僕、芝崎汪はスマートフォンの前で唸っていた。
かれこれ2時間くらい唸っている。
画面は既に蛇さんの連絡先が開かれており、後は通話ボタンをタップするだなのだが、僕はなかなかタップ出来ずにいた。
(確証はないんだけど……でも国際テロ組織ってなったら本当にやばい人たちだし……もし本当に本人なら困るし……でもなぁ……)
そもそも何て伝えればいいのか分からない。
チャトランガと警察が追いかけている国際テロ組織の交渉人と思われる人間とチェスしてました?
絶対、間違いなく、ほぼ確実に怒られるやつ。
(でも、一応公安の協力者?だかになってるみたいだし、僕はチャトランガのボスだし……うぅっ、むしろ今チャトランガって何してるの……??)
ここ数日、テストとチェスをしていた記憶しかない。
監視されてるから云々って話を蛇さんと三叉槍さんがしているのを聞いたので、あの廃工場での集会以降、拠点には集まらず基本三日月さんが作ったこの連絡用のスマートフォンのみで連絡を取りあっている状態だ。
(あ、そうだ、先に三日月さんに頼めばいいのでは??)
確か、三日月さんはサイバー系が担当のはず。
何とか防犯カメラの映像等が手に入れば、以前野々本君と接触した人と同一人物か、画像の顔認証で確かめることが出来るのではないだろうか。
(別人なら別人だったって事で、杞憂でしたね、で終わるし……うん、そうしよう!)
仮に同一人物だったら諦めて大人しく怒られよう。
(えーと、〇〇公園にいた人で、僕とチェスした人を調べて欲しいです、防犯カメラに映っているはずです……でいいかな?)
ポチポチと打ちながら誤字がないか、変な勘違いを誘発しないかを確認しながら、送信ボタンをタップする。
「あ、今日の夕方って入れるの忘れた。」
慌てて「今日の夕方にチェスした人です!」と追加でメッセージを送ろうとするも、それより先に、三日月さんの「承知いたしました!お任せください!」という返信が来てしまった。
(まあ、どうせ調べるとしたら頼んだ日の今日の分位だろうし……伝わってるならいいか。別に追加で送らなくても。)
と、今打ったばかりの文字をポチポチ消していく。
(……あれ?もしかして僕、普通にハッキングお願いしちゃった……?)
さらりとお願いしてしまったが、とんでもない事を頼んでしまったのでは、と今更ながらに気づく。
確かに反社会組織だけど。反社会組織だけどさ!今更かもしれないけど!!
(うわー!!僕のせいで三日月さんが捕まったりしたらどうしよう!?)
意味もなくスマートフォンを持ったり置いたりしながら、自室の中をウロウロ歩き回る。
何より、犯罪行為を頼むことに違和感を持っていなかった自分が恐ろしい。
(いや、でも、僕たちの立ち位置って今公安の協力者だし……違法捜査ってことでギリギリ見逃してもらえるかな……?)
国際テロ組織の情報は、公安でもあまりわかっていないと、この前廃工場で松野君が言っていた。それなら仮に同一人物じゃなかったとしても、情報確認の一端だった、で頑張れば通せるような気がする。
(でもそうなると結果が出てから言うより、予め伝えておいた方がいいのかな……?)
公安の人が知らないままだと結局は捜査のためという言い分も通らなくなってしまう。
(えぇっと、公安の人に話を通すには……太鼓さんに連絡すればいいの……?でも部署違うよね?やっぱり蛇さん??)
連絡先一覧にある幹部のアイコン達を親指がウロウロと彷徨う。
結局、余計に分からなくなってきてしまったので最終的に全員に「公安と話すための準備をお願いします。」と一斉に送っておいた。
それぞれから「承知いたしました。」と返事が来る中、蛇さんからは更に「明日の午後23時。前回と同じ〇〇廃工場で落ち合う事が決まりました。」とのメッセージが送られてきた。
(あ、蛇さんが公安と連絡取れるんだ……じゃあ、蛇さんだけに送ればよかったなぁ。)
なんて思いながら「ありがとうございます。」と送っておく。
次から公安にアポイントメントを取りたい時には、蛇さんに直接連絡しよう。
そう思いながら、僕は連絡用のスマートフォンをベッドの枕元に置いて、入浴の準備を始めた。
***
そして迎えた次の日の夜。
三日月さんのハッキングについての話をするだけのつもりが、幹部が勢揃いし、何だか壮大な会議が始まろうとしているかのようになってしまっていた。
別に違法捜査ってことにして、見逃して欲しいなぁって話だけなのに……
「それで、話というのは?」
そう、口火を切ったのは便宜上『朝日』と呼ばれる公安の人。僕たちチャトランガが協力者関係を結んでいるあの刑事さんだ。
「シヴァ様が交渉人『ヴァジュラ』、そして『弓の射手』のボスと思われる人物と接触しました。」
(なんて???)
こちらをご覧ください、とノートパソコンの画面を見せた三日月さん。
交渉人、というのはもしかしたらとは思っていたけれど、ボスって誰??
しかも僕は交渉人の人の名前をバフダーラ、と聞いていたのに偽名だったらしい。
全員がパソコンを覗き込む中、バフダーラという偽名を名乗っていたヴァジュラさんと、一緒に映っていたのは
(……え……ルドさん……?)
テスト前、ヴァジュラさんと同じ公園で出会った、ルドさんと名乗る青い瞳を持つ人だった。
かれこれ2時間くらい唸っている。
画面は既に蛇さんの連絡先が開かれており、後は通話ボタンをタップするだなのだが、僕はなかなかタップ出来ずにいた。
(確証はないんだけど……でも国際テロ組織ってなったら本当にやばい人たちだし……もし本当に本人なら困るし……でもなぁ……)
そもそも何て伝えればいいのか分からない。
チャトランガと警察が追いかけている国際テロ組織の交渉人と思われる人間とチェスしてました?
絶対、間違いなく、ほぼ確実に怒られるやつ。
(でも、一応公安の協力者?だかになってるみたいだし、僕はチャトランガのボスだし……うぅっ、むしろ今チャトランガって何してるの……??)
ここ数日、テストとチェスをしていた記憶しかない。
監視されてるから云々って話を蛇さんと三叉槍さんがしているのを聞いたので、あの廃工場での集会以降、拠点には集まらず基本三日月さんが作ったこの連絡用のスマートフォンのみで連絡を取りあっている状態だ。
(あ、そうだ、先に三日月さんに頼めばいいのでは??)
確か、三日月さんはサイバー系が担当のはず。
何とか防犯カメラの映像等が手に入れば、以前野々本君と接触した人と同一人物か、画像の顔認証で確かめることが出来るのではないだろうか。
(別人なら別人だったって事で、杞憂でしたね、で終わるし……うん、そうしよう!)
仮に同一人物だったら諦めて大人しく怒られよう。
(えーと、〇〇公園にいた人で、僕とチェスした人を調べて欲しいです、防犯カメラに映っているはずです……でいいかな?)
ポチポチと打ちながら誤字がないか、変な勘違いを誘発しないかを確認しながら、送信ボタンをタップする。
「あ、今日の夕方って入れるの忘れた。」
慌てて「今日の夕方にチェスした人です!」と追加でメッセージを送ろうとするも、それより先に、三日月さんの「承知いたしました!お任せください!」という返信が来てしまった。
(まあ、どうせ調べるとしたら頼んだ日の今日の分位だろうし……伝わってるならいいか。別に追加で送らなくても。)
と、今打ったばかりの文字をポチポチ消していく。
(……あれ?もしかして僕、普通にハッキングお願いしちゃった……?)
さらりとお願いしてしまったが、とんでもない事を頼んでしまったのでは、と今更ながらに気づく。
確かに反社会組織だけど。反社会組織だけどさ!今更かもしれないけど!!
(うわー!!僕のせいで三日月さんが捕まったりしたらどうしよう!?)
意味もなくスマートフォンを持ったり置いたりしながら、自室の中をウロウロ歩き回る。
何より、犯罪行為を頼むことに違和感を持っていなかった自分が恐ろしい。
(いや、でも、僕たちの立ち位置って今公安の協力者だし……違法捜査ってことでギリギリ見逃してもらえるかな……?)
国際テロ組織の情報は、公安でもあまりわかっていないと、この前廃工場で松野君が言っていた。それなら仮に同一人物じゃなかったとしても、情報確認の一端だった、で頑張れば通せるような気がする。
(でもそうなると結果が出てから言うより、予め伝えておいた方がいいのかな……?)
公安の人が知らないままだと結局は捜査のためという言い分も通らなくなってしまう。
(えぇっと、公安の人に話を通すには……太鼓さんに連絡すればいいの……?でも部署違うよね?やっぱり蛇さん??)
連絡先一覧にある幹部のアイコン達を親指がウロウロと彷徨う。
結局、余計に分からなくなってきてしまったので最終的に全員に「公安と話すための準備をお願いします。」と一斉に送っておいた。
それぞれから「承知いたしました。」と返事が来る中、蛇さんからは更に「明日の午後23時。前回と同じ〇〇廃工場で落ち合う事が決まりました。」とのメッセージが送られてきた。
(あ、蛇さんが公安と連絡取れるんだ……じゃあ、蛇さんだけに送ればよかったなぁ。)
なんて思いながら「ありがとうございます。」と送っておく。
次から公安にアポイントメントを取りたい時には、蛇さんに直接連絡しよう。
そう思いながら、僕は連絡用のスマートフォンをベッドの枕元に置いて、入浴の準備を始めた。
***
そして迎えた次の日の夜。
三日月さんのハッキングについての話をするだけのつもりが、幹部が勢揃いし、何だか壮大な会議が始まろうとしているかのようになってしまっていた。
別に違法捜査ってことにして、見逃して欲しいなぁって話だけなのに……
「それで、話というのは?」
そう、口火を切ったのは便宜上『朝日』と呼ばれる公安の人。僕たちチャトランガが協力者関係を結んでいるあの刑事さんだ。
「シヴァ様が交渉人『ヴァジュラ』、そして『弓の射手』のボスと思われる人物と接触しました。」
(なんて???)
こちらをご覧ください、とノートパソコンの画面を見せた三日月さん。
交渉人、というのはもしかしたらとは思っていたけれど、ボスって誰??
しかも僕は交渉人の人の名前をバフダーラ、と聞いていたのに偽名だったらしい。
全員がパソコンを覗き込む中、バフダーラという偽名を名乗っていたヴァジュラさんと、一緒に映っていたのは
(……え……ルドさん……?)
テスト前、ヴァジュラさんと同じ公園で出会った、ルドさんと名乗る青い瞳を持つ人だった。

