イカれた戦闘狂。手に負えない狂犬。血まみれの狂人。

俺を示す言葉はそんな言葉ばかりだし、実際自分でもピッタリな表現だと思っていた。

そして、自分は圧倒的強者なのだと。

「『チャトランガ』のボスゥ?何、そいつをボコせばいいわけ?」
「ハンッ、相変わらず血の気の多いやつだな。違う違う。殺るのは牡丹組の方だ。」
「あ?牡丹のやつら?なんで??」
「今頃上手い具合に情報に食らいついてるだろーからなァ。チャトランガのボスに手を出したとこを俺たち紅葉組が助けに入る。良いシナリオだろ?」

楽しみだなァ、なんてケタケタ笑いながらタバコを吹かすのは紅葉組No.2の若頭。俺も1度喧嘩したことあるが、その時はボッコボコの返り討ちにあった。いつかまた殺りてぇなと思っている相手の1人。そんなやつが気にかけているチャトランガのボスもきっと強いはずだ。

(……サクセンとかそーゆーの俺知らねぇーし。好き勝手に暴れてもいーよな?)

そもそも戦闘狂の俺に話を持ってきた時点で、若頭だってわかっているはずだ。
もしかしたら牡丹組の戦力を警戒してのことかも知れねぇが、それこそ俺の知ったこっちゃねぇ。

(どんなやつだろーなぁ!チャトランガのボスってやつはよぉ!)

よくわからないが、紅葉組のようなデカい組が警戒するような組織だ。きっとすげー大男で強いに決まっている!


(……あ……れ?)

そう、俺は楽しみにしていたんだ。血肉の沸き立つような喧嘩が出来ると。

それなのに何故俺は病院なんかにいるんだ?

「よーぉ、戦闘狂。目ェ覚めたか。」
「おっ……まぇ……!」
「あー動くな動くな。お前あんだけ重い資材に潰されたんだぞ?普通に死にかけてんだわ。」

そう言って椅子に座るのは敵対している牡丹組のボスだった。

いや、なんで牡丹組のボスがここに!?
普通なら紅葉組か、警察がいる所だろ。もしやここは牡丹組の息のかかった病院か?

「シヴァ様が死なせんなっつーから病院運んでやったんだよ。つっても俺らじゃねーけどな。」

バカ正直に救急車呼びやがって、と牡丹組のボスがタバコを1本箱から出そうとしたところで、「ここ禁煙ですよ!」とどこからか現れたばーちゃん看護師に怒られていた。

「すんません!」じゃねぇーよ。お前ボスだろ貫禄もクソもねーじゃねぇか。

「……って……シヴァ様が……?」

そうだ、思い出した。
俺は負けた。圧倒的な力の前に負けたんだ。
多対一でもなく、ナイフや拳銃相手でもなく、あんなヒョロッこいチャトランガのボスたった1人に!

しかも、やつはその場を1歩も動かなかった。
やったことと言えば投げる動作ただ1つだ。

たったそれだけの行為で、俺は簡単に死にかけた。

たったそれだけの、シヴァ様とかいう存在の前ではたったそれっぽっちの存在に過ぎなかったんだ。

圧倒的な差。
また殺りあいたいなんて言えるレベルじゃねぇ。

まるで、人間じゃない。神を相手にしているような……

(……そうか、あれが神様なのか。)

俺みたいな存在を簡単に消してしまえる圧倒的な力を持ちながら、「死なせるな」なんて言える(※主人公はそんなこと言ってません)その高慢さと赦しを与えるそのお姿。

きっとあれが神様という存在なんだ。

「……な、ぁ……ど、したら……俺……ぁシヴァ様に……」
「あ?なんだお前またシヴァ様と戦う気か?やめとけやめとけ。お前また秒でやられて終わんぞ。」
「んな、の……わぁ、てる……ちげぇんだ……ぉれ……俺、シヴァ様の目に……映りてぇ……」
「お前……」

あのお方の目に映りたい。
何も無い、その辺の石ころのように淘汰されるんじゃなくて、シヴァ様のその目に映って、名前を呼ばれて、存在を見て欲しい。
圧倒的な差なんて埋まらなくて良い。傍に居られるならそれだけで自分が満たされるような気がした。

「……恐らく、チャトランガは近々紅葉組を潰すだろう。そこでお前に提案がある。チャトランガと同盟を組んでいる俺たち牡丹組に寝が「わかった寝返ればいいんだな任せろ」……食い気味じゃん……」

思えば紅葉組の若頭調子に乗りすぎでは??シヴァ様を思い通りに動かせるとか妄想も甚だしいわ。シヴァ様は圧倒的神様なんだぞ。

「……ま、話し決まりゃ早ぇーわ。今からお前は牡丹組の息のかかった病院に移ってもらうぞ。」
「ぉう。」



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蛇「ハッ誰かがシヴァ様信者になった気配が!」
三叉槍「マジ?流石シヴァ様じゃん。」