警察側がチャトランガを調べればそれに反応するのは警察内部にいる幹部である太鼓(ダマル)だ。

ただ、代田が1人で動く選択をしたという事は内通者の存在が代田に悟られたと言うこと。誰が内通者かまでは特定されていないだろうが、大きく動けば特定されてしまう可能性がある。
そのため、太鼓(ダマル)は動きを制限されるし、他の幹部も下手に目立つような動きはできない。


(……こりゃ随分監視されてんな。)

もちろん、三叉槍(トリシューラ)である俺もその1人だ。

(太鼓(ダマル)からの情報じゃ目をつけられてんのは俺と第三の目(アジュナ)と野々本だったな。)

面倒なことになったな、と思いながら頭をガシガシ掻く。

監視が着いている以上、俺はチャトランガの拠点に行く訳にはいかない。
それは他の幹部の露見にも繋がるからだ。

(俺もう1週間シヴァ様に会えてねーんだけど!)

べつに仲間とワイワイ騒ぐのも嫌いじゃない。嫌いじゃないけどそれとこれとは別問題。
というかシヴァ様に会えないとか死活問題だろ。

太鼓(ダマル)は仕事の関係と言えどよく我慢できるなと思う。

ふと、チャトランガ用のスマートフォンが震え、監視の視線から画面が見えないようにポケットから取り出す。

(第三の目(アジュナ)からか。『監視がついているので今日はこのまま拠点によらず帰ります』?)

その一文に、動きが止まる。

待て、太鼓(ダマル)は動いている警察は1人だと言っていたはず。
何故監視者が俺と第三の目(アジュナ)の2人いる。

(あの太鼓(ダマル)が情報を取りこぼすとは思えねぇ……)

ならば導き出される答えは1つしかない。

(……警察以外に、俺らを監視しているやつらがいる。)

咄嗟に第三の目(アジュナ)への返信にコード000を送る。これは先日予め幹部で決めておいたコードだ。

警察以外の第三者の存在を示す緊急コード。

(……シヴァ様が新たに警戒している組織か。)

(サーンプ)の話によれば、シヴァ様が総力を確認するほどの規模を持つ組織。今はまだ闇の奥に隠れているが、監視を付けたということはそろそろ動き出すはず。
恐らく今はそのための準備段階。

準備が整えば本格的に姿を見せるつもりということだ。

(……まずいな。他の幹部もある程度目星つけられてるかもしんねぇなこりゃ。)

念の為(サーンプ)にもコード000を送る。
そして監視の目に気づかれないように、さり気なく周りを見渡した。

離れていればわからないが、近くで監視しているのは1人だけ。

他の幹部への監視がどんな体制で行われているかわからないが、恐らくまだチャトランガの全貌を掴めていないのだろう。

三叉槍(トリシューラ)である俺は己の不良グループが存在する以上、案外他の組織に属しているとは思われにくい。
最も、俺の不良グループはあくまでチャトランガの傘下にあたるが、表向きはただの不良グループだ。
それは野々本率いる青龍も同じだ。

(ピンポイントで監視に来てきるというよりは大きい不良グループに目をつけている感じか?)

誰かとコンタクトを取りたいが、直接会ってしまう訳にもいかない。
チャトランガ用のスマートフォンは三日月(チャーンド)が弄ってくれてあるので盗聴やハッキングの心配は無いが、他の奴らの監視の状況を直接確認したい。

(うーん、野々本なら接触しても問題ないか。)

一応野々本達青龍は表向きでは俺たちの不良グループの傘下に入った事になっている。
警察への声明文はだいぶ濁した言い回しだったが、1度林懐高校へ殴り込みに言ったのは有名な話だし、野々本だけに接触するなら問題は無いだろう。

(よし、今から行くか!)

いつまでの行動を制限されるのは性にあわない。
さっさと現状を確認し、打破する作戦を練らなければ。

(でないといつまで経ってもシヴァ様に会えねぇ!!)

そう、これが重要。
早く事を片して俺はシヴァ様とチェスをするんだ!

「おーし、おめーら、今から林高行くぞー!」

よく分かっていないだろうが「おー!」と元気に返事する仲間を横目に監視役がどこかへ連絡するのを確認して、俺は溜まり場から足を踏み出した。