「どうやって縄を!?」
と、犯人さんが叫ぶが、むしろ僕が知りたい。
「……さあ?」
小首を傾げ、分からないことを全面に出せば、いくら表情筋が動かない僕でも、何も分かっていないことが相手に伝わるだろう。
ところが、反応したのは犯人さんではなく、犯人さんの向こう側にいる、血まみれの男の人だった。
「……ふーん、こんなヒョロっちいのがチャトランガのボスなんだ。」
(ヒッ……!)
本人がピンピンしている所を見ると、#塗__まみ__#れたその血は自分のではなく、誰かの返り血かもしれない。
スっと細められた目が値踏みをするようにこちらを眺め、そして「ハッ。」と鼻で笑った。
「こんな弱そうなやつがボスとか笑えんなァ。ま、いーや。なぁ、俺と勝負しようぜ。」
(……え??)
弱そうと言いながら、どうして勝負することになるのだろうか。
秒で決着つくぞ。
「……必要ありますか?勝敗なんて、(僕が負けるって)わかりきっているのに。」
むしろ、秒で死ぬ自信しかない。
そもそも、まともに喧嘩なんてしたことが無い僕に、こんな強いそうな人とどう喧嘩しろって言うんだ。
「……あ゛?んだとてめぇ。」
(なんでいきなりキレてるの!?)
本当のことを言って怒られても、僕にはどうしようも出来ない。
なぜなら僕は勘違いによってボスに祀り上げられただけの仮初のボス。
目の前の人が満足できるような喧嘩なんて奇跡が起きない限り無理だ。
(……あ、でもそうか。勘違いされてることは他の人知らないのか。)
それなら、口下手なりに弁明するしかない。痛いことも苦手だし、殴られるのも嫌だ。
「もしかして、(僕が)強いと思っているんですか?勘違いですよ、全部。」
そうなんとか言葉を紡ぐも相手の顔はどんどん険しくなっていく。
(ええぇ!?なんで!?)
もしかして信じて貰えなかったのだろうか。
でも、確かに勘違いでボスになんてなれるかよって思うのが普通か。
とはいえ、勘違いは勘違いなので、それ以上の説明のしようがない。
困ったなぁ、と思いつつ、今にも飛びかかりそうな相手から目をそらさないよう、ズボンのポケットに手を突っ込む。
何か入っていれば、と思ったけれど、そこに入っていたのはたったひとつ、飴玉だけだった。
せめて絆創膏とかならまだ役に立ったのに!ボコボコにされた後にだけど!
(これ、投げて向こうがびっくりしている間に逃げられないかな……)
突然物を投げられたら向こうもそれなりに警戒するだろう。
飴玉が当たったその一瞬の隙に走り出せば、せめて近くの交番までは逃げ込めるかもしれない。
そう思い、僕はその飴玉を思いっきり振りかぶり、
「……あ?どこ投げてんだよてめぇ。」
そして思いっきり外した。
カァンッと壁に立てかけてある資材の留め具に当たっただけで、投げつけた本人にかすりもしてない。
(ぼ、僕そんなに運動音痴だったっけ!?)
サァーッと血の気が引くのが自分でもわかった。
指先が冷たくなっていく中、引き攣る表情筋を何とか動かしながら、
「(資材になら)当たったよ。」
と、言い訳をこぼす。
だから何だって感じだよな、と自分で思わず突っ込んでしまう。
「あ?何言ってんだてめぇ。」
(ですよね!)
流石の相手も意味がわからないと顔にありありと書いてあり、いたたまれない気持ちになる。
しかし、次の瞬間。
「……は!?」
「なっ……!?」
立てかけてあった資材の留め具が弾けて、血まみれの男に向かって、金属のパイプが倒れ、男を踏み潰していく。
今度は別の意味で血の気が引いていった。
(どうしよう、これやばいんじゃ……!)
血の匂いが、潰された男のものなのか、犯人さんの仲間のものなのかもわからない。
けれども、今になってやけに鉄臭いその匂いが鼻にまとわりついた。
(……掘り起こさなきゃ……!)
このままでは死んでしまう。
そう感じ慌てて近寄り、上に折り重なった資材を退かしていく。ひとつでも重たいそれに、背筋に冷えた何かが伝う気がした。
「シヴァ様。」
(び、びっくりした……!)
突然、後ろから聞こえてきた声に、心臓が跳ねる。
「……蛇さん。」
いつから居たのか分からなかった。
けれども、犯人さんの後ろには三叉槍さんもいたので、多分僕を助けに来てくれたのだろう。
だが、今1番助けが必要なのは僕じゃない。
「手伝って。死なせる訳にはいかない。」
事故とはいえ、この歳で殺人犯にはなりたくない。
いや、大人になってもなりたくないけれど。
目の前で人が死ぬのは御免だった。
「……全く、流石シヴァ様ですね。慈悲深い。」
なんてため息着きながらも手伝ってくれる蛇さんにお礼を言いながら黙々と資材を退けていく。
三叉槍さんが呼んでくれた救急車が到着する頃には、なんとか掘り起こすことができ、意識のない彼はそのまま運ばれていった。
でも、問題は、
(この状況をどう説明するかなんだよなー!)
警察に対してもそうだが、蛇さん達にもどうやって言い訳をしよう。
と、犯人さんが叫ぶが、むしろ僕が知りたい。
「……さあ?」
小首を傾げ、分からないことを全面に出せば、いくら表情筋が動かない僕でも、何も分かっていないことが相手に伝わるだろう。
ところが、反応したのは犯人さんではなく、犯人さんの向こう側にいる、血まみれの男の人だった。
「……ふーん、こんなヒョロっちいのがチャトランガのボスなんだ。」
(ヒッ……!)
本人がピンピンしている所を見ると、#塗__まみ__#れたその血は自分のではなく、誰かの返り血かもしれない。
スっと細められた目が値踏みをするようにこちらを眺め、そして「ハッ。」と鼻で笑った。
「こんな弱そうなやつがボスとか笑えんなァ。ま、いーや。なぁ、俺と勝負しようぜ。」
(……え??)
弱そうと言いながら、どうして勝負することになるのだろうか。
秒で決着つくぞ。
「……必要ありますか?勝敗なんて、(僕が負けるって)わかりきっているのに。」
むしろ、秒で死ぬ自信しかない。
そもそも、まともに喧嘩なんてしたことが無い僕に、こんな強いそうな人とどう喧嘩しろって言うんだ。
「……あ゛?んだとてめぇ。」
(なんでいきなりキレてるの!?)
本当のことを言って怒られても、僕にはどうしようも出来ない。
なぜなら僕は勘違いによってボスに祀り上げられただけの仮初のボス。
目の前の人が満足できるような喧嘩なんて奇跡が起きない限り無理だ。
(……あ、でもそうか。勘違いされてることは他の人知らないのか。)
それなら、口下手なりに弁明するしかない。痛いことも苦手だし、殴られるのも嫌だ。
「もしかして、(僕が)強いと思っているんですか?勘違いですよ、全部。」
そうなんとか言葉を紡ぐも相手の顔はどんどん険しくなっていく。
(ええぇ!?なんで!?)
もしかして信じて貰えなかったのだろうか。
でも、確かに勘違いでボスになんてなれるかよって思うのが普通か。
とはいえ、勘違いは勘違いなので、それ以上の説明のしようがない。
困ったなぁ、と思いつつ、今にも飛びかかりそうな相手から目をそらさないよう、ズボンのポケットに手を突っ込む。
何か入っていれば、と思ったけれど、そこに入っていたのはたったひとつ、飴玉だけだった。
せめて絆創膏とかならまだ役に立ったのに!ボコボコにされた後にだけど!
(これ、投げて向こうがびっくりしている間に逃げられないかな……)
突然物を投げられたら向こうもそれなりに警戒するだろう。
飴玉が当たったその一瞬の隙に走り出せば、せめて近くの交番までは逃げ込めるかもしれない。
そう思い、僕はその飴玉を思いっきり振りかぶり、
「……あ?どこ投げてんだよてめぇ。」
そして思いっきり外した。
カァンッと壁に立てかけてある資材の留め具に当たっただけで、投げつけた本人にかすりもしてない。
(ぼ、僕そんなに運動音痴だったっけ!?)
サァーッと血の気が引くのが自分でもわかった。
指先が冷たくなっていく中、引き攣る表情筋を何とか動かしながら、
「(資材になら)当たったよ。」
と、言い訳をこぼす。
だから何だって感じだよな、と自分で思わず突っ込んでしまう。
「あ?何言ってんだてめぇ。」
(ですよね!)
流石の相手も意味がわからないと顔にありありと書いてあり、いたたまれない気持ちになる。
しかし、次の瞬間。
「……は!?」
「なっ……!?」
立てかけてあった資材の留め具が弾けて、血まみれの男に向かって、金属のパイプが倒れ、男を踏み潰していく。
今度は別の意味で血の気が引いていった。
(どうしよう、これやばいんじゃ……!)
血の匂いが、潰された男のものなのか、犯人さんの仲間のものなのかもわからない。
けれども、今になってやけに鉄臭いその匂いが鼻にまとわりついた。
(……掘り起こさなきゃ……!)
このままでは死んでしまう。
そう感じ慌てて近寄り、上に折り重なった資材を退かしていく。ひとつでも重たいそれに、背筋に冷えた何かが伝う気がした。
「シヴァ様。」
(び、びっくりした……!)
突然、後ろから聞こえてきた声に、心臓が跳ねる。
「……蛇さん。」
いつから居たのか分からなかった。
けれども、犯人さんの後ろには三叉槍さんもいたので、多分僕を助けに来てくれたのだろう。
だが、今1番助けが必要なのは僕じゃない。
「手伝って。死なせる訳にはいかない。」
事故とはいえ、この歳で殺人犯にはなりたくない。
いや、大人になってもなりたくないけれど。
目の前で人が死ぬのは御免だった。
「……全く、流石シヴァ様ですね。慈悲深い。」
なんてため息着きながらも手伝ってくれる蛇さんにお礼を言いながら黙々と資材を退けていく。
三叉槍さんが呼んでくれた救急車が到着する頃には、なんとか掘り起こすことができ、意識のない彼はそのまま運ばれていった。
でも、問題は、
(この状況をどう説明するかなんだよなー!)
警察に対してもそうだが、蛇さん達にもどうやって言い訳をしよう。