とはいえ、メモを置いたままにしていたのは自分だし、三日月さんは完全に善意で用意してくれたから無下にはできない。
(まあ、用意してくれたってことは皆身バレ防止策に乗り気ってことだよね。)
頑張ってプレゼンする必要がなくなっただけ、むしろラッキーなのかもしれない。
「……ありがとう、三日月さん。」
と、お礼を告げれば「有り難きお言葉!」と満面の笑みで言われた。文句なしの美少女にお礼言われているのに勘違いのせいでなんとも言えないこの複雑な気持ち。
とりあえず、三日月さんから変装用具1式の入った箱を受け取る。
僕が中身を出すのと一緒に他のメンバーも早速出して身につけ始めた。
「仮面は変声機と一緒になっていて、デザインはチェスをイメージした白黒のシンプルなものを発注しました。」
ここに小さなダイヤルがあるのでそこで変声を調整してください、と三日月さんが自分の分の仮面を持ちながら説明してくれる。適当にカチカチ回して、ほかの面々が装着するのに便乗して仮面を被ってみた。
(あ、意外と視界悪くない。)
もう少し見えにくいかと思っていたけれど、その辺もちゃんと考慮されているらしい。
次に大きめのパーカーに袖を通し、手袋を嵌める。
見た目は革手袋だが、思ったより革が固くない。何回か手を握って開いてを繰り返せば、三叉槍さんが「これ、革の割に固くないな。」と疑問を代弁してくれた。
「そうでしょ?最近、表企業で劣化しにくく、使いやすいフェイクレザーの開発を進めてて、今回試しにそれを使ってみたの。」
「ああ、あそこのかー。」
(いやどこの???)
いくつかフロント企業があるのは最近知ったけどどこで何開発してるとか全くわからないのだが?
むしろ三叉槍さんなんで直ぐにどこってわかるの??
(……僕、一応ボスなのに……いやまあお飾りみたいなもんだけどさ……)
内心ちょっと悲しいような複雑な気持ちになりながら、最後にフードをしっかりと被る。
周りには多少体格差は出るものの皆顔も髪型も、ましてや男女もパッと見検討がつかない黒づくめの集団が出来上がった。
意外とフードを被ってしまうと影になって仮面もよく見えない。
(あとは太鼓さんにも渡すだけだな。)
なんとか「来るのを待とう。」と口を開き、近くの廃材にもたれ掛かる。
そうすれば「わかりました。」との返答の後各々座ったりもたれたりしながらくつろぎ始める。
もちろん、芝崎からすれば「(太鼓さんが)来るのを待とう。」と言う意味なのだが、太鼓が動けないことを知っている幹部達は、誰が来るのか全く分かっていなかった。
それでも了承したのは「シヴァ様には何かお考えがあるんだな。」といういつもの盲信故である。
そして、この後廃工場に代田や小台といった刑事、公安、そして太鼓である大森がやって来て、太鼓の正体の追求劇が始まり、幹部は軒並み「(太鼓が警察を誘導して)来るのを待とう。」という意味だったんだな!と解釈される。
なんて悲しい勘違い。勘違いを警戒しているにもかかわらず止まらない連鎖である。
****
「お前がチャトランガ幹部太鼓だったんだな。」
と、廃工場にいきなり太鼓さんと前に会った刑事さん達が入ってきたな、と思ったら追求劇が始まって僕は動けずにいた。
いや、確かに太鼓さん来るの待ってたけど、それは身バレ防ごうねって話のためであって何かもう身バレしてるんだけど、どうしようこれ。
そう内心冷や汗ダラッダラでとにかく気配を消してその場から動けずにいる。
ちらりと蛇さん達を見ても動く気配は無い。
ちなみに蛇たちはこの状況すらシヴァが作り上げたものだと思っているので、そもそもシヴァこと芝崎が動かなければ動く気なんぞ無いのだが、もちろん芝崎はそんなこと気づいていない。
ふと、太鼓さんと目が合った。とはいえ僕は仮面をしているし黒づくめだし、気のせいかもしれないのだが、漠然と目が合っていると思った僕は「上手くシラを切ってね!」という意味を込め、僅かに頷いた。
すると、太鼓さんもほんの僅かだが頷いたのが見えたので安心したのもつかの間。何故か、太鼓さんは小台、と呼ばれた刑事さんから拳銃を奪い、牽制を込め2発床に撃ち込んだ。
(あぁぃえぁなんでぇぇええ!!!?)
こっちはもうパニック状態だ。
頷き返したのは何だったの一体!
「……随分と拳銃に手馴れてるじゃねぇか。」
と、刑事さんが険しい表情で言葉を吐く。
「これでも一応幹部なので。そこそこに訓練はしてますよ。」
そうなんてことないように太鼓さんは言葉を返すが、幹部だから訓練してるとかも聞いた事ないのだが?
ボスのはずの僕なんてまず拳銃の使い方から分からないんだけど。
組織のトップのはずなのに初耳が多すぎる。
「状況証拠にすらなり得ない証拠ばかりでしたが、まぁいいでしょう。私も詰めが甘かったのは事実ですからね。いやぁ、無意識とは何とも恐ろしい。」
と、クスクスと笑う太鼓さん。
僕の内心は大泣きである。
「微妙に使えない新人を演じるのは骨が折れましたよ。小台刑事を尾行することすら、素人感を出さなくてはいけないんですから。」
「では君が本当に……」
「ええ。私がチャトランガ幹部太鼓ですよ。おめでとうございます。よくたどり着けました。」
しかも普通に暴露した。太鼓さん自分が幹部だって暴露しちゃったよ。
(いや何してるの!!!?なんで今認めたの!!?)
僕が珍しくボスらしく皆の身バレリスクについて考えてたのに!
なんて太鼓さんの爆弾発言のあまりの衝撃に、
「そこまでですよ、太鼓さん。」
と、せっかく気配を消して動かないようにしていたというのに、つい僕は口を開いていた。
(まあ、用意してくれたってことは皆身バレ防止策に乗り気ってことだよね。)
頑張ってプレゼンする必要がなくなっただけ、むしろラッキーなのかもしれない。
「……ありがとう、三日月さん。」
と、お礼を告げれば「有り難きお言葉!」と満面の笑みで言われた。文句なしの美少女にお礼言われているのに勘違いのせいでなんとも言えないこの複雑な気持ち。
とりあえず、三日月さんから変装用具1式の入った箱を受け取る。
僕が中身を出すのと一緒に他のメンバーも早速出して身につけ始めた。
「仮面は変声機と一緒になっていて、デザインはチェスをイメージした白黒のシンプルなものを発注しました。」
ここに小さなダイヤルがあるのでそこで変声を調整してください、と三日月さんが自分の分の仮面を持ちながら説明してくれる。適当にカチカチ回して、ほかの面々が装着するのに便乗して仮面を被ってみた。
(あ、意外と視界悪くない。)
もう少し見えにくいかと思っていたけれど、その辺もちゃんと考慮されているらしい。
次に大きめのパーカーに袖を通し、手袋を嵌める。
見た目は革手袋だが、思ったより革が固くない。何回か手を握って開いてを繰り返せば、三叉槍さんが「これ、革の割に固くないな。」と疑問を代弁してくれた。
「そうでしょ?最近、表企業で劣化しにくく、使いやすいフェイクレザーの開発を進めてて、今回試しにそれを使ってみたの。」
「ああ、あそこのかー。」
(いやどこの???)
いくつかフロント企業があるのは最近知ったけどどこで何開発してるとか全くわからないのだが?
むしろ三叉槍さんなんで直ぐにどこってわかるの??
(……僕、一応ボスなのに……いやまあお飾りみたいなもんだけどさ……)
内心ちょっと悲しいような複雑な気持ちになりながら、最後にフードをしっかりと被る。
周りには多少体格差は出るものの皆顔も髪型も、ましてや男女もパッと見検討がつかない黒づくめの集団が出来上がった。
意外とフードを被ってしまうと影になって仮面もよく見えない。
(あとは太鼓さんにも渡すだけだな。)
なんとか「来るのを待とう。」と口を開き、近くの廃材にもたれ掛かる。
そうすれば「わかりました。」との返答の後各々座ったりもたれたりしながらくつろぎ始める。
もちろん、芝崎からすれば「(太鼓さんが)来るのを待とう。」と言う意味なのだが、太鼓が動けないことを知っている幹部達は、誰が来るのか全く分かっていなかった。
それでも了承したのは「シヴァ様には何かお考えがあるんだな。」といういつもの盲信故である。
そして、この後廃工場に代田や小台といった刑事、公安、そして太鼓である大森がやって来て、太鼓の正体の追求劇が始まり、幹部は軒並み「(太鼓が警察を誘導して)来るのを待とう。」という意味だったんだな!と解釈される。
なんて悲しい勘違い。勘違いを警戒しているにもかかわらず止まらない連鎖である。
****
「お前がチャトランガ幹部太鼓だったんだな。」
と、廃工場にいきなり太鼓さんと前に会った刑事さん達が入ってきたな、と思ったら追求劇が始まって僕は動けずにいた。
いや、確かに太鼓さん来るの待ってたけど、それは身バレ防ごうねって話のためであって何かもう身バレしてるんだけど、どうしようこれ。
そう内心冷や汗ダラッダラでとにかく気配を消してその場から動けずにいる。
ちらりと蛇さん達を見ても動く気配は無い。
ちなみに蛇たちはこの状況すらシヴァが作り上げたものだと思っているので、そもそもシヴァこと芝崎が動かなければ動く気なんぞ無いのだが、もちろん芝崎はそんなこと気づいていない。
ふと、太鼓さんと目が合った。とはいえ僕は仮面をしているし黒づくめだし、気のせいかもしれないのだが、漠然と目が合っていると思った僕は「上手くシラを切ってね!」という意味を込め、僅かに頷いた。
すると、太鼓さんもほんの僅かだが頷いたのが見えたので安心したのもつかの間。何故か、太鼓さんは小台、と呼ばれた刑事さんから拳銃を奪い、牽制を込め2発床に撃ち込んだ。
(あぁぃえぁなんでぇぇええ!!!?)
こっちはもうパニック状態だ。
頷き返したのは何だったの一体!
「……随分と拳銃に手馴れてるじゃねぇか。」
と、刑事さんが険しい表情で言葉を吐く。
「これでも一応幹部なので。そこそこに訓練はしてますよ。」
そうなんてことないように太鼓さんは言葉を返すが、幹部だから訓練してるとかも聞いた事ないのだが?
ボスのはずの僕なんてまず拳銃の使い方から分からないんだけど。
組織のトップのはずなのに初耳が多すぎる。
「状況証拠にすらなり得ない証拠ばかりでしたが、まぁいいでしょう。私も詰めが甘かったのは事実ですからね。いやぁ、無意識とは何とも恐ろしい。」
と、クスクスと笑う太鼓さん。
僕の内心は大泣きである。
「微妙に使えない新人を演じるのは骨が折れましたよ。小台刑事を尾行することすら、素人感を出さなくてはいけないんですから。」
「では君が本当に……」
「ええ。私がチャトランガ幹部太鼓ですよ。おめでとうございます。よくたどり着けました。」
しかも普通に暴露した。太鼓さん自分が幹部だって暴露しちゃったよ。
(いや何してるの!!!?なんで今認めたの!!?)
僕が珍しくボスらしく皆の身バレリスクについて考えてたのに!
なんて太鼓さんの爆弾発言のあまりの衝撃に、
「そこまでですよ、太鼓さん。」
と、せっかく気配を消して動かないようにしていたというのに、つい僕は口を開いていた。