ちなみに、「そこまでですよ、太鼓(ダマル)さん。」というこのセリフ。
シヴァ様補正がかかる幹部や他の面々からすれば「おふざけはいい加減そこまでにしてくださいね。」というニュアンスに受け取られるが、実際の芝崎からすれば「いやいやいや!だめだよ!?これ以上喋っちゃダメだからね!?一応警察にバレたら終わるんだよ!反社なのうち!」みたいなニュアンスである。
温度差が酷い。


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突然声をかけてしまったので、刑事さん達に警戒されてしまった。勢いよく振り返った後、胸や腰に手を伸ばしたところで思わず身を固くするが、「おっと、物騒なものは出さないで下さいよ。」と太鼓(ダマル)さんが脅したため、2人は苦々しい顔で両手を上げた。

そんな顔で見ないで欲しい。僕も色々予想外なんだよ……

「……なんでこの場所がわかったんだ。大森が連絡をしている素振りは無かったはずだ。」

と、以前会った刑事さんが言葉を紡いだ。
それに僕はなんて答えよう、と首が傾く。
そもそも場所がわかる云々以前に、ここに集まっていたら刑事さん達がやってきたのだ。

「わかるも何も。僕たちは最初からここに居ましたよ。後から来たのはあなた方です。」

と、なんとか上手く言いたいことを伝えられたな、と思っていれば刑事さんの顔が余計に険しくなった。どうしてなの。

「あと太鼓(ダマル)さん。それしまってください。」

それ、というのは勿論拳銃のことだ。多分、本物のはず。実物をそうは見ることがないので確証はないが、さっき撃った音がしていたし。

(人質や武器の所持は早期制圧の対象になるって小説で読んだし……!!)

敵意はないということをアピールして、穏便に、なんとか切り抜けようと大して良くもない頭を回転させる。

せめて、僕がボスのシバっていうのだけでも分からないようにしないと。そうでなければ、ここにいる全員が芋づる式に幹部とばれ、この場で皆拘束される可能性だってある。

「承知しました、シヴァ様。」

(だから太鼓(ダマル)さんどうしてぇぇえええ!?)

「シヴァ……!?」
「シヴァ本人が何故ここに……!?」

案の定、刑事さん達が反応し警戒を露わにする。
もうこれはただの構成員としてこの場を乗り切るのは無理だ。どうしよう、とただでさえ混乱していた頭が掻き回される。

(えぇぇぇほんとにどうしよ~~~!?証拠がないとはいえ、任意で事情聴取とかになったら親にも連絡いくよね!?)

特別仲がいい家族というわけでもないが、決して険悪というわけでもない。いつかはそこそこいい所に就職して、高校までの面倒を見てくれた分親孝行を、と思っていたのに、事情聴取を受けたなんて内申に響く所の話じゃない!

なんて僕が慌てふためく中、

太鼓(ダマル)のマヌケ~。1番先に正体バレるなんて!」

廃材に座って足をパタパタと揺らしていた(ナディ)さんの呑気な声が響いた。

(……え、(ナディ)さんこの空気の中それ言う?メンタル強すぎじゃん……僕よりボスに向いてるよ絶対……)

(ナディ)、私はマヌケじゃありません。というかこの代田刑事がしつこすぎたんです。」

(太鼓(ダマル)さんも普通に会話し始めたーーー!?)

え、皆メンタル強すぎ……と心の中でツッコミを入れていれば、

(ナディ)さん、太鼓(ダマル)さんのせいじゃありません……僕の見通しが甘かったんです……」
「ちょっと(ナディ)第三の目(アジュナ)ちゃんをいじめないで~!」
「裏声気持ち悪っ!?てか虐めてないじゃない!べ、別に責めてないからっ!」

第三の目(アジュナ)と呼ばれた松野君ですら会話に参加し始める。
え、嘘でしょ……君だけは僕と同じ側だと思っていたのに……


ちなみに、幹部の面々が皆落ち着いているのは現状警察側と対峙するこの図こそがシヴァ様の狙いだと思っているからで、メンタル云々というよりは信仰心の賜物である。

「気がついたようですね。そう、私があっさりと幹部だと認めたことも、我々チャトランガが、今になって貴方々に接触したことも理由があります。とはいえ、シヴァ様がこの場にいらっしゃるのは予想外でしたが。」

と続けた太鼓(ダマル)の言葉も、信仰心故の湾曲した解釈の賜物である。

シヴァ様がいるイコールシヴァ様が警察の動きを先読みし待ち構えていた、つまりはこの状況を狙っていた、と太鼓(ダマル)も考えていた。そのため、チャトランガが警察と接触する事こそがシヴァ様の本当の狙いだと思い、あっさり幹部だということをバラしたのだ。

最後のシヴァ様もこの場に~の所は単に信者でもない人間にわざわざ足を自ら運んでお姿を見せるなんてシヴァ様慈悲深い!代田先輩達運がいいんですからね!その慈悲を大いに味わってください!ほらシヴァ様尊いでしょう!?という精神故である。
これは酷い。


もちろん、幹部たちの認識がそんなことになっていると知らない僕は、

「……その、理由というのは?」

というもう1人の刑事さんの質問に答えられるはずもなく

「……(サーンプ)さん。」

全てを(サーンプ)さんに丸投げした。