「はい。まずはこちらをご覧下さい。」

急に話を振られたのに戸惑う様子もなく、スっとタブレットを見せる(サーンプ)さんに、「え、もしかして何も知らないの僕だけ……?」と、泣きそうになる。おかしいな一応ボスのはずなのに……

***

補足を加えると、(サーンプ)は以前、芝崎ことシヴァがチャトランガの規模を確認した(※勘違い)時には既に『弓の射手』を潰す気だったと思っており、このタイミングで警察とコンタクトを取るということは協力体制を取るということですね!という安定の盲信故の解釈によってすんなり動いていただけである。

***

「すでにご存知のようですが、今この街に国際テロ組織『弓の射手』が勢力拡大のため、若者のグループに声をかけているようです。」

(いやご存知でないですねーーー!?)

国際テロ組織って何!?また知らない組織が出てきて脳内はもうパニック状態だ。

「ああ、でも青龍の長は話を蹴ったようですが。」

と淡々と付け加えられた情報に思わず野々本君がいる所をちらりと見てしまう。
何故か幹部を招集したらちゃっかり野々本君も来ていたので、こちら側には7名いる。後から来た太鼓(ダマル)さんをカウントすると8人になる。

「……チャトランガも、彼らの動向を気にしているのですね。」
「ええ、この街に害をなす存在を野放しにはできませんので。」

そうキッパリ言い切る(サーンプ)さん。その声には確かな芯があり、「なんでこの人がボスじゃないんだろ……」と、僕は遠くへ意識を飛ばしていた。

「そこで、1つ提案があります。」

そう言って、革手袋に包まれた人差し指を立てる(サーンプ)さん。

「我々と一時的に手を組みませんか。」

「は……!?」

思わずと言った具合に以前会ったことのある刑事さん……代田刑事の口から言葉が零れる。
正直僕も「えっ!?」って言いそうになった。

相手は警察組織、対してこちらは未成年で構成されていると言えど立派な反社会勢力だ。
いや、協力相手があの刑事さんたち個人だとしても、(サーンプ)さんの提案はかなり難しいものだ。

「……確かに、この街を守るという点では我々の目的は一致しています。ですが、」

と、代田刑事の隣に立つ刑事さんが重い声色で、言葉を続ける。

「それ以前に私たち警察組織があなた方を許すと思っているのですか?あなた方と組む私たち警察組織の利点は何でしょう?」

そう返答され、僕も「そうだよなぁ」と納得してしまう。正義を貫く人間からすれば、いくら義賊的な面や自警団として治安維持に役立っているとしても、法という基本的な秩序の根幹を守れていない所がある。

それでも、チャトランガのボスとして、そして他の幹部のためにも何か言わなきゃ、協力関係を結ばなきゃ、となんとか口を開こうとしたその時、

「え、でも警察って『弓の射手』の情報何も分かってないですよね。他のことも含め裏の情報網が増えるってだけでかなり利点なんじゃ……」

というあっけらかんとした松野君の台詞が飛び込んできた。

(えぇぇぇー!?松野君君そんなキャラじゃなかったじゃん!!!?)

「いや、相手にとっては駆け引きだからこれ。ズバズバ言ってどうするの。」

なんて(ナディ)さんが言った言葉は僕の耳に入ってこない。
いつの間にかあっさり反社に馴染んでしまっている松野君への衝撃が強すぎた。

「ふふっ、すみません。第三の目(アジュナ)はご存知の通り新人ですので。多少は大目に見てやってください。」

と、太鼓(ダマル)さんがフォローするも、刑事さん達の顔は険しいままだ。

流石に気まずく思ったのか「すみません……立案は得意なんですけど……」と松野君も謝罪を口にするけど立案が得意とか初めて聞いたんだけど???

(そもそもこっちは心臓吐きそうなくらい緊張してるのに皆落ち着きすぎじゃない……?)

自分よりも年下組が焦ったり戸惑ったりする様子が無くて、本当になんで自分がボスなのか分からない。
不本意だけどボスになっちゃってるのは仕方ないから街を守ろう!と決意したはずの思いが萎んでいく感覚がした。

やっぱり僕に誰かを率いるなんて向いていなかったんだ。

「まあ、そもそもあんたらが許そうが許すまいが、俺らが本当にチャトランガであり、罪を立証することが可能なのかどうかだろ。現に、アンタらは俺たちが裏の組織であることはわかっていても、何をしてどう動いていたかなんてわかっちゃいないだろ。」

「もうっ!三叉槍(トリシューラ)まで!どいつもこいつも交渉ってものを知らないのかしら!」

なんて三叉槍(トリシューラ)さんと(ナディ)さんが言い合っているが、そんなの頭に入ってこない。

「どうしよう」と「やっぱり僕なんて」という2つの気持がぐるぐると回って頭の中をかき乱す。

だって、ボクは所詮勘違いでボスになってしまっただけの凡人以下の人間で、突飛した才能もなければ頭がいい訳でもない。
そんな僕に何ができるって言うんだ。

『助けてもらったんだよ。』

ふいに、あのおばあちゃんの言葉が脳内に浮かんだ。
優しい顔に、さらに皺を深くして、

『このちゃとらんがって人達がね、助けてくれたんだよ。』

と、笑うその声が。

(……そうだ……あの言葉で、僕は……)

「この街を守る。」

いつか、チャトランガが必要とされなくなるその日までこの街を、組織を守ると、決めたんじゃないか。

(……あれ?なんで静かに……?)

ふと気づけば、この場にいる全員の視線が僕へ向いて辺りは静まり返っていた。

(うぇえ!?なんでぇ!?僕なんかポロッと言っちゃった感じ!!?)

どうしよう、何言ったんだろ、これ誤魔化せる!?と慌てふためき、何か言わなきゃ、と咄嗟に出てきた言葉は

「それ以外の利点が、今必要ですか?」

(哲学刑事シリーズ7巻86ページ16行目~~~!!!)

サスペンスオタクだとしてもこれは酷い。
咄嗟に出てくる言葉が小説の1文ってどうなの僕。

こんなの皆に「え、何言ってんのこの人?ブツブツ言ってたと思ったらいきなり小説のセリフ言ってきたんだけど」って思われるやつだ。

せっかく決意し直して意気込んだのに僕のバカ~~!と内心叫んでいると突然刑事さんがハッと何かに気づいた。

「……まさか、やつらの最初の狙いは……!!」

「ええ、弓の射手のターゲットはこの街ですよ。」

(……え、なんの話……??)



**(あとがき)**

Q、警察来てから三日月(チャーンド)と野々本喋らないけど何してるの?

A、シヴァ様見るのに忙しい