目と2人目は意識には問題は無いものの、完全に戦意を喪失してしまっていた。
その存在感と流れるような洗練された動き(※勘違い)。戦い慣れている上に余裕綽々なその姿に、自分達とは格が違うと感じてしまったのだ。
しかし、エントランスにいた他の構成員からすれば、いきなりやってきた学生が下っ端とはいえ仲間を伸した、という構図だ。
そのため「だめだ、この人には敵わない……!」と戦意を喪失している絡んだ当事者を置き去りに、「Fight him!!」と怒号が飛び、周りにいた構成員は芝崎に襲いかかった。
(ヒィィー!?なんでなんで!?)
と、内心慌てふためく芝崎を置き去りに、拳や蹴りが芝崎に向かって繰り出される。
しかし、ここでも発揮されるのが芝崎の勘違い属性。慌てて避けようとしゃがんだかと思えば避けた拳が後ろから襲おうとしていた人間に当たり、足がよろければ何時の間にか蹴りを避け、頭を庇おうと咄嗟に動かした手が相手の顎にヒットする。
何時の間にか周辺は痛みで呻く人間で溢れかえっていた。
それなのにこの状況を作り出した芝崎が1番何が起きたのか分かっていない。
(ひとまず落ち着こう……なんか知らないけど、勝手にこの人たち自滅したみたいだし……落ち着こう……落ち着こう……)
と、制服のポケットに乱雑に突っ込んであったぬるくなったペットボトルのお茶を口に運ぶ。
しかし、エントランスの奥の方からやってきた人物の姿に芝崎は目を丸くした。
「急にどうしたんです?芝崎君。」
と、笑みを浮かべながら尋ねて来た人物。
「あ、ルドさん。」
ここでようやく芝崎は、ここがただの企業ビルではないと気づくも、「あ、もしかしてここが 弓の射手とかいう所のフロント企業……?フロント企業でボードゲームクラブやってるのかぁ、ルドさんチェスすごい強かったもんなぁ。」とどこかズレた考察をし、
「(ボードゲームに誘われたのでボードゲームで)遊びに来ました。」
と、安定の口下手を発揮しながらルドラの質問に答えたのだった。
**あとがき**
スラング合ってるかあまり自信ないので微妙にニュアンス違かったらすみません……!
事の発端は凡そ1時間前。
「|You want a piece of me!?《てめぇ喧嘩売ってんのか!?》」
(貴方は私の駒が欲しい……??)
今日は終業式だったため、早く学校が終わった芝崎は外国籍の3人の男に絡まれていた。
この絡んできた男達がなんの因果か『弓の射手』の下っ端構成員だった。
チャトランガと違い、国外からやってきた『弓の射手』の構成員は外国籍の者が多い。そのため、7月の終わりに学期末が来るというイメージそのものがあまりない。
国によっては6月から8月の長期間夏休みの所もあるし、そこ以外も7月の頭から夏休みが始まる国が多い。
そのため、芝崎のことを昼間からわざわざ制服を着てうろつく不良学生として見え、下っ端構成員の目に付いたのだ。
そしてその若さとそぐわない存在感に畏怖し、「俺らがこんな餓鬼に怖がるわけないだろ!!」という反抗心から絡みに行ったのだ。
日本のチンピラよろしく肩をぶつけ軽いスラングを浴びせる。しかし、芝崎がそれに大して反応を示さなかったので「|You want a piece of me!?《てめぇ喧嘩売ってんのか!?》」と怒鳴り散らしたのだ。
しかし、肝心の芝崎はあくまでマークシートを偶然全て正解し続けているだけであって、実際は学校の成績ほど英語が得意ではない。
そのため、「You want a piece of me!?」というスラングに近い喧嘩言葉を正しく理解出来ず、「貴方」「欲しい」「駒」「私の」と誤訳した。ちなみに私の駒と訳すのであれば本来ならmeではなくmyである。
そして「piece」。これをボードゲームが好きな芝崎は咄嗟にボードゲームの駒と訳したが、今回は同じpieceでも駒ではなく、「1部」や「1切れ」を示すpieceであり、ボードゲームは一切関係ない。
そしてこれらの勘違いから芝崎が導き出した答えは
(ボードゲームで遊ぼうって誘われてる!)
これである。
なお、ボードゲームに関してバカになる傾向のある芝崎は、相手の怒っている顔が視界に入らなくなったらしい。
「OK,Let's play.」
そのため、芝崎は持てる英語知識でそう答えた。
芝崎からすればボードゲームのお誘いに対して、「OK,Let's play.」との返答になる。この場合ボードゲームの「play」なので、誤用では無い。
だが、下っ端3人組からすれば喧嘩の煽り文句に対して「OK,Let's play.」というニュアンスが返されたと受け取った。
しかも、「play」はスポーツやゲームなど以外に使う場合子供が公園で遊ぶ、などの「play」となる。
つまり、下っ端3人組は子供扱いされた上に「遊んであげる」と喧嘩を買われた。そう解釈したのだ。
「|Don't make me hurt you!!《痛い目にあわせてやる!!》」
「Hang on!|this place is inconvenient!《この場所はまずい!》」
3人のうち1人がクイッと顎で建物を指し示した。そこは表向きはただの企業ビルの受付窓口に見える自分たち『弓の射手』の拠点だ。
一応上から今は騒ぎを起こすなと言われている。だから密室でリンチして恥ずかしい写真の1枚でも撮ってやれば、日本なんて言う平和ボケした国の学生なんて泣き寝入りするだろう、と下っ端3人組は考えたのだ。
もちろん全然わかっていない芝崎は「あ、あそこのビルでボードゲームできるんだ。なんのボードゲームかなぁ。」なんて呑気に考えていた。
そしてのこのことエントランスへとついて行き、そこで芝崎はふと思い出した。そういえばこの後松野くんと会う約束していたな、と。
ただ、会う時間は夕方なので、今から何かしらのボードゲームを1戦やるくらいは大丈夫だろう。
(……うーん、でも念の為、連絡しておこう。)
僕の場合、ボードゲームに夢中になって時間忘れそうだし、とエントランスのど真ん中で、スマートフォンを取り出し、先程確認したビルの名前を打ち込み「少し遊んできます。」と松野翔へとメールを送った。
それが余計に小馬鹿にしているように思えた下っ端3人組は密室に連れ込むどころか、エントランスで殴りかかろうとした。
しかし、芝崎は運悪く……この場合は運良くスマホを落としかけ身を屈めたことにより1人目の拳を避け、何か分からず振り返ろうと足を動かした瞬間2人目の足を引っ掛け転ばせ、驚き後退しようと1歩足を下げたらそこには3人目の足が。
平たい床だと思っていたのに凹凸のあるものを踏み、バランスを崩した芝崎の肘は3人目のみぞおちに綺麗に入った。
まさにあっという間。
3人目は勢いよくみぞおちに肘が入ったことにより悶絶し意識を飛ばしかけている。
1人目と2人目は意識には問題は無いものの、完全に戦意を喪失してしまっていた。
その存在感と流れるような洗練された動き(※勘違い)。戦い慣れている上に余裕綽々なその姿に、自分達とは格が違うと感じてしまったのだ。
しかし、エントランスにいた他の構成員からすれば、いきなりやってきた学生が下っ端とはいえ仲間を伸した、という構図だ。
そのため「だめだ、この人には敵わない……!」と戦意を喪失している絡んだ当事者を置き去りに、「Fight him!!」と怒号が飛び、周りにいた構成員は芝崎に襲いかかった。
(ヒィィー!?なんでなんで!?)
と、内心慌てふためく芝崎を置き去りに、拳や蹴りが芝崎に向かって繰り出される。
しかし、ここでも発揮されるのが芝崎の勘違い属性。慌てて避けようとしゃがんだかと思えば避けた拳が後ろから襲おうとしていた人間に当たり、足がよろければ何時の間にか蹴りを避け、頭を庇おうと咄嗟に動かした手が相手の顎にヒットする。
何時の間にか周辺は痛みで呻く人間で溢れかえっていた。
それなのにこの状況を作り出した芝崎が1番何が起きたのか分かっていない。
(ひとまず落ち着こう……なんか知らないけど、勝手にこの人たち自滅したみたいだし……落ち着こう……落ち着こう……)
と、制服のポケットに乱雑に突っ込んであったぬるくなったペットボトルのお茶を口に運ぶ。
しかし、エントランスの奥の方からやってきた人物の姿に芝崎は目を丸くした。
「急にどうしたんです?芝崎君。」
と、笑みを浮かべながら尋ねて来た人物。
「あ、ルドさん。」
ここでようやく芝崎は、ここがただの企業ビルではないと気づくも、「あ、もしかしてここが 弓の射手とかいう所のフロント企業……?フロント企業でボードゲームクラブやってるのかぁ、ルドさんチェスすごい強かったもんなぁ。」とどこかズレた考察をし、
「(ボードゲームに誘われたのでボードゲームで)遊びに来ました。」
と、安定の口下手を発揮しながらルドラの質問に答えたのだった。
**あとがき**
スラング合ってるかあまり自信ないので微妙にニュアンス違かったらすみません……!

