唐突だが、どうやら僕は拉致されたらしい。

らしい、というのはよく分かっていないからである。
今日も皆に避けられながら一日を過ごし、泣く泣く帰る放課後、日当たりのいいベンチにゴロリと横になった。誰もいないから出来たけど、誰かいたら普通に迷惑な学生だったと思う。
ただ、程よい日の暖かさと、体育の疲れで、つい、うっつらうっつらしてしまった。

そこまでは覚えている。
そこまでは覚えているんだが、

(……どこ、ここ?)

気づけば廃墟のような所におり、僕は椅子に括り付けられていた。
手首も後ろ手に縛られており全く動かせない。

(ええぇ……これ、どういう状況なの……!?)

正直、僕の家は普通の一般家庭なので、身代金だって大して期待できないから多分誘拐ではないと思う。

(……となると、もしかしてチャトランガ関係……?)

一応、不本意でもチャトランガのボスは僕だ。
そんな僕かそこら辺で寝落ちして拉致されるとか馬鹿すぎない?
(サーンプ)さんとかに怒られそう。

「お、なんだ、もう起きたのかガキンチョ。」

(……びっくりしたぁ……)

後ろからいきなり聞こえた声に、肩が勢いよく跳ねそうになる。
内心バクバク荒ぶる心臓を抑えながら、目線を後ろに向ければ、大柄な男が「お前がチャトランガとかいうやつのボスねぇ……」と品定めするようにジロジロと見ながらこちらに近づいてきた。

やはり、チャトランガ関係だったようで、僕が(不本意だけど)ボスということも知っているようだ。
出口は男が入ってきたであろう背後の扉のみ。

(……え?僕ここで死ぬのでは?)

逃げられるわけない。
むしろ、ビビりで喧嘩すらまともにしたことない僕にどうやって逃げろと。

ちらりと視線をその扉に向けたとき、扉の隙間に人影が過ぎった。

「……外に誰かいる……?」
「は?」

だけど、口にして思った。
チャトランガが組織だとわかっている以上、1人でこんなことしているわけないじゃん!!仲間いるよねそりゃ!

「……ちょっと待ってろ。」

(あー!すみません!)

僕の突拍子もない台詞に怪訝そうにしながらも、そう言って扉の向こうに消えた男性。
顔は怖いけど根はいい人なのかもしれない。でも、多分外にいるのは貴方の仲間だけです。無駄に動かしてすみません。

(……でも、戻ってこないってことはもしかしてあの人影、サボってた人だった?)

もしかしたら犯人さんによるお説教タイムになっているのかもしれない。
そんなことを考えながら、ボーッと薄汚れた壁を眺める。

思えば、この状況、僕にとっては好都合なのでは?

犯人さんは戻ってこないし、今のうちに胴体と椅子を縛り付けている縄さえどうにかできれば、逃げられるかもしれない。

身体を捻って、なんとか縄が緩まないかと奮闘していれば、

「……うぉっ!?」

身体を捻った反動で揺れ動いた椅子がぐらりと傾き、椅子に括られている僕は為す術なく思いっきり身体を床に叩きつけてしまった。

「いったぁ……」

打ち付けた右半身がとても痛い。
1番痛い右肩を、そっと左手で抑える。

(……ん?左手?)

僕の手は縛られていたはず。思わず自身を縛っていた縄を見れば、何ヶ所か切れ、すでに拘束する力を失っていた。

(よ、よくわかんないけどラッキー!)

このまま、犯人さんが戻ってくる前に何とかチャトランガの拠点に戻ろう。
そう立ち上がり、できる限り音を潜めて、僕は出口の扉に近づいた。

恐る恐る、扉の隙間から向こう側を覗き込む。

(できれば犯人さんたちが離れたところで説教してますように!)

そう祈りながら覗き込んだその先に見えたのは、

「何でてめぇがここにいる!?」
「あはは、やだなぁ、俺は任務だから来ただけだよ~。」

まるで、この部屋を守るように立ち塞がる、さっきの犯人さんの血まみれの背中だった。

ヒュッと喉がひきつったような音を立てる。
何が起きているのか分からなかった。

(……もしかして、あの人は僕が狙われると知って守ろうと……?)

いや、でもそれならば、僕を拘束する理由がないし、何よりチャトランガの仲間がいるアジトから引き離す理由がない。

「……(じゃあこれは)違う……(となると)恩着せ……?」

ピンチに陥ったチャトランガのボスを助けたと言う名目で、チームの株を上げたいのだろうか。それとも、チャトランガと同盟を組みたいとか?
でも、それにしては自作自演が雑すぎるし……

なんて、うんうん唸っていれば、扉の向こう側にいた血まみれの2人ががっつりこっちを見ていた。

「お前、縄で縛ってあったはずだろ!?」

(アッッ。)



**あとがき**

すみません、多忙すぎて中々更新出来ませんでした。本当にすみません…!