そんな風に、生活安全課が総力を上げて、『チャトランガ』について調べている頃、『チャトランガ』のボスである『シヴァ』と呼ばれる少年、芝崎汪は、
(あー、これドラマも面白かったけど小説も面白いなぁ。早く続編でないかな。)
2時間サスペンスドラマの原作本を読んでいた。
自宅から高校までそれなりに距離のある彼は、長い電車での乗車時間を趣味の読書で潰すのが最近の朝の光景だ。
ちなみに、現在座席に座っているのだが、両脇には誰も座っていない。
朝の通勤通学のラッシュ時にも関わらず、誰も座らない。
乗客がいない訳ではなく、立っている人も多く居るのに、誰も座ってくれないのだ。
(……ははっ、そんなに僕の顔って怖いのかな……)
少しつり目である自覚はあるものの、ここまで毎日のように避けられていると、自分の認識よりも人相が凶悪なのかもしれない。
気づいてしまった悲しい現実に、ちょっと泣きそうである。
(うーん……怖がられているなら座らない方がいいかな。そうすれば少なくともあと5人は座れるだろうし……)
どうせ次の駅で降りるし、と座席から立ち上がる。
しかし、まだ止まっていない電車の中を歩こうとしたのがいけなかった。
ガタンっと音を立て跳ねた車内に足がふらつき思わず近くにあった『何か』を勢いよく掴む。
なんとか電車の中で盛大に転ぶなんて無様を晒さずに済み、ほっと一息吐いたものの、
(……思えばこんなところに手すりなんてあったっけ……?)
と、違和感を抱いた。
ふいに自分の掴んだ手の先を見れば見えたのは財布を持つ『誰かの腕』。
(……やばっ!咄嗟に人の手掴んじゃった……!?)
慌てて謝ろうと口を開こうとしたが、その前に
「ああっ!?それあたしの財布!?」
近くにいた女性が大声を上げたことにより、声が引っ込んでしまった。
(もしかして、落し物拾ったところを僕が邪魔した……!?)
大声を上げた女性を見れば眦を吊り上げ、大変ご立腹の様子。
(うわぁぁ……!これもしかして僕が盗もうとしたと勘違いされてるっ!?)
持ち主に渡すよりも先に腕を掴んでしまったことにより、無理やり財布を奪おうとしているように見えなくもない。
(やばい……!早くなんとかしないと……!)
と、芝崎は咄嗟に掴んだ腕の持つ財布を掴み取り、女性の方へと放った。
対応としてはなんとも雑なもので、それこそ咎められてもおかしくは無いというのに俺は「これで盗る気なんてない事を、彼女もわかってくれるはず!」とすっかり疑いを晴らしたつもりでいた。
「ーー駅。ーー駅です。お降りの方は──……」
その時タイミングよく、自身が降りる駅への到着を告げるアナウンスが響き、ちらりと先程の女性を見遣ればどうやら勘違いをわかってくれたようで、先程の恐ろしい怒気は感じられなかった。
(うん、このまま降りよう。)
周りの視線が痛いし、勘違いは解けたみたいだし、と自分の中で言い訳を重ねる。
決してコミュニケーションが苦手な訳では無い。
少し話すのが苦手なだけだ、と更に言い訳を重ねる。
「あ、あの!」
開いた電車の扉から降りようとした時、女性がふいにこちらに声をかけてきた。
もしかしたら「あんた私の財布盗もうとしたでしょ!」と言う文句だったのかもしれないが、それを真正面から言われて受け止められる自信はないし、何より誤解なので、
「……学校あるんで。」
その一言をなんとか絞り出し、電車から降りた。
直ぐに閉められた扉はロックされ、ゆっくりと電車がその巨体を進め出す。
(……あっぶなかった……)
あと少し降りるのが遅かったらそのまま次の駅に行ってしまうところだ。
そうなると学校の遅刻は確定してしまう。
遅れずに済んだことに安堵し、芝崎の凝り固まった表情筋が少し緩んだ。
(あー、これドラマも面白かったけど小説も面白いなぁ。早く続編でないかな。)
2時間サスペンスドラマの原作本を読んでいた。
自宅から高校までそれなりに距離のある彼は、長い電車での乗車時間を趣味の読書で潰すのが最近の朝の光景だ。
ちなみに、現在座席に座っているのだが、両脇には誰も座っていない。
朝の通勤通学のラッシュ時にも関わらず、誰も座らない。
乗客がいない訳ではなく、立っている人も多く居るのに、誰も座ってくれないのだ。
(……ははっ、そんなに僕の顔って怖いのかな……)
少しつり目である自覚はあるものの、ここまで毎日のように避けられていると、自分の認識よりも人相が凶悪なのかもしれない。
気づいてしまった悲しい現実に、ちょっと泣きそうである。
(うーん……怖がられているなら座らない方がいいかな。そうすれば少なくともあと5人は座れるだろうし……)
どうせ次の駅で降りるし、と座席から立ち上がる。
しかし、まだ止まっていない電車の中を歩こうとしたのがいけなかった。
ガタンっと音を立て跳ねた車内に足がふらつき思わず近くにあった『何か』を勢いよく掴む。
なんとか電車の中で盛大に転ぶなんて無様を晒さずに済み、ほっと一息吐いたものの、
(……思えばこんなところに手すりなんてあったっけ……?)
と、違和感を抱いた。
ふいに自分の掴んだ手の先を見れば見えたのは財布を持つ『誰かの腕』。
(……やばっ!咄嗟に人の手掴んじゃった……!?)
慌てて謝ろうと口を開こうとしたが、その前に
「ああっ!?それあたしの財布!?」
近くにいた女性が大声を上げたことにより、声が引っ込んでしまった。
(もしかして、落し物拾ったところを僕が邪魔した……!?)
大声を上げた女性を見れば眦を吊り上げ、大変ご立腹の様子。
(うわぁぁ……!これもしかして僕が盗もうとしたと勘違いされてるっ!?)
持ち主に渡すよりも先に腕を掴んでしまったことにより、無理やり財布を奪おうとしているように見えなくもない。
(やばい……!早くなんとかしないと……!)
と、芝崎は咄嗟に掴んだ腕の持つ財布を掴み取り、女性の方へと放った。
対応としてはなんとも雑なもので、それこそ咎められてもおかしくは無いというのに俺は「これで盗る気なんてない事を、彼女もわかってくれるはず!」とすっかり疑いを晴らしたつもりでいた。
「ーー駅。ーー駅です。お降りの方は──……」
その時タイミングよく、自身が降りる駅への到着を告げるアナウンスが響き、ちらりと先程の女性を見遣ればどうやら勘違いをわかってくれたようで、先程の恐ろしい怒気は感じられなかった。
(うん、このまま降りよう。)
周りの視線が痛いし、勘違いは解けたみたいだし、と自分の中で言い訳を重ねる。
決してコミュニケーションが苦手な訳では無い。
少し話すのが苦手なだけだ、と更に言い訳を重ねる。
「あ、あの!」
開いた電車の扉から降りようとした時、女性がふいにこちらに声をかけてきた。
もしかしたら「あんた私の財布盗もうとしたでしょ!」と言う文句だったのかもしれないが、それを真正面から言われて受け止められる自信はないし、何より誤解なので、
「……学校あるんで。」
その一言をなんとか絞り出し、電車から降りた。
直ぐに閉められた扉はロックされ、ゆっくりと電車がその巨体を進め出す。
(……あっぶなかった……)
あと少し降りるのが遅かったらそのまま次の駅に行ってしまうところだ。
そうなると学校の遅刻は確定してしまう。
遅れずに済んだことに安堵し、芝崎の凝り固まった表情筋が少し緩んだ。