「どういうことだァ!?」
紅葉組の若頭の怒鳴り声に若人衆は「わかりやせん!」とその身を縮ませた。
発端はほんの数分前。
突然牡丹組が拠点に攻め込んできたのだ。
しかもその規模はこちらと同等かそれ以上。
牡丹のやつらの勢力は衰え続け、紅葉の足元にも及ばなかったはずなのに!
どうやってそんな人数を集めたんだと叫べば、前線張っていた若人は「やけにガキが多いんスよ!!」と言い張る。
「ガキに負けてんじゃねぇ!!」とそいつを殴り飛ばしながら、爪を噛む。
シヴァだ。あいつに間違いない。
この勢力の多さも、やけに統制の取れた軍隊のような動きも、各所制圧していくその速さも。
こんな事が出来るのはあのシヴァ以外に有り得ない!
お頭は今病床に伏して役に立たない。
俺が、俺が何とかしなければ……!
床の間に置かれている日本刀を掴みあげたその時だった。
「やぁっと見つけたぜぇ!!!」
「お前は……!」
下っ端が障子と共に部屋に投げ倒されて来たのは。
「狂犬……!」
「昔のリベンジマッチと行こぜぇ!若頭ァア!」
頭など至る所に包帯を巻き、三角巾で両腕吊り下げ、明らかに重傷だというのに、目を爛々とさせその場に立ち塞がる狂犬。
そこで理解した。
狂犬は、俺と戦うために寝返ったのだと。
(そんならもう一度力で捩じ伏せちまば簡単にこっちの仲間に戻んだろぉよ。)
そうだ、あの狂犬があんなひょろっちい小僧に下るはずがない。
それに気が付き、シヴァへの得体の知れない恐怖が、僅かに減った気がした。
(……恐怖?)
ピタリと、刀にかけた手が止まる。
(俺は今、シヴァに恐怖を抱いていたと、そう思ったのか?)
ありえない。
自分は誰もが恐れる暴力団、紅葉組の若頭で次期当主だぞ。
そんな自分が、
(ただの高校生のガキを恐れてるだと……!?)
「なぁ、恐ろしいだろ?シヴァ様はよ。」
「っ!」
まるで心を見透かしたようにそう台詞を吐く狂犬を睨みつける。
認めたくない。認めたくなどあるものか。
高校生の、年端も行かないようなガキに自分が恐れを抱いているなど。
自分は紅葉組の若頭だぞ。
「俺はよォ、本気を出して貰えないどころじゃなかった。ただ腕を一振。ただ一振、シヴァ様が振っただけで、このザマさ。」
そう言って、吊り下がった腕を見せつけるように揺らす。
「まるで石ころさ!道っぱたにある石ころが邪魔だったから蹴っ飛ばしただけ!そんなもんだったんだよシヴァ様にとって俺は!」
随分と下卑した言い方だと思った。
目の前の狂犬は、過去に俺に負けた時ですら「俺は強えんだ!だから次はてめぇを負かす!」と吠えてくるような男だったはずだ。
少なくとも負けたくらいで自分を下卑するような男ではなかった。
しかもそれを、こんな光悦とした表情で語るような男ではなかった!
「俺はシヴァ様の目に映りてぇんだ……あの瞳に『人』として映りたい……神の目に映れるなんて素晴らしいと思わねぇか!?なぁ!」
(なんだこれは……目の前の『これ』はなんだ……!?)
狂犬がここを去ってからまだ1週間も経っていない。それだというのに目の前の男は全くの別人のようになっていた。
シヴァを盲信し、神の目を求める狂信者へと。
(俺と再戦するため……!?違う、こいつは……!!)
「だから、お前程度に負けてるなんて、ダメだと思うんだ俺はよォ。」
(シヴァへ勝鬨を捧げるために寝返った!! )
ガキンッと鈍い金属音がぶつかる。
踏み込んだ狂犬を斬り伏せるつもりで引き抜いた刃は、折れた腕で、ギプスで止められた。
だが、ギギギとお互いを押し攻め合うその音は金属同士のもので、俺はそれが信じらなかった。
(これは明らかにギプスの音じゃあない……!)
だが、有り得るのか?あの狂犬が、素手でなくては相手をいたぶっている気がしないと言っていたあの狂犬が!
刃が触れ、裂けた三角巾がはらりと落ちる。
そこに現れたシルバーの色にたらりと背中を嫌な汗が伝う。
「そんなに意外かぁ?俺が武器を使うのはよぉ!?」
キンッと弾かれた刃に、すぐさま距離をとり、体勢を立て直す。
狂犬の両腕に括り付けてあったのは、一対のトンファーだった。
「これは俺のための喧嘩じゃねぇんだ。シヴァ様のために、勝たなきゃいけねぇ喧嘩なんだ。」
腕自体は折れて可動域はそんなに大きくは無いはず。だが、括りつけあるトンファーは添え木の代わりを果たし、そのボロボロの腕での喧嘩を可能にした。
(そして、俺の刀を防ぐ盾の役割もしてるってわけか。)
自分の愉悦や行動原理すら捨てて、やつはシヴァのためだけに動こうとしている。
普通の人間なら意識を保っているのもやっとのはずの重傷で。
そんなザマで、この俺に勝とうとしている。
たった1人、シヴァという人間のために。
(……ああ、認めるよ。シヴァ、お前は恐ろしい。)
ただの人間が、ここまで盲信されるのか。
「全てはシヴァ様のために!!」
ガキンッと再び金属がぶつかりあった。
紅葉組の若頭の怒鳴り声に若人衆は「わかりやせん!」とその身を縮ませた。
発端はほんの数分前。
突然牡丹組が拠点に攻め込んできたのだ。
しかもその規模はこちらと同等かそれ以上。
牡丹のやつらの勢力は衰え続け、紅葉の足元にも及ばなかったはずなのに!
どうやってそんな人数を集めたんだと叫べば、前線張っていた若人は「やけにガキが多いんスよ!!」と言い張る。
「ガキに負けてんじゃねぇ!!」とそいつを殴り飛ばしながら、爪を噛む。
シヴァだ。あいつに間違いない。
この勢力の多さも、やけに統制の取れた軍隊のような動きも、各所制圧していくその速さも。
こんな事が出来るのはあのシヴァ以外に有り得ない!
お頭は今病床に伏して役に立たない。
俺が、俺が何とかしなければ……!
床の間に置かれている日本刀を掴みあげたその時だった。
「やぁっと見つけたぜぇ!!!」
「お前は……!」
下っ端が障子と共に部屋に投げ倒されて来たのは。
「狂犬……!」
「昔のリベンジマッチと行こぜぇ!若頭ァア!」
頭など至る所に包帯を巻き、三角巾で両腕吊り下げ、明らかに重傷だというのに、目を爛々とさせその場に立ち塞がる狂犬。
そこで理解した。
狂犬は、俺と戦うために寝返ったのだと。
(そんならもう一度力で捩じ伏せちまば簡単にこっちの仲間に戻んだろぉよ。)
そうだ、あの狂犬があんなひょろっちい小僧に下るはずがない。
それに気が付き、シヴァへの得体の知れない恐怖が、僅かに減った気がした。
(……恐怖?)
ピタリと、刀にかけた手が止まる。
(俺は今、シヴァに恐怖を抱いていたと、そう思ったのか?)
ありえない。
自分は誰もが恐れる暴力団、紅葉組の若頭で次期当主だぞ。
そんな自分が、
(ただの高校生のガキを恐れてるだと……!?)
「なぁ、恐ろしいだろ?シヴァ様はよ。」
「っ!」
まるで心を見透かしたようにそう台詞を吐く狂犬を睨みつける。
認めたくない。認めたくなどあるものか。
高校生の、年端も行かないようなガキに自分が恐れを抱いているなど。
自分は紅葉組の若頭だぞ。
「俺はよォ、本気を出して貰えないどころじゃなかった。ただ腕を一振。ただ一振、シヴァ様が振っただけで、このザマさ。」
そう言って、吊り下がった腕を見せつけるように揺らす。
「まるで石ころさ!道っぱたにある石ころが邪魔だったから蹴っ飛ばしただけ!そんなもんだったんだよシヴァ様にとって俺は!」
随分と下卑した言い方だと思った。
目の前の狂犬は、過去に俺に負けた時ですら「俺は強えんだ!だから次はてめぇを負かす!」と吠えてくるような男だったはずだ。
少なくとも負けたくらいで自分を下卑するような男ではなかった。
しかもそれを、こんな光悦とした表情で語るような男ではなかった!
「俺はシヴァ様の目に映りてぇんだ……あの瞳に『人』として映りたい……神の目に映れるなんて素晴らしいと思わねぇか!?なぁ!」
(なんだこれは……目の前の『これ』はなんだ……!?)
狂犬がここを去ってからまだ1週間も経っていない。それだというのに目の前の男は全くの別人のようになっていた。
シヴァを盲信し、神の目を求める狂信者へと。
(俺と再戦するため……!?違う、こいつは……!!)
「だから、お前程度に負けてるなんて、ダメだと思うんだ俺はよォ。」
(シヴァへ勝鬨を捧げるために寝返った!! )
ガキンッと鈍い金属音がぶつかる。
踏み込んだ狂犬を斬り伏せるつもりで引き抜いた刃は、折れた腕で、ギプスで止められた。
だが、ギギギとお互いを押し攻め合うその音は金属同士のもので、俺はそれが信じらなかった。
(これは明らかにギプスの音じゃあない……!)
だが、有り得るのか?あの狂犬が、素手でなくては相手をいたぶっている気がしないと言っていたあの狂犬が!
刃が触れ、裂けた三角巾がはらりと落ちる。
そこに現れたシルバーの色にたらりと背中を嫌な汗が伝う。
「そんなに意外かぁ?俺が武器を使うのはよぉ!?」
キンッと弾かれた刃に、すぐさま距離をとり、体勢を立て直す。
狂犬の両腕に括り付けてあったのは、一対のトンファーだった。
「これは俺のための喧嘩じゃねぇんだ。シヴァ様のために、勝たなきゃいけねぇ喧嘩なんだ。」
腕自体は折れて可動域はそんなに大きくは無いはず。だが、括りつけあるトンファーは添え木の代わりを果たし、そのボロボロの腕での喧嘩を可能にした。
(そして、俺の刀を防ぐ盾の役割もしてるってわけか。)
自分の愉悦や行動原理すら捨てて、やつはシヴァのためだけに動こうとしている。
普通の人間なら意識を保っているのもやっとのはずの重傷で。
そんなザマで、この俺に勝とうとしている。
たった1人、シヴァという人間のために。
(……ああ、認めるよ。シヴァ、お前は恐ろしい。)
ただの人間が、ここまで盲信されるのか。
「全てはシヴァ様のために!!」
ガキンッと再び金属がぶつかりあった。