『弓の射手』。
それは世界各地の裏社会で勢力を集めつつある国際テロ組織。この腐敗した社会を壊し、新しく造り上げることを目的としている組織だ。
そんな『弓の射手』を率いるはカリスマ性とズバ抜けた頭脳を持つ、ルドラという青年。
彼の恐ろしいところはその頭脳だけではない。いざと言う時に簡単に駒を切り捨てるその残忍さ。一切躊躇うことのないその判断の速さ。
単に頭がいいだけでは『弓の射手』はそこらのテロ組織と同じようにひとつの国で騒いでは政府に潰されて終わっていただろう。
最も、我々『弓の射手』をそこら辺の有象無象と同じにされては困るが。
まあ、前置きは長くなったが、交渉人である私も実働部隊隊長である矢も、そんな残虐な一面を持つ、ルドラ君のカリスマ性に惹かれて組織に入ったわけであって、
「ふふふ、見てくださいこれ。ベストショットだと思いませんか?テスト開始10分でやることなくなってシャーペン転がしてるんですよ。」
断じて、日本人の高校生をストーカーして盗撮し、わざわざ印刷した物を眺めてニヤニヤしている変態に惹かれた訳では無い。
いや、ある意味引いてはいるけれど。
鳥夢高校2年生の芝崎とかいう少年を調べて欲しいと言われたのは数日前の話だ。あの日、いきなり外出し、何処かへ行ったかと思えば帰ってきてからずっとこんな調子で、とても気持ち悪い。
(まあ、進学校と名高い鳥夢高校のテストを10分で終わらせるなんてそりゃあ凡人に比べれば
天才なんだろうけど……)
だからといって、異端の天才とも言えるルドラ君が『自分の半身』だなどと言うほどの者だろうか。
「疑っていますね。ですが、彼は本当に私の半身ですよ。彼と私は、同じ頭脳を持ち、そしてこの腐敗した社会への不満を積もらせている。ああ、早くあの子のためにもこの社会を壊さなければ。」
そう言ってまた光悦とした表情で少年の写真を眺めるルドラ君に、肩をすくめ首を振る。
まるで初めて子供が出来た親バカみたいになっているがやってることはただのストーカー。
(ルドラ君にそんな一面があったなんて知りたくなかったかなぁ……)
なんて遠い目してコーヒーを飲もうにも味を感じない。おかしいな、結構良い豆を買ったはずなのに。
とはいえ、この社会を壊し新しい社会を造り上げるという最終目標には変わらず意欲を注いでいるようなので、そこは安心していいだろう。多分。
(……あと問題なのは……)
私はカップをソーサーへと戻し、視線をルドラ君からその横へと滑らせた。
そこにはルドラ君が撮った盗撮写真を印刷し、せっせとアルバム帳に貼り付けている矢君の姿がある。
「えーと、念の為聞くけど、矢君は何をしているのかな?」
「は?アルバム作ってんすけど。見りゃ分かるっすよね。」
「あー、うん、そうなんだけどさぁ。」
そこじゃないんだよなぁなんて内心呟きながらせっせとアルバムを作る矢君を眺める。
そもそも、矢君も最初は「どこの馬の骨ともわかんねぇやつがボスの半身だなんて認められっか!」なんて噛み付いていたのに、今やその牙はどこへやら。
「粗を徹底的に探してやる!」と初日に息巻いて出ていったかと思えば「芝崎サンはボスの半身で間違いないっす。あんな完璧人間そうはいないっすよ。」と、秒で陥落して帰ってきた。
「というか、どうしてアルバム?今どき、写真なんてスマホで見れるでしょうに。」
そう問えばルドラ君と矢君はキョトンとした顔を向けてきたかと思えば、
「データは飛ぶことがあるじゃないですか。」
「スマホ無くしたり壊れたりしたら消えるじゃないっすか。」
と、2人して平然と答えてきた。
「え、バックアップなり何なりすればいいじゃない。パソコンにコピーしておくとか。」
「それもしてありますけど??」
「保険かけすぎじゃない???」
2人して何当然なことを言っていると言わんばかりの顔をしないで欲しい。この様子だとUSBにも保存してありそうだ。
(え、これおじさんがおかしいの???)
違うよね?と自問自答してしまう。
おじさんは正常なはず。
「……そんなに2人が熱中するほどの子供かねぇ……」
スマートフォンで調査の際に手に入れた芝崎少年の写真を開く。
確かに顔は整っているし、雰囲気もある。存在感の強さは実際に見なければ何とも言えないが、写真でこれだけ存在感があるのだ。実物はもっと強いだろう。
(まあ、元々鳥夢高校の近くで活動してる情報屋と接触するつもりだったし……1度、直接確かめてみますかね。)
おっこいしょ、なんて言いながら席を立てば「ジジイみてぇ。」と矢君に言われてしまった。
「酷いなぁもう。」
なんて軽口を叩きながら、バッグを持ち、手にあったスマートフォンをしまい込む。
「少し出てくるよ。」
「ええ、君は顔が割れていますので気をつけて。とはいえ明確な証拠がないので警察は動けないでしょうけど。」
そう鼻で笑うルドラ君に「違いない。」とこちらも軽く笑う。
とはいえ、あくまで警察『は』という話。裏社会の人間に法的根拠は必要ない。
いざとなった時多少の荒事は仕方ないだろう。ついでにいい人材が入れば引き込んでしまえばいいのだし。そう思いなスーツ越しにホルスターを撫でる。
「ああ、彼に会うなら、チェスでもしてみるといいですよ。それが1番、あの子がどういう人間か分かりますから。」
「ありゃ。別にその子に会うなんて言ってないのに。」
「猿でも分かりますよ、それくらい。」
存分に確かめて来てください。と口角を釣り上げたルドラ君に相変わらずその頭脳は健在だ、と苦笑を零した。
あの子がどういう人間かわかる、とルドラ君が言ういうことは彼自身、その子とチェスを対局したということだろう。
(あれだけ規格外の頭脳を持つルドラ君とチェスをねぇ……)
しかも口振からしてルドラ君が圧勝した、という訳でも無さそうだ。
恐らく負けてもないだろうが、そこそこ相手も食らいついてきたということなのだろう。
(芝崎汪……一体どんな少年なのやら。)
疑心と期待、そして好奇心が混じりあった心境を抱えながら、私はアジトから複雑な地下通路へと下り、あたかも別のビルから出てきたように見せかけながら、この平和ボケした平凡な街へと足を踏み出した。
それは世界各地の裏社会で勢力を集めつつある国際テロ組織。この腐敗した社会を壊し、新しく造り上げることを目的としている組織だ。
そんな『弓の射手』を率いるはカリスマ性とズバ抜けた頭脳を持つ、ルドラという青年。
彼の恐ろしいところはその頭脳だけではない。いざと言う時に簡単に駒を切り捨てるその残忍さ。一切躊躇うことのないその判断の速さ。
単に頭がいいだけでは『弓の射手』はそこらのテロ組織と同じようにひとつの国で騒いでは政府に潰されて終わっていただろう。
最も、我々『弓の射手』をそこら辺の有象無象と同じにされては困るが。
まあ、前置きは長くなったが、交渉人である私も実働部隊隊長である矢も、そんな残虐な一面を持つ、ルドラ君のカリスマ性に惹かれて組織に入ったわけであって、
「ふふふ、見てくださいこれ。ベストショットだと思いませんか?テスト開始10分でやることなくなってシャーペン転がしてるんですよ。」
断じて、日本人の高校生をストーカーして盗撮し、わざわざ印刷した物を眺めてニヤニヤしている変態に惹かれた訳では無い。
いや、ある意味引いてはいるけれど。
鳥夢高校2年生の芝崎とかいう少年を調べて欲しいと言われたのは数日前の話だ。あの日、いきなり外出し、何処かへ行ったかと思えば帰ってきてからずっとこんな調子で、とても気持ち悪い。
(まあ、進学校と名高い鳥夢高校のテストを10分で終わらせるなんてそりゃあ凡人に比べれば
天才なんだろうけど……)
だからといって、異端の天才とも言えるルドラ君が『自分の半身』だなどと言うほどの者だろうか。
「疑っていますね。ですが、彼は本当に私の半身ですよ。彼と私は、同じ頭脳を持ち、そしてこの腐敗した社会への不満を積もらせている。ああ、早くあの子のためにもこの社会を壊さなければ。」
そう言ってまた光悦とした表情で少年の写真を眺めるルドラ君に、肩をすくめ首を振る。
まるで初めて子供が出来た親バカみたいになっているがやってることはただのストーカー。
(ルドラ君にそんな一面があったなんて知りたくなかったかなぁ……)
なんて遠い目してコーヒーを飲もうにも味を感じない。おかしいな、結構良い豆を買ったはずなのに。
とはいえ、この社会を壊し新しい社会を造り上げるという最終目標には変わらず意欲を注いでいるようなので、そこは安心していいだろう。多分。
(……あと問題なのは……)
私はカップをソーサーへと戻し、視線をルドラ君からその横へと滑らせた。
そこにはルドラ君が撮った盗撮写真を印刷し、せっせとアルバム帳に貼り付けている矢君の姿がある。
「えーと、念の為聞くけど、矢君は何をしているのかな?」
「は?アルバム作ってんすけど。見りゃ分かるっすよね。」
「あー、うん、そうなんだけどさぁ。」
そこじゃないんだよなぁなんて内心呟きながらせっせとアルバムを作る矢君を眺める。
そもそも、矢君も最初は「どこの馬の骨ともわかんねぇやつがボスの半身だなんて認められっか!」なんて噛み付いていたのに、今やその牙はどこへやら。
「粗を徹底的に探してやる!」と初日に息巻いて出ていったかと思えば「芝崎サンはボスの半身で間違いないっす。あんな完璧人間そうはいないっすよ。」と、秒で陥落して帰ってきた。
「というか、どうしてアルバム?今どき、写真なんてスマホで見れるでしょうに。」
そう問えばルドラ君と矢君はキョトンとした顔を向けてきたかと思えば、
「データは飛ぶことがあるじゃないですか。」
「スマホ無くしたり壊れたりしたら消えるじゃないっすか。」
と、2人して平然と答えてきた。
「え、バックアップなり何なりすればいいじゃない。パソコンにコピーしておくとか。」
「それもしてありますけど??」
「保険かけすぎじゃない???」
2人して何当然なことを言っていると言わんばかりの顔をしないで欲しい。この様子だとUSBにも保存してありそうだ。
(え、これおじさんがおかしいの???)
違うよね?と自問自答してしまう。
おじさんは正常なはず。
「……そんなに2人が熱中するほどの子供かねぇ……」
スマートフォンで調査の際に手に入れた芝崎少年の写真を開く。
確かに顔は整っているし、雰囲気もある。存在感の強さは実際に見なければ何とも言えないが、写真でこれだけ存在感があるのだ。実物はもっと強いだろう。
(まあ、元々鳥夢高校の近くで活動してる情報屋と接触するつもりだったし……1度、直接確かめてみますかね。)
おっこいしょ、なんて言いながら席を立てば「ジジイみてぇ。」と矢君に言われてしまった。
「酷いなぁもう。」
なんて軽口を叩きながら、バッグを持ち、手にあったスマートフォンをしまい込む。
「少し出てくるよ。」
「ええ、君は顔が割れていますので気をつけて。とはいえ明確な証拠がないので警察は動けないでしょうけど。」
そう鼻で笑うルドラ君に「違いない。」とこちらも軽く笑う。
とはいえ、あくまで警察『は』という話。裏社会の人間に法的根拠は必要ない。
いざとなった時多少の荒事は仕方ないだろう。ついでにいい人材が入れば引き込んでしまえばいいのだし。そう思いなスーツ越しにホルスターを撫でる。
「ああ、彼に会うなら、チェスでもしてみるといいですよ。それが1番、あの子がどういう人間か分かりますから。」
「ありゃ。別にその子に会うなんて言ってないのに。」
「猿でも分かりますよ、それくらい。」
存分に確かめて来てください。と口角を釣り上げたルドラ君に相変わらずその頭脳は健在だ、と苦笑を零した。
あの子がどういう人間かわかる、とルドラ君が言ういうことは彼自身、その子とチェスを対局したということだろう。
(あれだけ規格外の頭脳を持つルドラ君とチェスをねぇ……)
しかも口振からしてルドラ君が圧勝した、という訳でも無さそうだ。
恐らく負けてもないだろうが、そこそこ相手も食らいついてきたということなのだろう。
(芝崎汪……一体どんな少年なのやら。)
疑心と期待、そして好奇心が混じりあった心境を抱えながら、私はアジトから複雑な地下通路へと下り、あたかも別のビルから出てきたように見せかけながら、この平和ボケした平凡な街へと足を踏み出した。

