そんな、と小台が言葉を漏らす。
「……この街が最初に狙われる根拠は?」
代田の問いかけに、蛇は「情報をただで渡すのは癪ですが、まあ、良いでしょう。」と肩を竦めて見せた。
「根拠はこの街に日本で最も大きな暴力団があったことです。」
「あった……猪鹿組のことか。」
「ええ、猪鹿組から、紅葉、牡丹と別れても依然勢力は変わらず存在していました。」
代田の答えに蛇は頷いて言葉を続けた。
確かに、自警団のような活動をしても裏をまとめられるほどに猪鹿組は裏社会で圧倒的な存在であった。
特にその勢力を引き継ぎつつ、裏の売買ルートを拡大し続けた紅葉組は更に規模を増し、巨悪となっていた。
「……なるほど、新参者の『弓の射手』からすれば、日本の裏社会を荒らすに邪魔な存在ですね。傘下も全て敵に回すとなると金も人もかなり必要になります。」
公安の男の言葉に、代田も「確かにな。」と同意を示す。
「だが新参者だからこそ、紅葉組を潰すじゃなく手中に収められりゃ、『弓の射手』だって動きやすく……」
そこまで言葉を続けたところで、はたと気づいた。
そうだ、『弓の射手』は新興組織。人でも資金も、これからやろうとすることを考えればいくらあったって足りないはずだ。ならば、労力やその他傘下を相手にすると考えれば、紅葉組を潰した後に待っている展開は避けたいもののはず。
「まさか、『弓の射手』は、紅葉組そのものを乗っ取るつもりで……」
「恐らくは。紅葉組ごと乗っ取るつもりだったのか、紅葉組の頭を潰して、裏社会のトップに入れ替わるつもりだったのか、今となってはわかりませんが。」
と、再び肩を竦めて見せる蛇。
今となってはわからない。それはそうだ。先に紅葉組は牡丹組との抗争で敗れ、裏ルートも徹底的に潰されているのだから。
「ま、確実に言えるのは、『弓の射手』は紅葉組やその売買ルートを乗っ取って、人手と資金源を一気に増やし操ってやるっつー算段だったんだろ。」
三叉槍の言葉に隣にいた第三の目も「まあ、日本で勢力拡大を図るなら1番手っ取り早い話ですよね。」と同意を示す。
そんなやり取りに、代田は徐に口を開いた。
「俺は、今回の紅葉組と牡丹組がぶつかったことに、疑問を持っていた……『弓の射手』に先手を打つため、お前らが先に潰したのを牡丹組がやったことにしたのか?」
ずっと代田が疑問に思っていたことだ。
代田はどうしても牡丹組が単独で紅葉組を潰したとは思えない。紅葉組に対抗するだけの規模もそうだが、タイミングも何もかもが突然だったから余計に、だ。
「あ、いえ、確かに紅葉組のことに関与はしているんですが、当時僕らも『弓の射手』の事に関してそこまでは知らなくて……」
と、第三の目が仮面越しに頬を掻く。それに同意するように三叉槍も「そうなんだよなぁー。」と軽い口調で言葉を続けた。
「シヴァ様がいきなり計画前倒しで明後日潰すって言い出すから、めっちゃ怒ってんなーとは思ってたけどな。」
(いきなり!?明後日ってことは2日間で日本最大規模の暴力団を潰す算段をつけたっていうのか!)
ギョッと代田は目をむく。
やはりチャトランガが絡んでいた、という事実だけではなく、改めてチャトランガの、シヴァという人間の規格外さを突きつけられ、警察側に動揺が走る。
「あんたらベラベラ喋りすぎ。というか単に牡丹組は同盟相手なのよ。」
と、川が呆れたように補足するが、牡丹組だって紅葉組が居なくなった今、最大規模の暴力団だ。
そこが同盟相手って明らかに未成年で構成された反社会勢力としては異常だ。
(それに、問題なのは、幹部ですら知らなかった『弓の射手』の動きを、シヴァだけが読んでいた可能性があるって事だ。)
先見の明がある所の話では無い。
公安でも追い切れないほど、『弓の射手』は水面の奥深くに沈み、息を潜め動いてきた謎のテロ組織だ。その動きを読み切るなどそれこそ神のように未来を知っているかのようだ。
「……何故、『弓の射手』の事を幹部に伝えなかったのですか?貴方は『弓の射手』に対して先手を打つために事を急いだのでしょう?」
公安の男の言葉に、静かに佇んでいたシヴァがゆっくりとこちらを見る。
そして「まさか。」と笑うように言葉を発した。
「僕は僕のために、みんなに動いてもらった……それだけですよ。『弓の射手』に関しては、そうですね……タイミングが悪かったんでしょう。」
と、少し声を震わせているのは笑いをこらえているのだろうか。
代田を含め、警察側はシヴァの得体の知れなさにぞわりと肌が粟立つ。
(多分、シヴァも確信はなかったんだ……それでも、最悪を想定して、事を急いだ。タイミングが悪いって言うのはシヴァが予測していた期間に動こうとした『弓の射手』への嫌味だろう……)
なんて代田は考えているが、ここまで全て勘違いである。
**後書き**
暫く他者の視点が続きましたが、次から主人公の視点に戻ります。
「……この街が最初に狙われる根拠は?」
代田の問いかけに、蛇は「情報をただで渡すのは癪ですが、まあ、良いでしょう。」と肩を竦めて見せた。
「根拠はこの街に日本で最も大きな暴力団があったことです。」
「あった……猪鹿組のことか。」
「ええ、猪鹿組から、紅葉、牡丹と別れても依然勢力は変わらず存在していました。」
代田の答えに蛇は頷いて言葉を続けた。
確かに、自警団のような活動をしても裏をまとめられるほどに猪鹿組は裏社会で圧倒的な存在であった。
特にその勢力を引き継ぎつつ、裏の売買ルートを拡大し続けた紅葉組は更に規模を増し、巨悪となっていた。
「……なるほど、新参者の『弓の射手』からすれば、日本の裏社会を荒らすに邪魔な存在ですね。傘下も全て敵に回すとなると金も人もかなり必要になります。」
公安の男の言葉に、代田も「確かにな。」と同意を示す。
「だが新参者だからこそ、紅葉組を潰すじゃなく手中に収められりゃ、『弓の射手』だって動きやすく……」
そこまで言葉を続けたところで、はたと気づいた。
そうだ、『弓の射手』は新興組織。人でも資金も、これからやろうとすることを考えればいくらあったって足りないはずだ。ならば、労力やその他傘下を相手にすると考えれば、紅葉組を潰した後に待っている展開は避けたいもののはず。
「まさか、『弓の射手』は、紅葉組そのものを乗っ取るつもりで……」
「恐らくは。紅葉組ごと乗っ取るつもりだったのか、紅葉組の頭を潰して、裏社会のトップに入れ替わるつもりだったのか、今となってはわかりませんが。」
と、再び肩を竦めて見せる蛇。
今となってはわからない。それはそうだ。先に紅葉組は牡丹組との抗争で敗れ、裏ルートも徹底的に潰されているのだから。
「ま、確実に言えるのは、『弓の射手』は紅葉組やその売買ルートを乗っ取って、人手と資金源を一気に増やし操ってやるっつー算段だったんだろ。」
三叉槍の言葉に隣にいた第三の目も「まあ、日本で勢力拡大を図るなら1番手っ取り早い話ですよね。」と同意を示す。
そんなやり取りに、代田は徐に口を開いた。
「俺は、今回の紅葉組と牡丹組がぶつかったことに、疑問を持っていた……『弓の射手』に先手を打つため、お前らが先に潰したのを牡丹組がやったことにしたのか?」
ずっと代田が疑問に思っていたことだ。
代田はどうしても牡丹組が単独で紅葉組を潰したとは思えない。紅葉組に対抗するだけの規模もそうだが、タイミングも何もかもが突然だったから余計に、だ。
「あ、いえ、確かに紅葉組のことに関与はしているんですが、当時僕らも『弓の射手』の事に関してそこまでは知らなくて……」
と、第三の目が仮面越しに頬を掻く。それに同意するように三叉槍も「そうなんだよなぁー。」と軽い口調で言葉を続けた。
「シヴァ様がいきなり計画前倒しで明後日潰すって言い出すから、めっちゃ怒ってんなーとは思ってたけどな。」
(いきなり!?明後日ってことは2日間で日本最大規模の暴力団を潰す算段をつけたっていうのか!)
ギョッと代田は目をむく。
やはりチャトランガが絡んでいた、という事実だけではなく、改めてチャトランガの、シヴァという人間の規格外さを突きつけられ、警察側に動揺が走る。
「あんたらベラベラ喋りすぎ。というか単に牡丹組は同盟相手なのよ。」
と、川が呆れたように補足するが、牡丹組だって紅葉組が居なくなった今、最大規模の暴力団だ。
そこが同盟相手って明らかに未成年で構成された反社会勢力としては異常だ。
(それに、問題なのは、幹部ですら知らなかった『弓の射手』の動きを、シヴァだけが読んでいた可能性があるって事だ。)
先見の明がある所の話では無い。
公安でも追い切れないほど、『弓の射手』は水面の奥深くに沈み、息を潜め動いてきた謎のテロ組織だ。その動きを読み切るなどそれこそ神のように未来を知っているかのようだ。
「……何故、『弓の射手』の事を幹部に伝えなかったのですか?貴方は『弓の射手』に対して先手を打つために事を急いだのでしょう?」
公安の男の言葉に、静かに佇んでいたシヴァがゆっくりとこちらを見る。
そして「まさか。」と笑うように言葉を発した。
「僕は僕のために、みんなに動いてもらった……それだけですよ。『弓の射手』に関しては、そうですね……タイミングが悪かったんでしょう。」
と、少し声を震わせているのは笑いをこらえているのだろうか。
代田を含め、警察側はシヴァの得体の知れなさにぞわりと肌が粟立つ。
(多分、シヴァも確信はなかったんだ……それでも、最悪を想定して、事を急いだ。タイミングが悪いって言うのはシヴァが予測していた期間に動こうとした『弓の射手』への嫌味だろう……)
なんて代田は考えているが、ここまで全て勘違いである。
**後書き**
暫く他者の視点が続きましたが、次から主人公の視点に戻ります。