狂犬と紅葉組若頭が開戦した一方で、牡丹組のボスは
「……やべぇ、迷っちまった。」
狂犬を追いかけていたはずが、若人衆の乱闘現場ど真ん中に立っていた。
古き良き作りの日本庭園は乱闘によってめちゃくちゃに荒らされている。
それでも収まりきらない熱気と怒声に、はぁ、とため息が出る。とりあえず向かってきたやつは沈めているが、完全に狂犬を見失ってしまった。
「あいつ一応重傷なんだよなぁ……シヴァ様が死なせるなって言ってたしこのまんま放置って訳にも行かねぇよなぁ……」
はあぁー、なんて今度は大きなため息を乱闘ど真ん中で吐き出す牡丹組のボス。
その様に、戦力の補填として来ていた野々本は、敵を沈めながら牡丹組ボスに近づいていく。
「どうせ、その狂犬ってやつは頭取りいくだろ……頭がいる場所に心当たりはないんすか。」
見取り図は全て頭に入れてあるんで、と案内を名乗り出た野々本に、ボスは「チャトランガって下っ端も優秀すぎね?」と自分の部下を思い出してなんとも言えない気持ちになった。悲しい。
可愛い部下は部下だが、いかんせん馬鹿が多いのだ。
「……いや、だが、紅葉組のボスは今病床に伏しているはず。向かうとすれば若頭か?」
「若頭……となると紅葉組頭首を守る布陣を取ると仮定すれば、頭首部屋の手前にある客間か……?」
と、敵を片足で沈めながらどんどん進み始める野々本を慌てて追いかけていく。
これがあの青龍の元ボスだと言うのだからチャトランガの規模と勢力には驚かされる。
しかもこれだけの腕とチームを持ちながらも幹部ではなく一端の構成員だと言うのだから、最初に聞いた時には開いた口が塞がらなかったものだ。
全く、末恐ろしい組織だ。
迷うことなく突き進んでいく野々本の後を追って本邸に入れば、次第に喧騒の音が大きくなってくる。どうやら野々本の予想通り、客間で狂犬と若頭がかち合ったらしい。
金属のぶつかり合う音が、罵声に混じって聞こえてくる。
「ったくわからねぇなぁ!なんでそんなにシヴァシヴァと皆群がりやがる!あんな、あんな貧相なガキに!」
「あ゛?」
「アッ。」
ちょうど聞こえた若頭のセリフに、隣から低い声が聞こえた。ただ低いのではなく、地の底から響くような「あ゛?」だった。
俺は同盟後、こいつらチャトランガの構成員がいかにシヴァ様を崇め、崇拝し、ガチファンこじらせているかを嫌と言うほど理解させられた。
ギギギ、と油の切れたブリキのようになりながら、隣の野々本へ視線を向ければ、
(怖ぇぇえーー!?)
明らかに高校生がする顔じゃない。多分サタン召喚してるこれ。おじさん泣きそう。
「……ちょっと俺行ってくるんで。」
「あ、ハイ。」
ピッと首元を親指で切る様な仕草をしたかと思えば、「オラァ!!狂犬野郎!シヴァ様の良さをわからねぇやつに何ちんたら時間かけてんだあ゛ぁ゛ん!!?」と、1枚無事に残っていた障子を蹴り飛ばしながら乱入していった。
最近の高校生怖すぎ……とぼやきながら逃げようとしていた紅葉組の下っ端を蹴り飛ばす。
(……まあ、気持ちがわからないわけでもねぇが……)
シヴァ様をよく知らないうちは訳がわからないから恐ろしく感じる。
強いやつが執着し、若者からの絶対的な支持を集めているシヴァという神の名で呼ばれるボス。尚且つその正体は儚い印象のただの高校生とくれば俺や紅葉組の若頭はその得体の知れなさに恐怖を覚える。
ただの高校生がここまでの組織を率いることは可能なのか。
ただの高校生がここまで若者に神として信仰されるものなのか。
本当に『ソレ』は、ただの高校生なのか。
大人の凝り固まった脳みそでは理解できない。不気味なのだ、存在そのものが未知数すぎて。
(……だが、俺はシヴァ様の懐に招かれた。)
それが、紅葉組若頭との決定的な違いだろう。
同盟が組まれ、チャトランガの庇護下に置かれ、痛感した。チャトランガは最早、ただのガキの半グレグループなんかじゃない。
シヴァ様は、自分の庇護下に置いたものを決して見捨てず、守り抜く。その絶対的な力と自信。
それが敵だったとしても招けば関係ないと言わんばかりに平等に扱う、その傲慢さよ。
そして今回のようにシヴァ様の逆鱗に触れた紅葉組は徹底的に潰され、薬の売買ルートも#蛇__サーンプ__#達によって全て抹消された。
まるで神罰のような容赦のなさ。
部屋の中から聞こえる断末魔をBGMに、タバコに火をつける。
フッと吹き出した煙はゆるゆると空へとたち消えた。
(……わからねぇだろぉよ、シヴァ様の庇護下の心地良さなんてよ。)
だってお前はその懐に招かれなかったのだから。
「……てか、俺ボスなのに何もしてねぇや。」
「……やべぇ、迷っちまった。」
狂犬を追いかけていたはずが、若人衆の乱闘現場ど真ん中に立っていた。
古き良き作りの日本庭園は乱闘によってめちゃくちゃに荒らされている。
それでも収まりきらない熱気と怒声に、はぁ、とため息が出る。とりあえず向かってきたやつは沈めているが、完全に狂犬を見失ってしまった。
「あいつ一応重傷なんだよなぁ……シヴァ様が死なせるなって言ってたしこのまんま放置って訳にも行かねぇよなぁ……」
はあぁー、なんて今度は大きなため息を乱闘ど真ん中で吐き出す牡丹組のボス。
その様に、戦力の補填として来ていた野々本は、敵を沈めながら牡丹組ボスに近づいていく。
「どうせ、その狂犬ってやつは頭取りいくだろ……頭がいる場所に心当たりはないんすか。」
見取り図は全て頭に入れてあるんで、と案内を名乗り出た野々本に、ボスは「チャトランガって下っ端も優秀すぎね?」と自分の部下を思い出してなんとも言えない気持ちになった。悲しい。
可愛い部下は部下だが、いかんせん馬鹿が多いのだ。
「……いや、だが、紅葉組のボスは今病床に伏しているはず。向かうとすれば若頭か?」
「若頭……となると紅葉組頭首を守る布陣を取ると仮定すれば、頭首部屋の手前にある客間か……?」
と、敵を片足で沈めながらどんどん進み始める野々本を慌てて追いかけていく。
これがあの青龍の元ボスだと言うのだからチャトランガの規模と勢力には驚かされる。
しかもこれだけの腕とチームを持ちながらも幹部ではなく一端の構成員だと言うのだから、最初に聞いた時には開いた口が塞がらなかったものだ。
全く、末恐ろしい組織だ。
迷うことなく突き進んでいく野々本の後を追って本邸に入れば、次第に喧騒の音が大きくなってくる。どうやら野々本の予想通り、客間で狂犬と若頭がかち合ったらしい。
金属のぶつかり合う音が、罵声に混じって聞こえてくる。
「ったくわからねぇなぁ!なんでそんなにシヴァシヴァと皆群がりやがる!あんな、あんな貧相なガキに!」
「あ゛?」
「アッ。」
ちょうど聞こえた若頭のセリフに、隣から低い声が聞こえた。ただ低いのではなく、地の底から響くような「あ゛?」だった。
俺は同盟後、こいつらチャトランガの構成員がいかにシヴァ様を崇め、崇拝し、ガチファンこじらせているかを嫌と言うほど理解させられた。
ギギギ、と油の切れたブリキのようになりながら、隣の野々本へ視線を向ければ、
(怖ぇぇえーー!?)
明らかに高校生がする顔じゃない。多分サタン召喚してるこれ。おじさん泣きそう。
「……ちょっと俺行ってくるんで。」
「あ、ハイ。」
ピッと首元を親指で切る様な仕草をしたかと思えば、「オラァ!!狂犬野郎!シヴァ様の良さをわからねぇやつに何ちんたら時間かけてんだあ゛ぁ゛ん!!?」と、1枚無事に残っていた障子を蹴り飛ばしながら乱入していった。
最近の高校生怖すぎ……とぼやきながら逃げようとしていた紅葉組の下っ端を蹴り飛ばす。
(……まあ、気持ちがわからないわけでもねぇが……)
シヴァ様をよく知らないうちは訳がわからないから恐ろしく感じる。
強いやつが執着し、若者からの絶対的な支持を集めているシヴァという神の名で呼ばれるボス。尚且つその正体は儚い印象のただの高校生とくれば俺や紅葉組の若頭はその得体の知れなさに恐怖を覚える。
ただの高校生がここまでの組織を率いることは可能なのか。
ただの高校生がここまで若者に神として信仰されるものなのか。
本当に『ソレ』は、ただの高校生なのか。
大人の凝り固まった脳みそでは理解できない。不気味なのだ、存在そのものが未知数すぎて。
(……だが、俺はシヴァ様の懐に招かれた。)
それが、紅葉組若頭との決定的な違いだろう。
同盟が組まれ、チャトランガの庇護下に置かれ、痛感した。チャトランガは最早、ただのガキの半グレグループなんかじゃない。
シヴァ様は、自分の庇護下に置いたものを決して見捨てず、守り抜く。その絶対的な力と自信。
それが敵だったとしても招けば関係ないと言わんばかりに平等に扱う、その傲慢さよ。
そして今回のようにシヴァ様の逆鱗に触れた紅葉組は徹底的に潰され、薬の売買ルートも#蛇__サーンプ__#達によって全て抹消された。
まるで神罰のような容赦のなさ。
部屋の中から聞こえる断末魔をBGMに、タバコに火をつける。
フッと吹き出した煙はゆるゆると空へとたち消えた。
(……わからねぇだろぉよ、シヴァ様の庇護下の心地良さなんてよ。)
だってお前はその懐に招かれなかったのだから。
「……てか、俺ボスなのに何もしてねぇや。」