「改めて、チャトランガ幹部第三の目さんの直属部下、野々本だ。つまり、俺は幹部じゃない。」
と、機械越しではなく、素の声のままそう明かした野々本君。
「あの青龍の野々本春が……幹部直属の部下……!?いえ、確かに君の存在はチャトランガに関係していると噂はありましたが……!」
朝日さんも流石に予想外だったのか、その顔には驚きを隠せていない。
いや、僕も驚いているけれど。
まさか仮面までとってしまうとは。野々本君の許容範囲が予想以上に広すぎた。
「牡丹組が同盟相手とのことでしたので、抗争に参加していた青龍も同盟相手かと思っていましたが、まさか幹部直属とは……」
「まあ、僕が幹部になったのも最近の話ですしね。直属の部下と言っても、相棒みたいなものですよ。」
未だに驚いている朝日さんに、松野君がそう言葉を投げる。
そもそも、僕松野君がいつ幹部になったのか知らないや。テスト前には第三の目って呼ばれてたけど。
「いえ……寧ろ野々本春レベルの人間でも幹部でないとは恐れ入りました……本当に、貴方たち組織は戦力の底がしれない……」
感嘆と、少しの畏怖が混ざったような声色で、朝日さんが力無く言う。
(……わかる。チャトランガの戦力って底がわかんないよね。僕も知らないし。)
なんて、ボスとしてどうかと思うが、朝日さんの言葉に内心頷いていると、ふと、川さんが「ちょっといい?」と口を開いた。
「話戻すけど、そもそもアンタ、相手の懐に入るのに、シヴァ様のこと悪く言えるの?」
そう、川さんが尋ねると、ハッとしたように野々本君が身を硬くする。
そして、ドパッと汗が吹き出した。
「が、が、が、が、がんばればできます……!」
「いや、めちゃくちゃ吃ってんじゃん。」
野々本君の絞り出した声に、思わずといった具合で三叉槍さんがツッコミを入れる。
そんな野々本君に川さんは「やっぱりそうなるわよねぇ~。」と腕を組んでうんうんと頷く。
「……確かに、それでは怪しまれるでしょう。野々本春が紅葉組抗争に参加していた事は公安も掴んでいる情報です。『弓の射手』が知っていてもおかしくはありません。内通者だと直ぐにバレるが落ちです。」
と、朝日さんが眼鏡のブリッチを上げてダラダラと汗をかく野々本君を見やる。
それに、野々本君は苦々しい顔をしたまま、
「……もともと、チャトランガとの繋がりは向こうもある程度分かっていて、それでも情報欲しさに勧誘されている感じでした。」
そう言葉を続けた。
「……もしかしたら、野々本君、そして青龍のグループ自体はシヴァ様や、チャトランガの傘下に入ったことを不満に思っている、そう『弓の射手』は考えていたのかもしれないですね。」
ふと、松野君が仮面越しに顎に指を当てながら「あくまで憶測ですし、今の考えは違うかもしれませんが。」と更に続ける。
「そもそも、相手からしてみればチャトランガという情報のない組織を相手にするのなら、些細なことでも情報が欲しいはずです。『弓の射手』もここまで水面下で動き続けてきた国際組織です。事前情報一切無しに動くなんて言う馬鹿なことはしたくないはず。」
そう言って松野君は1歩前に出る。何やら難しい話が始まってしまい、僕の頭はショート寸前だ。
「先程、情報屋と接触していたという話もありましたし、野々本君がチャトランガとの繋がりが明確にあると分かっていても、『弓の射手』はその情報が欲しくてたまらないはずです。」
「なら、やはり俺が潜入を……」
「いえ、ダメです。情報を持っているとわかる相手を向こうが懐に招けば、こちらは後手に回ります。仮に野々本君を人質に取られたり、拷問を掛けられたりすれば、先手は向こうが打つことになる。」
野々本君の言葉をキッパリ切り捨て、松野君は最悪の事態の想定を口にする。
確かに、敵地に赴くというのはそういった危険性がある。そこまでの危険を犯して敵地に潜り込めなんて、僕はとても言えないし、言いたくない。
「そこまで言うってことは何か考えがあるのね、第三の目。」
パソコンを持ったまま三日月さんが、松野君へと真っ直ぐ視線を向ける。その視線に、松野君はしっかりと頷いて見せた。
「はい。交渉人『ヴァジュラ』と、野々本君の2人で『弓の射手』と『チャトランガ』の交渉の場を設けましょう。」
そんな松野君の言葉に反応したのは川さんだった。
「ちょっと、この組織での交渉役はあたしでしょ?組織対組織としての交渉の場を設けるのなら野々本春には役が重いわ。」
そう不満さを隠さない声色で、松野君に詰め寄る川さん。当の本人の野々本君も僅かに眉尻を下げ、
「……確かに、俺は駆け引きや腹の探り合いは向いていません。」
と、川さんの言葉に肯定を示す。
「組織対組織ではありますが、野々本君の立場を向こうに勘違いさせましょう。例えば『チャトランガから抜けたいが、抜けられない。弓の射手に加入は出来ないが不満は持っているからわかる情報だけ渡すチャトランガ内の裏切り者』という風にでも。」
情報をあえて与えるんです。と松野君は人差し指を立てた。
それに蛇さんが「だが、かなりリスクがあるぞ。」と苦言を零す。
「ですが、このままでは野々本君やチャトランガの構成員が拉致され拷問されてもおかしくはありません。」
(……そうだ、相手は国際テロ組織……強硬手段に出ようと思えばいくらでも出れるんだ……)
サスペンスドラマや小説でも、テロ組織に限らず凶悪犯罪というのは想像もできないような残忍な方法や手段を用いて、事をなそうとする人がいる。
現実は小説より奇なり、なんて言葉があるんだ。
創作物よりも残忍な手段をとってきたっておかしくは無い。
「だから、あえて情報を与えるんです。チャトランガが、相手を動かしやすいように。」
そう言葉を続けた松野君の意図が蛇さんには分かったらしく、「なるほど、情報によって動きを誘導することにより、俺達も相手の行動がわかる。そうなれば対応は取りやすい。」と、腕を組んで深く1度頷いた。
(すごい『The情報戦』!って感じだなぁ……)
なんて他人事のように思ってしまう。
他人事、なんて本当はしてしまってはいけないのだが、会話の次元が違いすぎて、僕はついていけない。松野君も蛇さんも頭良いもんなぁ……
(でも、こういう情報戦でありがちなのって……)
「警察内部にテロ組織の人間がいる。」
そう、こういう展開はサスペンスドラマや小説あるあるではないだろうか。「え、あの人が裏切り者だったの!?」というシーンは親の顔よりも見た気がする。
例えば、主人公の刑事の先輩だったり、仲間だと思っていた同僚だったり。片思い相手とかも中々胸に来る展開だ。
なんて、ドラマや小説あるあるに思考を飛ばしていたら、零れそうなくらい目を見開いてこちらを見てくる朝日さんと目が合った。
「……そんな、『弓の射手』の情報は公安で止まっているはず……つまり、内通者は公安に……!?」
(……え、なんの話???)
と、機械越しではなく、素の声のままそう明かした野々本君。
「あの青龍の野々本春が……幹部直属の部下……!?いえ、確かに君の存在はチャトランガに関係していると噂はありましたが……!」
朝日さんも流石に予想外だったのか、その顔には驚きを隠せていない。
いや、僕も驚いているけれど。
まさか仮面までとってしまうとは。野々本君の許容範囲が予想以上に広すぎた。
「牡丹組が同盟相手とのことでしたので、抗争に参加していた青龍も同盟相手かと思っていましたが、まさか幹部直属とは……」
「まあ、僕が幹部になったのも最近の話ですしね。直属の部下と言っても、相棒みたいなものですよ。」
未だに驚いている朝日さんに、松野君がそう言葉を投げる。
そもそも、僕松野君がいつ幹部になったのか知らないや。テスト前には第三の目って呼ばれてたけど。
「いえ……寧ろ野々本春レベルの人間でも幹部でないとは恐れ入りました……本当に、貴方たち組織は戦力の底がしれない……」
感嘆と、少しの畏怖が混ざったような声色で、朝日さんが力無く言う。
(……わかる。チャトランガの戦力って底がわかんないよね。僕も知らないし。)
なんて、ボスとしてどうかと思うが、朝日さんの言葉に内心頷いていると、ふと、川さんが「ちょっといい?」と口を開いた。
「話戻すけど、そもそもアンタ、相手の懐に入るのに、シヴァ様のこと悪く言えるの?」
そう、川さんが尋ねると、ハッとしたように野々本君が身を硬くする。
そして、ドパッと汗が吹き出した。
「が、が、が、が、がんばればできます……!」
「いや、めちゃくちゃ吃ってんじゃん。」
野々本君の絞り出した声に、思わずといった具合で三叉槍さんがツッコミを入れる。
そんな野々本君に川さんは「やっぱりそうなるわよねぇ~。」と腕を組んでうんうんと頷く。
「……確かに、それでは怪しまれるでしょう。野々本春が紅葉組抗争に参加していた事は公安も掴んでいる情報です。『弓の射手』が知っていてもおかしくはありません。内通者だと直ぐにバレるが落ちです。」
と、朝日さんが眼鏡のブリッチを上げてダラダラと汗をかく野々本君を見やる。
それに、野々本君は苦々しい顔をしたまま、
「……もともと、チャトランガとの繋がりは向こうもある程度分かっていて、それでも情報欲しさに勧誘されている感じでした。」
そう言葉を続けた。
「……もしかしたら、野々本君、そして青龍のグループ自体はシヴァ様や、チャトランガの傘下に入ったことを不満に思っている、そう『弓の射手』は考えていたのかもしれないですね。」
ふと、松野君が仮面越しに顎に指を当てながら「あくまで憶測ですし、今の考えは違うかもしれませんが。」と更に続ける。
「そもそも、相手からしてみればチャトランガという情報のない組織を相手にするのなら、些細なことでも情報が欲しいはずです。『弓の射手』もここまで水面下で動き続けてきた国際組織です。事前情報一切無しに動くなんて言う馬鹿なことはしたくないはず。」
そう言って松野君は1歩前に出る。何やら難しい話が始まってしまい、僕の頭はショート寸前だ。
「先程、情報屋と接触していたという話もありましたし、野々本君がチャトランガとの繋がりが明確にあると分かっていても、『弓の射手』はその情報が欲しくてたまらないはずです。」
「なら、やはり俺が潜入を……」
「いえ、ダメです。情報を持っているとわかる相手を向こうが懐に招けば、こちらは後手に回ります。仮に野々本君を人質に取られたり、拷問を掛けられたりすれば、先手は向こうが打つことになる。」
野々本君の言葉をキッパリ切り捨て、松野君は最悪の事態の想定を口にする。
確かに、敵地に赴くというのはそういった危険性がある。そこまでの危険を犯して敵地に潜り込めなんて、僕はとても言えないし、言いたくない。
「そこまで言うってことは何か考えがあるのね、第三の目。」
パソコンを持ったまま三日月さんが、松野君へと真っ直ぐ視線を向ける。その視線に、松野君はしっかりと頷いて見せた。
「はい。交渉人『ヴァジュラ』と、野々本君の2人で『弓の射手』と『チャトランガ』の交渉の場を設けましょう。」
そんな松野君の言葉に反応したのは川さんだった。
「ちょっと、この組織での交渉役はあたしでしょ?組織対組織としての交渉の場を設けるのなら野々本春には役が重いわ。」
そう不満さを隠さない声色で、松野君に詰め寄る川さん。当の本人の野々本君も僅かに眉尻を下げ、
「……確かに、俺は駆け引きや腹の探り合いは向いていません。」
と、川さんの言葉に肯定を示す。
「組織対組織ではありますが、野々本君の立場を向こうに勘違いさせましょう。例えば『チャトランガから抜けたいが、抜けられない。弓の射手に加入は出来ないが不満は持っているからわかる情報だけ渡すチャトランガ内の裏切り者』という風にでも。」
情報をあえて与えるんです。と松野君は人差し指を立てた。
それに蛇さんが「だが、かなりリスクがあるぞ。」と苦言を零す。
「ですが、このままでは野々本君やチャトランガの構成員が拉致され拷問されてもおかしくはありません。」
(……そうだ、相手は国際テロ組織……強硬手段に出ようと思えばいくらでも出れるんだ……)
サスペンスドラマや小説でも、テロ組織に限らず凶悪犯罪というのは想像もできないような残忍な方法や手段を用いて、事をなそうとする人がいる。
現実は小説より奇なり、なんて言葉があるんだ。
創作物よりも残忍な手段をとってきたっておかしくは無い。
「だから、あえて情報を与えるんです。チャトランガが、相手を動かしやすいように。」
そう言葉を続けた松野君の意図が蛇さんには分かったらしく、「なるほど、情報によって動きを誘導することにより、俺達も相手の行動がわかる。そうなれば対応は取りやすい。」と、腕を組んで深く1度頷いた。
(すごい『The情報戦』!って感じだなぁ……)
なんて他人事のように思ってしまう。
他人事、なんて本当はしてしまってはいけないのだが、会話の次元が違いすぎて、僕はついていけない。松野君も蛇さんも頭良いもんなぁ……
(でも、こういう情報戦でありがちなのって……)
「警察内部にテロ組織の人間がいる。」
そう、こういう展開はサスペンスドラマや小説あるあるではないだろうか。「え、あの人が裏切り者だったの!?」というシーンは親の顔よりも見た気がする。
例えば、主人公の刑事の先輩だったり、仲間だと思っていた同僚だったり。片思い相手とかも中々胸に来る展開だ。
なんて、ドラマや小説あるあるに思考を飛ばしていたら、零れそうなくらい目を見開いてこちらを見てくる朝日さんと目が合った。
「……そんな、『弓の射手』の情報は公安で止まっているはず……つまり、内通者は公安に……!?」
(……え、なんの話???)

