「ちょ、ちょっと待ってください!?なんで僕が!?」
「そうよ!こんなちんちくりんな新米にシヴァ様の威厳の10000分の1でもあると思ってんの!?」

ガタリと立ち上がった松野君を同じく立ち上がった(ナディ)さんが指をさして追い打ちをかける。

いや、そもそも僕に威厳とかあるわけがないんだが?

『まあ、根本的にチャトランガの情報は限られたものしかありませんからね。突如浮上した松野翔という存在を疑うのは無理のない話です。』

と話す太鼓(ダマル)さんの言葉に、松野君がおずおずと手を上げる。

「あの……そもそもなんで僕の存在が警察に露見したんでしょうか……?自分で言うのもあれですけど、僕ホントにその辺にいるモブAですよ?」

『どうやら、野々本が君に『貴方の部下ですから』と言っているのを目撃したようです。』

(え、野々本君いつから部下になったの!?)

衝撃の事実がさらりと明かされ、思わず固まるも、周りは誰一人その事実に驚いている様子はない。
だから、ほかの人たちは野々本君が後ろに控えていることに何も言わなかったのか。

もしかして知らなかったの僕だけ?

(……これ、僕の知らないところでなんか凄い事態が発展してるんじゃ……?)

たらりと冷や汗が流れるも、もはや軌道修正をする術を僕は持ち合わせていない。
というか修正できるだけの口を持っていたら僕はチャトランガのボスになっていないと思う。

もちろん、そんな僕の心境を知らないまま、話し合いは進んでいく。もう今日は勘違いされないように喋らないでいよう、と僕は密かに決意を固めた。

「……いや、やっぱ無理ないか?俺ならまだ分かるけどさぁ。こいつ、まだヒョロっこさが抜けねぇしよ……」

ポリポリと頬を掻きながら、三叉槍(トリシューラ)さんが、画面越しに太鼓(ダマル)さんを見る。

『まあ、疑ってる本人も「ホントにこいつが?」みたいな疑い方ですけどね。それでも可能性がある以上徹底的に調べようという動きになっています。』
「……すみません、俺の行動が軽率でした。」

太鼓(ダマル)さんの情報に、スっと野々本君が頭を下げる。それに慌てた松野君が椅子から立ち上がり、

「えっ、いや、そんなこと言ったら僕が外で野々本君に話しかけたからでっ……!」

僕の責任です、すみません……と消え入るような声で謝罪をこぼす。

流石に松野君も知らない間にこんなことになっていて責任云々の話になっているのは可哀想だ。ましてや今日いきなり呼び出したのは僕だし。

(勘違いされないようにとかいってられない……!ここは先輩としてちゃんとフォローを……!)

と、松野君を庇おうと口を開こうとしたその時、

「せっかくシヴァ様が下さったチャンスを不意にしてしまい……!本当に申し訳ありません……!」

(なんて???)

松野君から飛び出た言葉に思わず固まる。僕が与えたチャンスって一体何?
なんのことを言っているのだろうか松野君は。

(松野君にまで勘違いが及んでいる……?え、嘘でしょ……?君はただのチェスの後輩だよね……?)

「違います!松野さんは悪くねぇっす!俺が、俺が浮かれて警戒を怠ったから……!シヴァ様の恩情を仇で返したようなものです……!」

と、今度は野々本君が松野君を庇うように前に出た。
いや待って、僕の恩情って何。むしろ野々本君はこの前僕の一言で連れてこられたある意味被害者だよね?

(あ、頭がパンクしそう……!)

とりあえず、2人は僕に責められていると思っている。多分そう。なんか凄い謝罪してるし。

「……僕は、気にしていない。」

なんとかそう告げるが、もっと他になかったのか僕。気にしなくていいんだよ!と気さくに言える口が欲しい。切実に。

「シヴァ様……」

「……そもそも情報が足りない。状況を把握出来ていない。だから、気にしなくていい。」

と、口下手ながらにも松野君に、気にしなくていい旨と、勘違いしていることを伝えようと頑張る。
ちなみに上記の台詞に補足を加えるなら「そもそも(僕がわかっている)情報が足りない。(今の勘違いの)状況を把握出来ていない。だから、(松野君が責任とかそういうことを)気にしなくていい。」という風になる。

今までの中では割と意思疎通が測れる台詞になったと思う。
それとなく、周りに自分が状況を把握出来ていないことも伝えられたし、(サーンプ)さん達も「あ、シバさん何も分かってないな。」と、勘違いにも気がついてくれるかもしれない。

『まあ、たしかに、松野翔が立案した作戦のおかげで警察内は捜査の方向性を失っているのが現状です。このまま犯人が起訴されれば自然と有耶無耶になるでしょう。』

(待っっって。)

松野君が立案した作戦って何?いつの間にそんなことになっていたの??
わけがわからない状況が更にわけが分からなくなってきて内心頭を抱える。もういっそこの場でチェス盤を取り出して1人でチェスしていたい。

「そうだな。シヴァ様が気にしなくていいと仰っているし、警察の動向はひとまず置いておいて、紅葉組のことを話し合おう。」

(なんかまた知らん組織出てきたーッ!?)

(サーンプ)さんが提示した次の議題が既にわからない。
何紅葉組って。この前僕を誘拐したのは牡丹組という暴力団だったはず。
どこなんだよその組。猪鹿蝶かよ。

「そもそも鹿ごときがシヴァ様に喧嘩を売るとかありえない。」
「ほんとそれ。鹿は鹿らしく、シヴァ様の椅子になっていればいいのよ。」
「あー鹿って確か南インドのシヴァ様は鹿の玉座に座って描かれてるんだっけ?」
「え、そうなんですか!?つまりシヴァ様の踏み台のために生まれた存在ってことですね!」
「あんた中々良いこというじゃない。」
『さすが幹部候補。良い信仰具合です。』

(サーンプ)さんを皮切りに、三日月(チャーンド)さん、三叉槍(トリシューラ)さんと続き、松野君がトンデモ発言をしたかと思えば(ナディ)さんと太鼓(ダマル)さんが満足気に頷きあっている。

もうわけがわからない。
何故僕が南インドにいる話になってるの……?行ったことないし……

(……ん?もしかして僕が名乗った『シバ』が、既に違う風に認識されてる……?)