じっとりとまとわりつく暑さの中、有名コーヒーチェーン店のフラッペチーノを片手に、公園のベンチでため息をつく。
(まさか、どこの情報屋も空振りとは……)
情報とは戦の要だ。ましてや『弓の射手』はこの国では新参者であり、ずっと水面下で動いてきた極秘組織だ。日本という新しい土地で根を伸ばすには情報という肥料が必要不可欠だというのに……
(あの情報屋がこの辺りじゃ最後の情報屋だったんだけどねぇ……)
ちょうど鳥夢高校近くを拠点に動いている情報屋。多少値が張るも、情報の正確性と、情報屋としての気構えは信頼に足るものがあった。
だが、彼の回答も「チャトランガに関しての情報は知らない。知ってても売れない。」という今までの情報屋と同じ回答だった。
私とて交渉人として裏社会を渡り歩いてきた男だ。あの手この手で情報を買おうとしたが、どの情報屋も首を縦に振らなかった。それこそ、自分が死ぬかもしれない状況であっても。
(……ま、今は下手に痕跡を残せないから誰も殺せなかったんだけど。)
情報屋を殺すというのはそれなりのリスクになる。情報屋も自分の身を守るための保険をいくつも持っているし、殺した相手の情報が情報屋同士のネットワークに流れれば、そいつはどこの情報屋からも警戒され、信憑性のある情報が買えるかどうか怪しくなる。
事に情報社会とも言われる現代社会において、それはかなりの痛手となるだろう。
ましてや『弓の射手』はまだ水面下に沈み息を潜めている期間だ。無闇矢鱈に痕跡を残す訳にはいかない。
(そうなると、独自の情報ルートを開拓する方が先になるな……)
想定よりも構成員が増えないが、それでも居ない訳では無い。
様々な年代、職種、立場の人間を取り込み、そこから情報を探らせよう。
ズズズーっと音を立てながらクリーム増し増しのフラッペチーノを吸い上げる。
普段は交渉人としての立場があるため所作に気を張っているが、今日はもうただのヴァジュラだ。多少行儀が悪くても良いだろう。
疲れた体に甘さが染みるなぁ、なんて思いながら公園の時計に視線をやった。
時刻はそろそろ午後4時を迎える頃で、私は鳥夢高校がある方角へと更に視線を移す。
そろそろ学校が終わる時間だ。流石に学校付近をうろつく訳にはいかないし、下手に近くで待ち伏せすれば、それこそ私がストーカー扱いされてしまう。
(ルドラ君と芝崎汪が接触したのはこの公園だ。話ではチェスが好きなようだし、チェスを広げていれば食いつくかもしれない。)
あくまで向こうからの接触を狙うスタンスだ。
とはいえ、ルドラ君程の頭脳を持つ人間が、そんな簡単に接触してくれるとは思えないが……
「チェス、お好きなんですか?」
(来ちゃったーーー!?)
しかも、まだ学校終わってからそんなに時間経ってないはずなのに。
無表情ながらに何処かソワソワした雰囲気で手元に広げたチェス盤を見やる芝崎汪。
余程チェスが好きらしい。だが、その様子にルドラ君のような鋭さや、異次元の聡明さを感じることない。
(まあ、顔は整っているし、存在感もそこそこあるけど……なんだろうなぁ……)
その動かない表情はクールに澄ました顔としか見えないのに、交渉人としての観察眼が彼の雰囲気は「ぽやぽやしてるよ!」と訴えてくる。いやそんな馬鹿な。
「えーと、君もチェスするのかい?」
「します。」
(食い気味じゃん。)
おかしい。ルドラ君と同じだけの頭脳を持ち、ルドラ君に己の半身とまで言わせた人物なのに。あの矢君まで認めた完璧人間のはずなのに。
(……なんかおじさん幼女を相手してる気分になるのどうして???)
相手そもそも男だし、高校生のはずなんだけどな。
やり取りが「お菓子好き?」「うん!!」の幼女にしか思えない。やだこの子誘拐されない??大丈夫??
「ルドさんの知り合いですよね。」
しかし、そんな思いもこの一言で警戒に変わった。
「知り合いですか?」と尋ねるならまだわかる。だが、この子は「知り合いですよね。」と断定してきた。
一体どこで確信を持った?
服装は一般的なカジュアルなコーディネートだ。ルドラ君と繋がるはずがない。
外国人だから?いや、それだけで断定になど至るわけが無い。
更に言えば、ルドラ君はスラブ系の顔立ちだが、私はゲルマン系民族の血が強く出た顔立ちだ。近い民族とはいえ、違う顔立ちの2人を日本人じゃないという理由で1括りにするとは考えにくい。ましてやあの鳥夢高校でトップに立つ頭脳を持った人間が、そんな括りでひとまとめにするとは思えない。
(……なるほどね、これがルドラ君が『半身』と呼ぶ頭脳……)
天才的な頭脳を持たない私には理解できないが、何か確信に至る要素が存在したのだろう。
「えーと、チェス、するかい?」
「ぜひ!」
知り合いですよね、という言葉に肯定も否定もせず、そう提案すれば、あちらはあっさりと肯定を返してきた。
それは確信しているから今更私からの返答などどうでもいいのか、それとも余程チェスが好きなのか。
(いや、多分前者なんだろうけど……)
無表情ながらに目をキラキラさせてチェス盤を眺める芝崎汪の姿に、後者に思えてならなくて、思わず目頭を押さえる。
どうしよう、やっぱり幼女に見えてくる。
「あのね、チェスしてくれるからって誰彼構わずついて行っちゃダメだからね?」
思わずそんな言葉が口から零れてしまう。
言ってることが完全に「お菓子くれるって言われてついて行っちゃダメよ」のソレだ。
しかし、芝崎汪はそれにゆっくり首を傾げて
「……どうして?」
「どうして!!?」
とんでもない返答をしてきた。思わずオウム返しに言葉を発してしまったが、この子からすれば「相手を返り討ちにすれば大丈夫」とか言う発想からなのだろうか?いや、そんな矢君みたいな発想ある?
何より長年培ってきた交渉人としての勘が「この子警戒心ないで!!」とエセ関西人になって主張してくる。
どうしよう、幼女じゃなくてペンギンの赤ちゃんかもしれない。
交渉人としての勘が中途半端に働き、尚且つ芝崎汪の勘違い属性と接触事故を起こした結果、ヴァジュラの中で庇護欲が天元突破した瞬間だった。とんでもねぇ勘違いである。
(まさか、どこの情報屋も空振りとは……)
情報とは戦の要だ。ましてや『弓の射手』はこの国では新参者であり、ずっと水面下で動いてきた極秘組織だ。日本という新しい土地で根を伸ばすには情報という肥料が必要不可欠だというのに……
(あの情報屋がこの辺りじゃ最後の情報屋だったんだけどねぇ……)
ちょうど鳥夢高校近くを拠点に動いている情報屋。多少値が張るも、情報の正確性と、情報屋としての気構えは信頼に足るものがあった。
だが、彼の回答も「チャトランガに関しての情報は知らない。知ってても売れない。」という今までの情報屋と同じ回答だった。
私とて交渉人として裏社会を渡り歩いてきた男だ。あの手この手で情報を買おうとしたが、どの情報屋も首を縦に振らなかった。それこそ、自分が死ぬかもしれない状況であっても。
(……ま、今は下手に痕跡を残せないから誰も殺せなかったんだけど。)
情報屋を殺すというのはそれなりのリスクになる。情報屋も自分の身を守るための保険をいくつも持っているし、殺した相手の情報が情報屋同士のネットワークに流れれば、そいつはどこの情報屋からも警戒され、信憑性のある情報が買えるかどうか怪しくなる。
事に情報社会とも言われる現代社会において、それはかなりの痛手となるだろう。
ましてや『弓の射手』はまだ水面下に沈み息を潜めている期間だ。無闇矢鱈に痕跡を残す訳にはいかない。
(そうなると、独自の情報ルートを開拓する方が先になるな……)
想定よりも構成員が増えないが、それでも居ない訳では無い。
様々な年代、職種、立場の人間を取り込み、そこから情報を探らせよう。
ズズズーっと音を立てながらクリーム増し増しのフラッペチーノを吸い上げる。
普段は交渉人としての立場があるため所作に気を張っているが、今日はもうただのヴァジュラだ。多少行儀が悪くても良いだろう。
疲れた体に甘さが染みるなぁ、なんて思いながら公園の時計に視線をやった。
時刻はそろそろ午後4時を迎える頃で、私は鳥夢高校がある方角へと更に視線を移す。
そろそろ学校が終わる時間だ。流石に学校付近をうろつく訳にはいかないし、下手に近くで待ち伏せすれば、それこそ私がストーカー扱いされてしまう。
(ルドラ君と芝崎汪が接触したのはこの公園だ。話ではチェスが好きなようだし、チェスを広げていれば食いつくかもしれない。)
あくまで向こうからの接触を狙うスタンスだ。
とはいえ、ルドラ君程の頭脳を持つ人間が、そんな簡単に接触してくれるとは思えないが……
「チェス、お好きなんですか?」
(来ちゃったーーー!?)
しかも、まだ学校終わってからそんなに時間経ってないはずなのに。
無表情ながらに何処かソワソワした雰囲気で手元に広げたチェス盤を見やる芝崎汪。
余程チェスが好きらしい。だが、その様子にルドラ君のような鋭さや、異次元の聡明さを感じることない。
(まあ、顔は整っているし、存在感もそこそこあるけど……なんだろうなぁ……)
その動かない表情はクールに澄ました顔としか見えないのに、交渉人としての観察眼が彼の雰囲気は「ぽやぽやしてるよ!」と訴えてくる。いやそんな馬鹿な。
「えーと、君もチェスするのかい?」
「します。」
(食い気味じゃん。)
おかしい。ルドラ君と同じだけの頭脳を持ち、ルドラ君に己の半身とまで言わせた人物なのに。あの矢君まで認めた完璧人間のはずなのに。
(……なんかおじさん幼女を相手してる気分になるのどうして???)
相手そもそも男だし、高校生のはずなんだけどな。
やり取りが「お菓子好き?」「うん!!」の幼女にしか思えない。やだこの子誘拐されない??大丈夫??
「ルドさんの知り合いですよね。」
しかし、そんな思いもこの一言で警戒に変わった。
「知り合いですか?」と尋ねるならまだわかる。だが、この子は「知り合いですよね。」と断定してきた。
一体どこで確信を持った?
服装は一般的なカジュアルなコーディネートだ。ルドラ君と繋がるはずがない。
外国人だから?いや、それだけで断定になど至るわけが無い。
更に言えば、ルドラ君はスラブ系の顔立ちだが、私はゲルマン系民族の血が強く出た顔立ちだ。近い民族とはいえ、違う顔立ちの2人を日本人じゃないという理由で1括りにするとは考えにくい。ましてやあの鳥夢高校でトップに立つ頭脳を持った人間が、そんな括りでひとまとめにするとは思えない。
(……なるほどね、これがルドラ君が『半身』と呼ぶ頭脳……)
天才的な頭脳を持たない私には理解できないが、何か確信に至る要素が存在したのだろう。
「えーと、チェス、するかい?」
「ぜひ!」
知り合いですよね、という言葉に肯定も否定もせず、そう提案すれば、あちらはあっさりと肯定を返してきた。
それは確信しているから今更私からの返答などどうでもいいのか、それとも余程チェスが好きなのか。
(いや、多分前者なんだろうけど……)
無表情ながらに目をキラキラさせてチェス盤を眺める芝崎汪の姿に、後者に思えてならなくて、思わず目頭を押さえる。
どうしよう、やっぱり幼女に見えてくる。
「あのね、チェスしてくれるからって誰彼構わずついて行っちゃダメだからね?」
思わずそんな言葉が口から零れてしまう。
言ってることが完全に「お菓子くれるって言われてついて行っちゃダメよ」のソレだ。
しかし、芝崎汪はそれにゆっくり首を傾げて
「……どうして?」
「どうして!!?」
とんでもない返答をしてきた。思わずオウム返しに言葉を発してしまったが、この子からすれば「相手を返り討ちにすれば大丈夫」とか言う発想からなのだろうか?いや、そんな矢君みたいな発想ある?
何より長年培ってきた交渉人としての勘が「この子警戒心ないで!!」とエセ関西人になって主張してくる。
どうしよう、幼女じゃなくてペンギンの赤ちゃんかもしれない。
交渉人としての勘が中途半端に働き、尚且つ芝崎汪の勘違い属性と接触事故を起こした結果、ヴァジュラの中で庇護欲が天元突破した瞬間だった。とんでもねぇ勘違いである。

